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DSP技術で新市場開拓


森島 泰信

(株)エーアンドデイ 取締役執行役員営業本部長

vol.2

日本計量新報 2011年9月25日 (2887号)2面掲載

パッカースケールを最適制御

パッキング速度を速くしたい

次に、パッカースケールの制御技術についてお話しします。パッカースケールというのは、計量物を計量ホッパーで計量し、袋詰めする方式の自動計量機です。穀物、粉体、樹脂ペレット、肥料、堆肥など幅広い製品の計量充填に適しています。
 従来のパッカースケールは、大投入、中投入、小投入を切り替える3段階制御方式です。ところが、お客さまから「従来よりも単位時間あたりでより多くのパッキングをしたい」という要求が出ました。

新しい制御方法を開発

そうすると、今までと同じ方法では無理です。何かよい方法はないかと考えたわけです。そこで、エー・アンド・デイは計量過程を分析して、「モデル予測制御」という新しい方法を開発しました。この方法は、3段階切替方法ではなく、ゲート速度を制御することによって投入される原料の流れを滑らかにし、高速・高精度で切り出すことができるようにしたものです。

パッカースケール

メカの挙動にあわせて最適の制御

従来の制御方法では、各段(大投入、中投入、小投入)の切り替え時、投入原料の流量に大きな差が発生するためホッパーに原料が投入された時に振動の乱れが発生し、外乱(振動荷重)となって現れます。この振動が、計量に時間がかかってしまい、誤差を生む原因の一つとなっています。
 投入初期(投入ゲートを開くとき)に発生する振動荷重は避けられませんが、投入ゲートを閉じるときに発生する振動荷重を極力抑えられれば、計量時間を短縮することができます。そこで、ゲート速度を制御して投入ゲートを閉じる速度を滑らかにすることで振動荷重を抑える方法を開発したわけです。

世界最高クラスのパッケージ能力に

 

要するに、メカの挙動にあわせて最適の制御をするということです。この方法により、世界最高のパッケージ能力を持つコントローラーが完成しました。
 このようにして、従来の1時間あたり700〜800袋のパッケージ能力から、1時間あたり約1000袋以上袋詰めできるように能力が向上したのです。


FFT解析でDSP設計

森島本部長エー・アンド・デイの測定器メーカーとしての技術と制御の技術をコンバインして、「モデル予測制御」という新しいアプローチをしたわけです。
 制御機器(コントローラー)の設計手法として、まず制御対象(パッカースケールプラント)のデータ計測・挙動の解析(FFT解析)をして、モデル化します。
 このモデルを使ってコントローラーを設計し、制御手法の解析・選定、仕様制約条件の妥当性を検討することにより、シミュレーションによる制御性能の確認をします。
 その後、制御対象モデルによるリアルタイムシミュレーターによりコントローラーの試作を評価し、最後は実機でコントローラーを評価しました。
 実機ではなくパソコンを使ったシミュレーションを活用することにより開発スピードはアップしました。また、FFT解析により、このシステムに最適なデジタルシグナルプロセッシング(DSP)設計をおこないました。その結果、性能の劣化がほとんど発生しないコントローラーになりました。

PID制御は、煩雑で信頼性に欠ける

一般的によく使われる制御手法として、PID制御があります。しかし、P(比例係数)、I(積分時間)、D(微分係数)をそれぞれ設定していくことは非常に難しくて、人の勘、経験によるところが多く、設定の繁雑さや信憑性に欠けるるところがあります。また、他社の特許に抵触する可能性もありました。

モデル予測制御で性能向上

そこで、われわれが採用した方法が「モデル予測制御」です。モデル予測制御とは、コントローラーの出力履歴から将来のパッカースケールの挙動をパッカースケールモデルを用いて予測し、最適な出力を求め、望ましい方向に早く近づける制御手法です。
 特徴として、@制御対象モデルが100%正確に制御対象(パッカースケールプラント)と一致していなくても制御が可能です。モデル誤差を許容する範囲が広いのです。A変更するパラメーターは一つのみで、設定の簡素化が可能となります。
 しかし、課題として原料の落下による振動、特にゲート開くときの大きな落下振動をそのままモデル予測制御(フィードバック制御)をしてしまうと振動荷重を制御してしまい正しい制御ができません。そこで、原料の落下による振動の除去を考慮してこのモデル予測制御手法を導入しました。
 理論としては前からあったものですが、これまでは制御するコンピューターの能力が劣っていたことと、シミュレーション技術が劣っていたので、実現できていませんでした。

先行技術はビジネスチャンスつくる

計測スピードを上げて、しかもばらつきを少なくするということは、計測器メーカーが持っている従来の基盤技術だけでは達成が不可能です。モデル予測制御技術は、かなり先行した技術です。
 大事なことは、従来にない技術をできるだけ早く投入して他社に先行することにより、ビジネスチャンスをつくっていくことです。エー・アンド・デイは、そこにチャレンジしています。

基盤技術をすべての事業に応用

われわれは、DSPによる新しい基盤技術を、自動車計測から医療分野にまで応用していきます。ここ十数年の投資の効果が出始めているということです。

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