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2007計測技術と品質管理手法(計量管理は品質工学そのものだ)
あいち適正計量管理事業所と計量士座談会

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【2】

計量法の計量管理制度ができたころは品質管理の面から企業の大きな注目を集めた

計量管理制度ができたころは、大企業はみな計量管理協会に入って品質管理を計量管理と抱き合わせてやってきた(計量制度を長期的、戦略的に練っていく人がいないために適管制度も普及発展しない)

横田俊英 適正計量管理事業所制度の実質的な内容、法制度が求めているものは、はかりの管理です。そしてその結果としての定期検査の免除です。ところが小さい事業所にははかりが1つか2つしかないかもしれません。そうすると、そういう企業が適正計量管理事業所になるメリットはまったくありません。適正計量管理といいながら計量法の関係ではこういうことしかやられていないという矛盾があります。

 一方ではISO関係のさまざまな規格が出てきています。

 日本の場合、計量管理は品質管理という形で盛り込んで、適正計量管理事業所制度(当時は計量器使用事業場)をスタートさせました。日本の主な大企業はみんな計量管理協会に入って、品質管理を計量管理と抱き合わせてやってきた、という経緯があります。

 適正計量管理事業所も簡略化した要求を満たせばなることができるようにし、そのなかで品質工学を含む計量管理という視点をうんと持たしてやってもらう、法との適合性なども一生懸命にやってもらうということをやったらよいと思います。

 現状では、計量制度を長期的、戦略的に練っていく人がいないのが現状です。計量行政の非常な弱点です。

「法で規制されているのだ」という受け止め方と「法で規制されていることだけをやればよいのだ」という受け止め方

阿知波正之(司会) 計量法で規制の対象になっている主なものは「はかり」です。JCSSの校正はそういう限定はありません。企業のなかでの計量管理というのは非常に幅が広いわけで、その一部が法で規制されているのだという受け止め方と、法で規制されていることだけをやればよいのだという受け止め方と、両方があって難しいのです。

横田俊英 計量管理のなかの一部が法で規制されているというように受け取るのが普通ですがね。

適正計量管理事業所制度の歴史

馬場文平 適正計量管理事業所制度の歴史を復習しておきたいと思います。昭和26年6月7日に計量法が公布されました。計量管理に関する制度は当時は「計量器使用事業場」制度でした。これと計量士制度が定められたわけです。

 (社)計量管理協会という団体がありました。後に他の団体と統合して今日の(社)日本計量振興協会になります。この団体が発行していた雑誌に『計量管理』というのがあります。これを見ていますと、当時の計量管理協会の理事は、鉄鋼などの当時の大会社の社長クラスが理事になっていたのがわかります。敗戦の経験から計量管理と品質管理の重要性を痛感したために、力を入れたわけです。

 計量器使用事業場制度はもともと計量器の自主管理をめざした制度です。計量器のなかには取引証明に使用する計量器がありますので、これを資格を有するものに管理させるように計量士制度が生まれました。

 この計量器使用事業場の指定を受けるためには、計量士がいることが必要になりました。私は鉄鋼関係の会社に勤めていましたが、会社の記録を繰ってみますと、国家試験ではなく認定で計量士資格を取得した人もいました。

 現在は適正計量管理事業所制度となっています。適正計量管理事業所には大きく分けて、各種計量器を使用する製造業、はかりを多く使用する流通業、の2つに分けられると思います。

 流通業で使用するはかりは取引そのものに使われます。これは非常にわかりやすいですね。大店舗で使用されているはかりは数百台に及びます。このように多くのはかりがありましても、計量管理規程で検査周期を定めておきましたら、何時検査をしてもよいわけです。非常に融通性があります。

適正計量管理事業所での量目不足はそうでない事業所の3分の1から6分の1

 また適正計量管理事業所とそうでない事業所との量目検査の結果を比較してみますと、適正計量管理事業所での量目不足はそうでない事業所での量目不足の3分の1から6分の1です。

 一方、製造業では取引証明に使われる計量器の数は非常に少ないわけです。品質管理のために使われる計量器が大部分を占めます。このため適正計量管理事業所の指定を受けてもメリットは少ないということになります。それからこの制度はISO9001規格で代替できるのではないかという意見もあります。しかし、適正計量管理事業所制度のもともとの趣旨は、自主的な計量管理の推進です。不要論にはこの認識が不足していると思います。

 適正計量管理事業所は、毎年4月末までに前年度の検査実績を報告する必要があります。適正計量管理事業所報告に特定計量器の記載欄があります。この特定計量器の数を取引証明用の計量器の数と誤解して報告している例があります。特定計量器は現在18器種あります。そしてそういう報告者に限って、適正計量管理事業所制度のメリットは少ないといっていると思います。

 大規模な事業所には数百台から数千台の特定計量器があります。これらの計量器も管理するのが計量法の趣旨でもあります。計量器の設置状況や稼働状況を把握するためにも重要な制度です。

 中国へ製品を輸出する際の事前認可をもらう際に、計測器の検査をする人に資格が求められたということがありまして、適正計量管理事業所では計量士が検査をやっているという話をしましたところ、スムーズに承認を得られたというデータがあります。

 現在は、計量士はほとんどの計測器を検査できますが、特定の計測器に関する検査能力が疑われる場合には、計量士はその計測器に特化した研修を受ければよい、と思っています。

計量管理能力の向上は人の教育と訓練に尽きる

適正計量管理事業所の制度で一番の要点は教育。教育により計量管理の意識を社員が持ち、自主管理ができるようになる(しかし計量法自体が進歩していないことは問題)

中野廣幸 適正計量管理事業所制度のメリットは何だという話がよく出ますが、計量というものは水や空気のようなものです。水や空気は常にあるものですから、ありがたいし、なくては困るものですが、通常はありがたさがわかりません。計量も同じです。

 ではどういうときに計量のありがたさがわかるかというと、計量がきちんとやられていない場合に遭遇したときです。これは愕然とするのです。何でこんなことができないのだろうと。たとえば日本の会社が中国に工場をつくって、日本の規程に乗っ取って製造するとしますね。それはきちんとできる。しかし、その先の関連会社、その先の関連会社となるともう見当がつかないのです。

 私は、適正計量管理事業所の制度で一番のポイントは教育だと思います。教育により計量管理の意識を社員が持ってくれています。社内で常識になっています。教育の成果で自主管理ができるようになっている。これは大きなメリットだと思います。ところがそれを気づいていないのです。先ほどの空気と水の話ですね。

 昨今は製品の海外生産が多くなってきました。計量法自体が進歩していないということはいろいろ問題があると思います。また、あくまで国内法ですから、海外でこれをやれというわけにはいきません。

 ですから「やめちゃえ」という意見は、ものづくりの根底を崩すことになると思います。

トヨタの計量管理を推進した川島吉男さんは、仕入れ先企業の教育をしっかりやらなければダメだと述べている

阿知波正之(司会) 今のお話に関連しますが、愛知県計量連合会では製造事業者を対象にした適正計量管理主任者講習会を毎年開催しています。講習会では法で決められている適正計量管理主任者として必要な研修を行います。それに加えて、ここ数年はトップ企業の計量管理の事例報告を盛り込んでいます。これは非常に評判がよくて、毎回70名から110名くらいの参加があります。会員以外の方も参加されます。

 参加者は適正計量管理事業所で行われている最先端の計量管理の方法を知りたいのだと思います。法で規制されてこういうことをやりなさいというのではなく、計量管理としてどういうことをやればよいのか、そういう教育が非常に重要ではないかと思います。

 自動車産業のトヨタグループというのは非常に結束が堅いわけです。それは教育の成果です。協力して教育をやりましょうということでやってきました。トヨタの計量管理を進められた川島吉男さんは、仕入れ先企業の教育をしっかりやらなければダメだ、というようなことをおっしゃって、私も当時勤めていた企業で100社程の仕入れ先企業を対象にした計測教育のシステムをつくってきました。

 要求に適した教育をするとたくさん参加します。中小企業には教育訓練の場がないというのが大きかったのです。しかし計量器の検査方法を教える教育は人気がありません。そうではなくて計量器の使い方とか、あるいはどういう計量器を選んだらよいのか、実際に計ってみて誤差があるのはどうしたらよいのか、というようなことが必要とされて、ハードではなくソフトの計量管理のほうが人気がありました。

計測担当者はその計測器ではかる商品を見ることが大事(よい商品をつくるためにはどういう計測をしたらよいのか、どういう工程ではかったらよいのか、そういうところを考えるのが適正計量管理主任者)

中野廣幸 私も適正計量管理主任者講習会の講師をやらせていただいています。先ほどから話にでていますISO10012の解説をしています。そのなかで一番皆さんにお願いするのは、計測担当者は計測器しか見てないで、もっとその計測器ではかる商品を見てください、ということです。よい商品をつくるためにはどういう計測をしたらよいのか、どういう工程ではかったらよいのか、そういうところを考えるのが適正計量管理主任者だよ、といっています。ハードルは高いですけれど、これは誰かがやらなくてはならないことなのです。不良品は最終的な検査ではねたらよいのだ、などというばかなことは、省資源が求められる今はできませんしね。計測担当者は計測器をとおして、その先の商品やお客さんのことを考えてくださいよ、ということです。

計量法改正の論議は計量器の検査と管理に関わる部分だけであった

高松宏之 計量制度の見直しに関する論議がされましたが、これは法の規制に関わる見直しですから、適正計量管理事業所制度に関しては、ほとんど計量器の検査と管理に関わる部分でしか論議されていません。KKマークの問題も出ましたが。自主的な計量管理を進めていくにはどうするのかという点では、なかなか論議されません。法令がカバーする範囲は極めて限られているのです。

 したがって計量管理の推進に関しては、実際にやっていること、うちではこうやっているという実例、こういう成果が上がっているという実例を世の中に数多く示していくことが大事ではないかと思います。

適正計量管理事業所制度とISO品質保証規格は技術的には根底で共通している

JCSS制度がISO17025を押さえてきたのは画期的なこと

阿知波正之(司会) 松下グループでは、計量自治会でそういう情報交換などは事例発表会などの形でいろいろやっていらっしゃったのではないですか。

秋山忠司 やっています。現在、松下計量自治会は生産革新本部のなかに組み込まれています。法律はよくいわれますように、時代の100分の1の歩みで、後から現実を追っかけてくるものです。

 私はJCSS制度がISO17025を押さえてきたのは画期的なことだと考えております。ただ、サーベイランスがこのなかに入ってないのが、私は疑問です。担保するものがないのです。そういう意味では、まだ日本の法律は甘いところがあると思います。

 適正計量管理事業所の制度も、そういう感じで見据えていけば、という思いはあります。

適正計量管理事業所の指定を受けている事業所であればISO9001認証を取得するのは苦労がいらない

阿知波正之(司会) ISO17025は取得するにはハードルが高いという話をよく耳にします。また、ISO9001の認証を取得する場合、適正計量管理事業所の指定を受けている事業所でしたら、特段の活動はいらないと思うのですが。これらの制度に関する議論は、両方の制度の差異ばかりを強調しているように思えます。適正計量管理事業所の国際化対応についてはいかがでしょうか。

適正計量管理事業所の指定を受けていたのでISO9001のサーベイランスに関してもさほど困ることはなかった

植手稔 松下エコシステムズはISO9001認証を取得する前から、適正計量管理事業所の指定を受けていました。ISO9001認証を取得する頃から私は計量管理に携わりました。ISO9001のサーベイランスに関してもさほど困ることはなかったですね。設備や組織などのハード的なこともそうなのですが、むしろ、ソフト的なこと管理の内容ややり方といったものが役に立ったという気がしています。

 ISO17025ですが、事業所の形態によって必要性が異なると思います。私どもの事業所では試験、校正を内部でやることはあまりありません。ですから、どちらかというとISO9001やISO10012が、私どものめざす方向かと思います。

検査や校正の客観的な保障と各種の規格を利用することの関連

検査・校正がきちんとおこなわれているという客観的な保証がこそが大事

松井博武 「当社の環境グループ長は環境計量士ですが、ほとんどの計量器は専門の校正事業者に出すので社内で検査することでの適正計量管理事業所としてのメリットはほとんど感じません」という話を聞きました。私は、検査、校正がきちんとおこなわれているという客観的な保証が必要ではないかと感じています。環境計量器にしろ、特定計量器が機器組み込みの生産設備に全部置き換わっていていますので、自分のところで計量器を管理するという意識が薄くなってきていると思います。

航空機産業とMILスタンダード

阿知波正之(司会) 航空機関係ではISO9000以前から校正の要求がされていたのではありませんか。

伊藤文人 MILスタンダードはかなり前からあります。

「総合的な管理がなされているかどうか」という方向へ

阿知波正之(司会) 歴史が古いですね。私が企業に入社した1960年代、米軍が調達する物資を生産するときにトレーサビリティが必要だといわれました。当時の計量管理の方法とMILスタンダードの要求とで苦労した点は、校正に関することです。われわれは全員参加の計量管理として現場で実際に計測器を使っている人に校正を分担させていました。それが、MILスタンダードでは校正は専門家がやらなければならないというのです。

 適正計量管理事業所でもそうですが、方法とか手段を規制する部分は少なくても良いのじゃないか、総合的な管理がなされているかどうかという方向に向かっているのかなという感じがします。

環境物質の測定に関して試験所間比較というプログラムに参加している。不確かさをきちんと確認することが大事

秋山忠司 私どもの場合は、不確かさはオペレーターを含めて確認させています。そういうことを確実に確認することをプログラムとして織り込んでいます。そうでないと不確かさが担保できませんので。ですから作業者の力量の考え方も行動特性という観点でのとらえ方をしています。座学だけでよいとは捉えていません。

 環境物質の測定などに関しても、私どもは試験所間比較というプログラムに参加して、きちんと信頼性が担保されるようにやっています。不確かさをきちんと確認することが大事です。

代検査の料金が安すぎるから適正計量管理事業所になるメリットがないように感じられる

秋山忠司 話は変わりますが、代検査の料金は安すぎるのではないですか。だから適正計量管理事業所になってもメリットがないように感じるのではないのですか。

品質工学的の視点に立つとはかりを定期検査する価値は低くなっている

阿知波正之(司会) 別の観点からいうと、つまり検査を受ける側からいうと、検査を受ける経済的な価値があるかどうかというと、計量器の信頼性がどんどん上がってきて、不具合の率が下がり、たとえば100台に1台しか不具合がでないとします。そうすると不具合を1台発見するために99台分の検査の料金をよけいに払わなければならないわけですから、そう考えると料金はを高くするのは難しいのです。もっと多く不具合がでていた時代は検査する価値が高かったのではないでしょうか。

適正計量管理事業所制度のメリットを出させる方法論として価格の問題がある

横田俊英 代検査の実施率が50%くらいだということがいわれています。定期検査が必要なはかりの全数に対してです。全数というのは行政が把握していないが実際使われているはかりを含んでいます。私も検査料金が安すぎるのじゃないかという素朴な疑問があります。

秋山忠司 適正計量管理事業所制度のメリットを出させる方法論として、価格の問題があるのではということです。

 一般の人が納得するには、問題が目に見える形で提示されないとダメです。建物の耐震偽装の問題でも、目に見える形ではないのでなかなかわからなかったわけです。

横田俊英 条例その他で定めている定期検査手数料が安すぎます。

阿知波正之(司会) 検査の必要性が理解されないと、高い料金とするのは無理があります。校正にしてもそうです。モラルの問題もありますが、経済的な必要性の問題も重要だと思います。

ISOの品質マネジメントシステムは普及しているが危うさを持っている

JCSS制度による校正ビジネスが進展しにくいのは料金が高い、校正事業者の数が少ない、カバーする領域が狭い、などの問題があるから

横田俊英 JCSS制度による校正ビジネスは進展しにくいと思います。料金が高額である、校正事業者の数が少ない、カバーする領域が狭い、などの問題がありますから。

秋山忠司 それだけの付加価値があるの、という問題はあります。ISO17025の認証によって関税障壁がとれます。JCSS制度では難しい。私はISO17025で十分だと思います。しかし、国内で認知されるにはJCSSが必要です。

製品試験と校正は切っても切れない関係

阿知波正之(司会) 私は企業にいたときは計量器の校正と、製品の測定と評価も担当していました。ISO17025をそのまま適用できる試験所の活動をしていたのです。製品試験と校正は切っても切れない関係で、そういう関係を持って開拓しないと校正ビジネスはなかなか増えないと思います。

ISOの品質マネジメントシステムは普及しているが危うさを持っている

横田俊英 議論の前提として、ISOの品質マネジメントシステムは普及してきましたが、これがさらに拡大していく不滅の仕組み・制度であるかどうかというと、危うさを内包していると思います。環境マネジメントシステムのISO14001なども、技術的側面や企業の信用度や管理体制などを総合して観察すると、かなりいかがわしい事業者が取得している例もあります。しかし全体としては世の中に必要な仕組みであるという前提に立たざるを得ないでしょうね。これと計量法上の制度をどう関連づけてやっていくかです。

ISO9001を取っていれば品質がよくなる、ISO14001を取っていれば環境がよくなるという考え方はおかしい

中野廣幸 ISO9001に関して私はこう思います。ここに会社という丸い球があります。ISO9001がランプだとしますと、このランプが照らしている部分は球体の一部のみなのです。製造、開発、品質の部分はよく照らします。しかし、球体には横に隠れた部分があります。営業の部分にはこれでは光が当たりません。あるいは計測管理もそうかもしれません。ですからISO9001を持ってくると品質が全部よくなるか、球体全部が光り輝くかというと、そうではないと思います。ISO9001を取っていれば品質がよくなるという考え方、ISO14001を取っていれば環境がよくなるという考え方、これはおかしいと思います。

横田俊英 世間的にはよくなると思っていますね。推進する営業戦略がよかったということですかね。

世界の品質保証の大きな流れはISO9001とISO14001のワンセットで認証

世界的にはISO9001とISO14001はセット

松井博武 世界的にはISO9001とISO14001はセットで考えるという流れは止まらないでしょうね。ISO14001を取得している企業数は日本が世界一です。

横田俊英 ISOの認証取得には、多分に形式的な部分があります。本物になっていないということでしょうか。

ISO品質保証の古い審査員は重箱の隅をつつく感じの審査をする人もいる(形式的にISO9001を取った企業はコスト負担の問題などで返上している企業がある)

松井博武 私はISO認証取得に関しましては過渡期だと思います。私どもの春日井工場がISO9001を取得したのは1994年で、業界の中では取得時期が早かったので、87年バージョンでした。当時は、すべての業務を文書化しなさい、という概念でやっていました。しかし、2000年バージョンから、道具として使いやすい規格に考え方が変わってきています。

 ところが審査員の方たちの中には、受信する側から言うと87年バージョンの考え方に近い審査をされる場合があります。しくみ全体のパフォーマンスを上げるための指摘ではなくて「ここはあなたが決めている文書と違いますよね」というような指摘をするわけです。しかし、生産活動は生き物ですから毎日毎日変化していきます。その状態に追従できるようなルールや教育がやられていれば要求事項は満たしているのです。したがって、今後は古い考え方に立っている審査員の方はISOの世界から外れていくと思います。すでに、形式的にISO9001を取った企業は、コスト負担の問題などで、返上している企業もありますし、ISO9001を経営に役立つ方向に活用している企業もあります。

計量器の検査コストがうんと少なくて済むのが適正計量管理事業所制度であって欲しい

適正計量管理事業所はコンプライアンスの問題で、法令の目的を遵守しながらよりレベルの高い内容にしていくべき制度。ISOで代替はできない

松井博武 また、ISO9001と適正計量管理事業所制度は全然違うと思います。適正計量管理事業所はコンプライアンスの問題で、法令の目的を遵守しながらよりレベルの高い内容にしていくべき制度です。したがってISOで代替はできないと思います。

検査に1台100万円かかるものが適正計量管理事業所になれば1万円で済むとなれば、明確なメリットなのでは

秋山忠司 たとえ話ですが、検査に1台100万円かかるものが適正計量管理事業所になれば1万円で済むとなれば、これは明確なメリットになります。こういう考え方はあるのではないでしょうか。

2年に1度の規定のはかりの定期検査を1年ごとに適正計量管理事業所制度が実施するのは計量にともなう損失をくいとめるため

阿知波正之(司会) 取引証明に使うはかりは、法律では2年に1回定期検査を受ければよいことになっています。しかし適正計量管理事業所では、管理規程を決めて1年に1回ないしは半年に1回検査しているところが多いです。それはメリットがあるからです。不良のはかりが長期間使われるということは、そのはかりを頻繁に使う事業場では相当額の損失が出るからです。だからきめ細かな管理をするのです。適正計量管理事業所は、それを自ら決めてやっているわけです。

計測の目的は何か、担保するものは何か

担保すべきものは計測管理では不確かさ

秋山忠司 私どもでの特定計量器の校正周期は自主的に決めています。法令は計量器そのものを見ています。そこには人間は入ってきません。計測はシステムですから、そのなかに人が入らなかったら成り立ちません。不確かさは人の要素をきちっと入れて押さえていきます。そのような観点でシステムとしてきちっとやっていくことが必要です。将来的には法令もそういうことを要求してくるのではないかと考えています。

 海外の医者は3年ごとに試験をしてライセンスを再取得しているといいますね。ISOの審査員もそうです。CPDが要求されています。そういう意味では計量士も研鑽や能力の見直しが必要です。ただ、私は今のISOの審査員のような、ああいったガチガチの杓子定規なしくみは好きではありません。目的は何か、担保するものは何かということをはっきりさせて、その目的を達成するための柔軟なしくみにする必要があります。私は担保すべきものは計測管理では不確かさだと考えています。

商品量目以外の計量では不確かさのような要求事項がない。体制は不整備

阿知波正之(司会) 商品量目については、量目公差という形で担保されています。ところが他の計量に関しては、不確かさが該当するかと思いますが、そういう体制がまだできていないという面もあります。

JCSSは不確かさを要求している

秋山忠司 JCSSも不確かさを要求しています。時代の要求は少しずつ変わってきていると思います。

阿知波正之(司会) 証明データに関しては、すべて不確かさをつけなさい、ということになればよいと思います。

企業活動においては特定計量器よりも大事な安全を担保している計量器など沢山ある

取引に使っている「特定計量器以外の計量器」はどうなっているのか

横田俊英 馬場さんが先ほど話されたなかに、製造業における適正計量管理事業所の報告事項の件がありましたね。そのなかに取引証明用の計量器の台数だけではなく、特定計量器の管理台数も報告しなさいとある、ということがあります。そのあたりの報告の実情はどうなのでしょうか。

高松宏之 報告書のフォーマットを素直に読むとそうなっていますが、実態は自治体によって対応が異なるようです。特定計量器全部の台数を出しなさいとしている自治体もありますし、取引証明に使う計量器の台数が知りたいのでこの報告のみでよい、としているところもあります。

阿知波正之(司会) 私は取引に使っている「特定計量器以外の計量器」はどうなっているのか気になります。たとえば、体積計です。特定計量器から外れたら無管理でよいのかということです。

横田俊英 計量法では「「特定計量器」とは、取引若しくは証明における計量に使用され、又は主として一般消費者の生活の用に供される計量器のうち、適正な計量の実施を確保するためにその構造又は器差に係る基準を定める必要があるものとして政令で定めるもの」と定められています。

企業活動においては特定計量器よりも大事な計量器は沢山ある

中野廣幸 企業活動においては特定計量器よりも大事な計量器はたくさんあります。たとえば安全を担保している計量器だとか、あるいは基本的な性能をお客さんに約束している計量器などです。それは全部自主管理ということになります。このあたりも矛盾ですね。

横田俊英 そういうものも含めてまとめて管理しているのが計量管理であり、皆さんの仕事だということですね。そういうことを全部やっているから、品質もつくり込んでいけるわけです。

植手稔 法令が要求している内容の管理にとどまっていては、全然ダメですね。

特定計量器は法令が改正されればさらに減っていく(それをどう考えるか)

阿知波正之(司会) 特定計量器はどんどん少なくなっています。今後、法令が改正されればさらに減っていくと思います。それは管理しなくてよいといっているのか、それとも規制はしませんので自主的に管理してくださいよということなのか、どう考えるかですね。

秋山忠司 法の趣旨は消費者保護ですから、法令で規制するのではなく自主的に管理することを認めるということになるのではないでしょうか。

適正計量管理事業所はもっと胸を張らなければいけません

適正計量管理事業所と「不適正計量管理事業所」

横田俊英 コンプライアンスの面からだけいうと、法令で定められたことだけをやっていればよいわけです。しかし、本来企業活動として考えれば、それぞれの計測器に対して適正な管理をしなくてはならないということですね。

中野廣幸 そういう意味からいうと、適正計量管理事業所はもっと胸を張らなければいけません。逆にいうと、それ以外の事業所は「不適正計量管理事業所」ということになります。

馬場文平 ある会社が温度計のことを報告していなかったということがあります。その会社が基準器検査を受けたいということになったら、報告書に温度計の記載はありませんよ、ということをいわれたといいます。

適正計量管理事業所の方向性

阿知波正之(司会) 今回の計量制度の見直しでも規制緩和の方向性が出されています。そのなかで適正計量管理事業所はどういう方向で進めていけばよいのでしょうか。

はかりの検査も、社会的損失という概念で考えるともっと料金を取れるのではないか(品質工学にはバラツキが社会に与える損失という概念がある)

松井博武 松下電器は苦情処理制度の自己宣言をやりつつあります。こういうふうに、自己宣言方式で認定を与えるという方法もあるのではないでしょうか。

 品質工学には、バラツキが社会に与える損失、という概念があります。たとえば、ある中小企業さんがISO14001認証を取るときに相談にのったのですが、そのときに水道代がだんだん高額になってきているというのです。なぜだろうということで配管の途中に流量計を設置して調べましたところ、配管から水が漏れているということがわかって改善をしました。計測器のバラツキを調べることで、社会的損失を未然に防げるという方向にならないか、ということを感じました。

 はかりの検査も、社会的損失という概念で考えるともっと料金を取れるのではと思います。

適正計量管理事業所制度は社会全体のコストを低減する制度

適正計量管理事業所制度は社会全体のコストを低減するよい制度である(自主的にしっかり管理できる企業でないと生き残っていけない)

横田俊英 計量法は特定計量器の種類を減らしてきました。それは計量器の性能と品質が安定してきて、役所で検査しなくても大丈夫であるということで、規制が緩和されてきました。一方では、それを役所が検査することのコストが社会損失になるという考えで、規制の対象から外してきたのです。

 計量器は性能が安定していれば検査はいりませんが、検査や校正をしないと性能の確認ができないし、バラツキが大きくなれば社会損失になるということです。国がやるべき定期検査の実務を皆さんがたの企業に負わせて、社会コストを低減しようとしています。そういう意味では、適正計量管理事業所制度よい制度であるとは思います。

中野廣幸 規制緩和になると企業は楽になると考えがちなのですが、これは逆だと思います。今までは法令で事細かに決められていたので何も考えずにそれをやっていればよかった。ところが規制緩和になったらそれがなくなってしまうわけですから、自分の頭で考え自分で実行しなくてはなりません。これは大変なことです。本当に競争力がある企業、技術力のある企業だけが、きちんとできるのです。自主的なことができる力を持っている企業以外は、実は大変なことになります。

 国際的な競争も激しくなってきますから、自主的にしっかり管理できる企業でないと生き残っていけません。多くの企業にとっては、規制緩和によって厳しい状況になると思います。

自己宣言方式を適正計量管理事業所制度に適用できないか

松井博武 先ほどの苦情処理制度ですが、ISOで決められた苦情処理制度の要求事項があって、それに合致していますよということで自己宣言をするわけです。ISO認証を取ろうとするとけっこうお金もかかります。自己宣言方式ですとあまりお金もかかりませんので、こういう方式を適正計量管理事業所制度に適用できないかなと思います。

阿知波正之(司会) 中野さんがおっしゃるように、法律で決められていることをやるのは考えなくてよいのですから楽なのですが、自主管理になると、そういうことを決める力がないと大変ですね。

松井博武 教育が重要になりますね。それから顧客の要求に合致するグローバルな規格がいると思います。それが最低限必要です。

法令で規制されていない計量器の管理も内容には差がない(安全にかかわる計量器などはむしろ特定計量器などよりも高いレベルで管理している)

高松宏之 法令で規制されている計量器と、そうでない計量器とでは、実際の管理の内容に差がありますか。

植手稔 実際の管理の内容に差はありません。基本的には同じレベルで管理をしていきます。規制されていない計量器の管理レベルを落としてもよいのですが、社会が要求するレベルに合致した管理をしませんと、そのツケは結局は自分達に跳ね返ってきます。

中野廣幸 安全にかかわる計量器などはむしろ特定計量器などよりも高いレベルで管理しています。

適正計量管理事業所として要求されているのは自主的な計量管理

植手稔 当社でははかりなどは数が少ないです。安全に関わる計測器も含めて、はかり以外の計測器が遙かに多いのです。私は適正計量管理事業所として要求されているのは自主的な計量管理だと思いますので、法規制があるかどうかではなく、その観点から計量器の管理をしています。

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