ホーム・計量計測データバンク2005年度計量法改正情報BOX>座談会(2007/07/30)【3】

2007計測技術と品質管理手法(計量管理は品質工学そのものだ)
あいち適正計量管理事業所と計量士座談会

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【3】

適正計量管理事業所制度では定期的なサーベイランスがない

航空機製造でも計量管理も高いレベルが要求されている(適正計量管理事業所制度では定期的なサーベイランスがないので、現状では安心が得られない)

阿知波正之(司会) 航空機の世界的な分業化が進んできています。そのなかで日本の航空機製造の技術も高まってきていますね。高い計量管理レベルが要求されていますか。

伊藤文人 はい、要求されます。また、お客様の検査員によって定期的に審査/確認されます。もちろん証明書類は準備しますが、その書類を確認するだけのお客様は居られず、必ず現物・現状を確認され、実際に要求水準を満たしているか確認されます。なお、JIS Q 9100(航空宇宙産業用のISO9000s)の認証を取得していれば、お客様の要求とISOの要求とが同じ項目については、その項目の確認を省略されるお客様もありますが、計量管理に関しては殆どがISOに加えて追加の要求をされますので、追加要求分だけは必ず確認されます。われわれが製造請負会社に発注する際も同様にしていますが、この様に審査が省略できる点は双方にとってISOを適用するメリットの一つです。

 また、計量の関係ではもう一つ自分達で審査/確認する代わりに国際MRA対応のJCSS登録事業者を多く利用させて頂いています。日本国内では認定範囲が狭かったり、最高校正精度が不足している場合は、欧米等の他国の登録校正機関も利用します。

 これらの国際MRA対応登録事業者は第三者機関が私達に代わって定期的に審査してくれているので、校正料金も自分達が実施すべき審査費用まで含まれていると考えると高くないと思います。

 適正計量管理事業所制度もそういった自分達の審査/確認の代わりとなる制度の一つになれば良いと思いますが、現状では立入検査はあるものの定期的な審査がない分、安心感は得られず、審査/確認の代わりには利用していません。

阿知波正之(司会) 一つの方法としては、第3者機関による認証制度にしていくという方法もありますね。

秋山忠司 法に規定している「適正計量管理事業場」の要件から「特定計量器を使用する事業所」を削除するということも考えてよいのでは。計量管理の校正方法についてはISO17025を活用するのです(計測機器のマネジメントはISO1022)。

「食品安全マネジメントマネジメントシステム−フードチェーンに関わる組織に対する要求事項」

松井博武 食品業界にISO22000というのがあります。「食品安全マネジメントシステム−フードチェーンに関わる組織に対する要求事項」というものです。HACCPと同様に「食品安全」を確保するためのシステムですが、こちらはサーベイランスがあります。最終的に昨年の秋に正規の規格になりました。今、食品の安全に関して関心が高いですから、今後取得企業が増えてくると思います。これなども参考になるのではないでしょうか。

製品の形だけは真似できても品質を真似できないのは計測のノウハウがあるから

計測技術は外から見てわからない管理技術

阿知波正之(司会) 業界別の国際規格ができていますね。計量管理はそのなかで横断的に運用できるシステムをつくっていくことが必要です。私も計量士としてさまざまな業界を見ていますが、計量管理という切り口で見ると皆同じです。ただ流通業と製造業で圧倒的に違うのは計測技術のレベルです。流通業には計測技術の専門家がいないが、製造業には計測技術の専門家がいます。製造業の場合には計測の技術によって相当に企業力が違ってきます。外部にそういう技術を依存していたらどんどんまねされて、競争力を失ってしまいます。流通業はそういう点でいうと、どこも外部依存で同じシステムを導入していますね。

 計測は外から見てわからない管理技術であると、昔からいわれていますが、実態はどうですか。

中野廣幸 確かに計測技術はブラックボックスです。できあがった製品を見ても、何を管理しているのかはわかりません。形はまねできても、一番重要な品質はまねできません。計測技術がわからないからです。

植手稔 検査の規格をどう決めているとか、条件管理とかがノウハウになると思います。

書類だけでは計測技術や計量管理の中身はわからない(適正計量管理事業所はISO9001認証取得企業以上の能力を持っている。)

伊藤文人 書類だけでは計測技術や計量管理の中身はわからないですね。今までやっていたことや、これからやる予定のことを絵にすることは簡単に出来ますし、書いた絵は変わりません。しかし現実はどんどん変化しますので、実際に実現してその状態を常に維持するのは結構大変な訳です。

植手稔 適正計量管理事業所になっているところは、たとえばISO9001認証取得企業以上の能力を持っています。そういうことが世間一般に広まれば、適正計量管理事業所の付加価値、存在価値が出てきます。現時点では、どうも差別化ができていないですね。

事業所ごとに計量管理の技術能力を向上させる動機や仕組みを持っていることが大事

適正計量管理事業所の計量管理のレベルは高い(ISO9001レベル)

阿知波正之(司会) 適正計量管理事業所のシステムでやっている計量管理のレベルが高いのか、低いのか、どうでしょうか。

植手稔 法律が要求している部分だけでやっていたのではダメです。しかし、高位平準化といいますか、適正計量管理事業所になっているところはどこも、ISO9001レベルでは計量管理をやっています。

計量法頼みではないレベルアップ方法(行政機関による立入検査も増えている)

中野廣幸 法律だよりではレベルアップしませんから、絶えずレベルアップを求める何かが必要でしょうね。

植手稔 行政機関による立入検査も増えてきています。立入検査の内容は、特定計量器の管理の内容だけではなくて、計量管理全体のレベルの検査をされているようです。

高松宏之 計量管理のレベルでの立入とはどういうことですか。

植手稔 そうですね。松下グループでやっている適正計量管理事業所遵法監査チェックというのが、参考になるかと思いますので、少し紹介します。法律に関わる内容はもちろんですが、計測改善活動、人材育成がきちんとできて有効性を評価しているかとか、製品安全に関する計測器なども明確に管理しているかなど、をチェックしています。これは社内チェックですが、全体を検査するとなると同じような内容になると思います。行政機関も同じような視点で全体の計量管理のレベルを見る方向になりつつあると思います。

立ち入り検査の内容は実施する自治体によって異なる

横田俊英 そこまでやれる行政機関は、全国でもごくわずかですね。

植手稔 一部であってもそういう検査をやってもらえるということはいいことですね。計量管理自身は自分たちがやることですけれども、高いレベルで検査してもらえると、底上げにもなります。自治体によって温度差がすごくあるとは思います。

他の法律で計量の専門家としての計量士が活動できる場面が増えることを期待

阿知波正之(司会) たとえば食品安全という切り口から見て、計量管理はどうなっているのだということがこれから出てくるのかどうか。

 私は燃料の流量計の検査も担当しています。これは計量法の範囲外ですが、税法上の規定で計量士の検査がいるのです。

 そういう意味では、他の法律で計量の専門家としての計量士が必要になるとよいと思います。

適正計量管理事業所制度とISO10012は思想的にはまったく一緒

馬場文平 3年ほど前ですが、私は全国計量士大会で適正計量管理事業所の指定の要件としてISO10012を援用したらどうかということを提案しました。

 現在、日本計量振興協会でISO10012の検討委員会が開催されて、中野さんも出席されております。

横田俊英 中部7県計量協議会、これは計量士さんや適正計量管理事業所さん、計量協会さんなどが集まって開く会議ですが、この会議で、適正計量管理事業所の指定をとっていればISO9001認証取得と同じようなメリットがでるようにして欲しい、という提案がありました。うまく融合して連携できる要素はあると思います。

馬場文平 適正計量管理事業所制度は、国際規格と連動させることにより、かなりよい形に持っていけると思います。

中野廣幸 適正計量管理事業所制度とISO10012は、思想的にはまったく一緒です。いい計測をしましょう、社会生活に貢献しましょう、ということですから。ISO10012の場合はそれを顧客満足といういいかたをしているわけです。めざすところは一緒です。要求事項も整理するとかなり共通の部分があります。したがって、今お話がでていましたように、同じように考えることはできると思います。

 あとは、ISO規格の特徴であるスパイラルアップ、もっとよくしようということですね。ですから、入り口を広くして、もっともっとよくしていこうというやり方が必要でしょう。適正計量管理事業所制度は一度取ってしまうと、大学入試と同じで、後は何もしないという特徴がありますので、それがやはりここにきて疲弊してきていると思います。ですからいったん取った後のメンテナンスをどうするのかということをシステム的に築き上げないといけないという気がします。

適正計量管理事業所を継続する目的やメリットの確認

国際規格の認証を取得した後、適正計量管理事業所を継続する目的やメリットは何か、ということを各事業所なりに確認しておくことが大事

横田俊英 今のままでは、指定を受けてもほとんどメリットはありません。しかし、これまで皆さんが話されたように、計量管理の内容を問われただけ自己宣伝をしたりして、世の中の評価が定まって、使えれば、がんばって維持していこうということになるのですが。ISOと融合させると意義が出てくるかもしれませんね。そこらへんは政策の問題です。

中野廣幸 今のままで適正計量管理事業所の制度をもっと厳しくしたら、非関税障壁になってしまいます。現在の製造企業はかなりの部分を絵画での生産に頼っています。ところが、海外工場ではなかなか計測管理ができていないという問題があります。同じ条件で話せるということが大切なことだと思います。

阿知波正之(司会) 一昨年、ある適正計量管理事業所へおじゃまして、ヒヤリングしたことがあります。適正計量管理事業所はメリットがないわけではないのです。国際規格を適用するときに、適正計量管理事業所としての管理をしてきたために、容易に国際規格を適用できたということがあります。これは大きなメリットです。

伊藤文人 国際規格の認証を取得した後、適正計量管理事業所を継続する目的/メリットは何か、ということを各事業所なりに確認しておくことも大事だと思います。これをしないと、たとえば現在の計量士が不在になったときに、新しい計量士を雇うのではなく、適正計量管理事業所を返上しても良いのではないかという議論になるのです。

中元期や歳末時期に量目立入検査結果「合格率上位10傑」というな内容のものを発表すればよい

馬場文平 流通業の場合ですと、中元期や歳末時期に量目立入検査が実施されています。その結果を、行政でも計量協会でもが発表すればよいと思います。今でも発表されているのですが、それは不適正率が何%だったというようなことだけです。私はそれだけではなく、たとえば「合格率上位10傑」というな内容のものを発表すればよいと思います。具体的な店舗名をです。適正計量管理事業所は成績がよいのですから、制度のメリットの大きな宣伝になります。悪い事業所ではなくよい事業所を発表するのですから、その気になれば可能だと思います。

横田俊英 行政がそれを発表するということで合意すればですね。インターネットなどを使って発表すれば効果はあります。大いにやるべきですね。

 役所が公表するのは難しいかもしれませんので、その場合はボランティア組織などが公表するとかね。

ミシュランのレストラン評価方式に倣った計量管理事業所の評価方式

計量管理事業所の評価方式を考えたらいい(レストランの評価として有名な「ミシュラン」、J・D・パワーによる車の評価など)

植手稔 適正計量管理事業所の存在感を世間に知らしめるということで考えますと、賛成です。私も冒頭に述べましたように、同じ意見です。世間に認知してもらうには最も効果的な方法の一つだと思います。

阿知波正之(司会) 計量管理のしかたではなく、結果の評価といいますか企業の品質評価というようなものが日本の場合はあまりされていないですね。たとえばレストランの評価ですと有名な「ミシュラン」などがありますね。アメリカではJ・D・パワーによる車の評価などがあります。

 そういう品質評価がされると、ではそのために品質管理はどうすればよいか、となります。そうするとそのための方法が適正計量管理事業所ですよとなるのです。

 流通業の場合を見てみますと、適正計量管理事業所のほうがそうでないところよりも計量管理のレベルは高いですね。

ISO10012の認知度が広がらないのは手法の一つとして紹介されているだけだから

横田俊英 適正計量管理事業所の数はほとんど増えていないですね。

松井博武 ISO10012の認知度はなぜ広がらないのですかね。

中野廣幸 ISO10012はISO9001の横にひっついたような形になっているからでしょう。ですからISO9001から入ると、ISO10012で積極的なやろうということにはなかなかならないですね。

伊藤文人 手法の一つとして紹介されているだけですからね。

不確かさが必要な重要なポイントではISO10012を用いてきちんと行う

ISO10012と適正計量管理事業所制度の規定は似ている(すべてをISO10012でやる必要はなく不確かさが必要な重要なポイントではこれをきちんと使う)

松井博武 自動車とか航空機ではどうですか。

伊藤文人 航空機では、ある製造メーカーの一部の機体で直接ISO10012の要求があります。

松井博武 不確かさはどうですか。

伊藤文人  不確かさのみが単独で要求されることはありません。ISO10012を通しての要求になります。ただ、ISO10012を適用するからといって、すべての測定の不確かさを求める必要は無く、本当に不確かさが必要となる測定ポイントに限られます。むしろ、設計段階で不確かさが必要となる測定ポイントを見極めて、決めておくことが大事です。

 私も実際に適正計量管理事業所制度とISO10012に触れて感じることはこの2つは似ているということです。

不確かさの要求はISO10012のほうが高い(計量法では基準が決められているが、ISO10012はそれも自分たちが決めてやる)

中野廣幸 規定の内容は、ISO10012のほうがより具体的です。

植手稔 私も両方の規定は似ていると思いますが、不確かさの要求のこととかを見ると、レベルは少しISO10012のほうが高いのではないかと思っています。

 方向性としては、適正計量管理事業所制度はISO10012と包括的になって、レベルを上げていくべきでしょう。

伊藤文人 私はそのあたりは計量法にはすでにその考えが盛り込まれていると思っています。計量法では重要なポイントは特定計量器に限定され、測定の不確かさを考慮した上で使用する基準器や手順が決められているので自然と目的が達成できるが、ISO10012では、それらを自分たちが決めてやる、そういうことではないかと思っています。

植手稔 適正な計量管理というなかにそれは入っている、そういう認識だということですね。

計量法が管理対象とする計量器とISO10012が対象とする計量器

計量法が管理対象を特定計量器に特化しているのに対してISO10012はあらゆる計測器が対象

中野廣幸 計量法は特化しています。特に特定計量器に関しては。ところがこのISO10012は、いってみればあらゆる業種、あらゆる国で使えるようにというように考えられています。汎用的なのですね。ですから、管理するレベルに関しても自分で決めなさいとなるわけです。そういう違いがあるのであって、考え方は一緒だと思います。

企業の計量管理を担当する部門がISO17025を取得して校正機能を重視していく方向が見えてきた

阿知波正之(司会) 企業の計量管理を担当する部門がISO17025を取得して、校正機能を重視していく方向が多いわけですが、私は、果たしてそれだけでいいのかなという疑問を持っています。

秋山忠司 自分がやったことを第3者に評価させるということがキーであって、そこで担保されることが大事です。自分でやったことはもちろん自分は正しいと思っています。ですから性悪説でもって、第3者に評価してもらって正しさを担保していくことが大事なのです。ISO17025には、言葉は悪いですが、嘘をつくなよ、ということを明らかに書いてあるわけです。

 もう一つ、もっと明確にしているのは、データの再現性を求めるために、何でも手順書を書きなさいということでした。再現性を求めるために事細かに決めてしまうのです。たとえばRoHSで鉛の測定をしますと、測定法によって不確かさが3倍くらい違ってきます。

 特に標準物質から落としてくるときには非常にやっかいです。そういう意味では、外部から担保されているということは非常に大きいですね。

 国家計量標準と繋がっていることが簡単に証明できるので、業務が煩雑にならないメリットはあります。

ISO16949(自動車産業向けの品質マネジメントマネジメントシステムの国際標準規格)では製品試験に対してISO17025の適用を要求している

阿知波正之(司会) ISO17025の適用が、ISO16949(自動車産業向けの品質マネジメントシステムの国際標準規格)では製品試験に対して要求しているものがありますね。そちらのほうからいくのか、校正機関としての方向なのかという点はどうですか。

すべての範囲でのISO17025取得

秋山忠司 私どもはすべての範囲、あらゆる部分でISO17025を取っておりまして、校正でも試験ということでも取っています。測定や分析という部分でも取っています。われわれが遭遇するであろうあらゆる事象に関して取っているのです。

「試験所はISO17025を取りなさいよ」という提言

阿知波正之(司会) 私は「試験所はISO17025を取りなさいよ」という提言をしているのです。そういうところを普及させていくということが大事じゃないかと思います。

秋山忠司 ISO17025を取るところは、さまざまな業界でどんどん増えていますし、この規格が一番要求しているのが試験所間比較です。技術能力の比較です。その企業の位置づけが明確に出ます。

ISO17025は試験所として校正を業務としている事業所が取得しているという印象がある(ISO17025を取るとコストパフォーマンスはよくなる)

植手稔 今のお話はよくわかるのですが、ISO17025は試験所として校正を業務としている事業所が取得しているという印象を持っています。投資効率を考えていかなければいけません。全部が全部、ISO17025を取るのは難しいですね。

秋山忠司 ISO17025を取ると、コストパフォーマンスはよくなりますよ。要求されているのは、システム要求と技術的要求であって、システム要求のほうは、考え方としてはISO9001で大体満足します。技術的要求のほうは、要するにレポートの書き方であるとか、測定員の技能の担保であるとか、そういうところです。

 したがって最初の1年は教育にものすごくお金がかかります。しかし、ここをしっかりやると、そのあとはだんだんと効率がよくなってきます。使い方によっては業務の効率が上がります。スパイラルアップがかかってくるのです。

 私どものところは技術部門からお金をもらっています。他社に頼むよりは安いですよ。そうすると各担当者に経営意識が生まれてきます。どんどん効率が上がってきます。

開発者、技術者に計測技術がないためのロス(計測技術を教育を通じて担保していくことが重要)

松井博武 その技術部分の要求というのが大事ですね。企業としても計測技術は計測機器屋さん任せになっているとことが多く、開発者、技術者に計測技術がないためにロスが非常にでるのです。

秋山忠司 デメリットもあります。私どもでは試験所で全部測りますので、逆に設計者の測る技能が伸びていかないのです。やはり教育ですね。教育で担保しないと。測るのは人ですから。

ISO17025は計測器の校正だけではなく製品の試験とか製品の測定とかの分野への適用が広がっている

阿知波正之(司会) ISO17025は、今のお話にもあったように、計測器の校正だけではなく、製品の試験とか、製品の測定とかの分野への適用が広がっています。

 流通においても計量器の検査だけではなくて、量目をいかにバラツキなく管理するかという方向へ向かって、いろいろな活動を進めていかなければなりません。教育を含めて、まだまだやることはたくさんあります。

 製造業でも仕入れ先との「人のトレーサビリティ」をやろうということで取り組んだことがあります。図面をもらったら、同じように測って同じような結果が出るようにしたい、という教育をやったことがあります。人の教育というのはウェイトが高いですね。

企業内で測定者の能力を認定し認定者の測定を信用する(ワンストップテスティング)

秋山忠司 私どもも測長の場合に、中途半端に歪んだブロック測長標準をつくり、巡回して測ってもらいます。そしてEn値が2以下でしたら、その人を測定者として認定します。そして測定者としてその人の名前が書いてあれば、測定値はそのまま信用します。

阿知波正之(司会) ワンストップテスティングですね。

計測技術担当者の仕事は縁の下的な存在であるので企業内では評価されにくい

松井博武 信頼性試験とか時間がかかる業務がありますね。このような仕事は縁の下的な存在で、あまり企業内では評価されていません。重大な事故が起こって初めて、そういうことが大事だということがわかるのです。計測計量をやっている人たちの社会的なステータスが弱いように思います。

計量管理は品質工学でありものづくりは総合計測によって成立する

ものづくりは総合計測である(コンプライアンスの関係も適正計量管理事業所制度で実現している。計量管理は品質工学だ)

横田俊英 品質工学会副会長の矢野宏さんは、なんとか計測部門の人を会社にも認めさせていこうということで、計測していることの意義がわかるようにいろいろな活動をしていこうということで、さまざまな活動をやられています。

 ものづくりは総合計測であるという位置づけですね。その結果の一つが、適正計量管理事業所制度の利用ということです。それから、そういうことを通じて企業はよい商品をつくって企業の業績に繋げていく。俗な言葉でいえば儲かる計量管理をやっておられます。

 それからコンプライアンスの関係も適正計量管理事業所制度で実現しています。先ほどからも出ていましたが上司を説得できなくてはいけない、また計量管理は品質工学だともいえます。

計測のバラツキが製品に悪さをしていることを説明すると人は驚く

阿知波正之(司会) 総合計測という意味では、それをもっと具体化したものが、製品を評価する技術、製品を計測する技術ということです。これが十分にできれば、企業のなかでも評価されます。

 ものをつくるうえでは、製造部門での活動は、バラツキを小さくしようという活動です。そのなかで計測がどのくらい悪さをしているかということの評価すら、企業のなかではあまりされていません。そういうことの訓練とか、工場でマネジメントをしている人に対して、ちゃんと説明できるような、活動をしていかなければなりません。

 バラツキの概念というのは、なかなか理解されていません。不確かさといってもよいと思います。バラツキによる損失。一般の人に、計測のバラツキはこんなにありますよということを説明するだけで、相当なインパクトがあります。

 まずは、簡単なことでよいですから、そういうことを調べてみる必要があります。

 

品質工学では計測のバラツキによる損失は単独独立した損失(計測の改善をしなければ減らすことはできない)

計測のバラツキとは、同じものを測ってどの程度同じ測定結果が出るかということ

横田俊英 計測のバラツキとは何ですか。

阿知波正之(司会) 同じものを測って、いつも同じ測定結果が出ますか、ということです。計測結果のバラツキです。

長さでいえばブロックゲージ、質量でいえば分銅ほど測りやすいものはない

横田俊英 バラつかせないためにはどうすればよいのですか。

阿知波正之(司会) 改善しようと思えば、計測のシステムを考えないといけません。標準は測りやすいのです。しかし、実際のもの、実物はものすごく測りにくいのです。そこを先ず、計測担当者は理解しなければいけません。長さでいえばブロックゲージ、質量でいえば分銅ほど測りやすいものはないのです。

製品のバラツキはこのくらいで、計測のバラツキはこのくらいということをある程度見極めてから作業をしないと、結局何をしているのかわからなくなる

中野廣幸 バラツキバラツキといっても、そのなかにどれだけ計測のバラツキがあって、総合的なバラツキになっているかということは、なかなかわからないのですね。

 私の昔の経験ですが、扇風機の羽根のバランスをとるということをやったことがあります。ところが、バラツキをとっていくのですが、ある程度まで小さくなると、今度は計測のバラツキの範囲に入ってきます。バラツキをゼロにしようと思うと、結局、バラツキを追いかけてしまったという失敗経験があります。製品のバラツキはこのくらいで、計測のバラツキはこのくらいということを、ある程度見極めてから作業をしないと、結局、何をしているのかわからなくなります。

横田俊英 計測の設計のミスということで、その計測器では性能的に測れない、その計測には不向きであるという計測器ではかっている場合もありますね。

阿知波正之(司会) いっぱいあります。加工精度がよくなると、計測のシステムもよくしていかなければならないのです。

 品質工学でいえば計測のバラツキによる損失は、単独独立した損失なのです。ですからそれは計測の改善をしなければ減らすことはできないのです。

品質工学をやっている企業のトップの計測への理解度と熱意は他と全然違う

横田俊英 計測の改善は誰がやるのですか。

阿知波正之(司会) 誰かがやるのです。計測の担当者がやればその人の評価になります。やらなければ、他の誰かがやるのです。計測計量の改善は計量計測の専門家がやらなければ他の誰かが必ずやっています。

中野廣幸 流通の場合において、こうすれば量目のバラツキはなくなるよ、という提案はありますか。

阿知波正之(司会) わかりやすい事例をあげますと、コンピュータスケールというはかりがあります。同じ種類で質量にバラツキがある商品を、最適な組合せによりバラツキを小さくして、同じ質量ずつ袋に詰めることができるはかりです。1gのバラツキを改善しても生産量が多いですから、大きな改善になります。自社内でそういうものを開発している例もあります。

 また時間が経過すると減量する商品をどこまで入れるかという問題があります。販売までの在庫期間の問題があります。総合的な管理です。こういうところで相当企業力の差が出てきます。

松井博武 品質工学研究発表大会に参加して感じたのですが、品質工学をやっている企業のトップの理解度と熱意が全然違いますね。そうでないとなかなか全社的に浸透していかないのかな、と感じました。

品質工学とは評価の技術であり、製品とか加工などのシステムの働きの尺度をつくる技術である

横田俊英 品質工学とは何ですか。

阿知波正之(司会) 評価の技術です。どのくらいよいかの尺度をつくる、ものさしをつくるということです。

 評価尺度をつくるのですが、それは必ずしも顧客の要求だけではなくて、顧客の要求がない段階で決めなくてはいけない場合があります。機能、つまり対象の製品とか加工などのシステムの働きの尺度をつくる。かなり個別的です。個別対象ごとにそれをつくらなくてはなりません。

品質工学のMT法とは既存の多次元データを自動で処理できるもの

松井博武 品質工学で近頃よく使われているMT法とはどういうものですか。

阿知波正之(司会) MT法とは、既存の多次元データを処理できるものです。今あるデータを、MT法の処理ソフトに入力すればよいだけですから、普及しているのは扱いやすいということではないかと思います。

 どういうふうに測らなくてはならないか、から考えるのは難しいです。技術者といろいろ話をしていても、計測の概念がなかなか伝わらないですね。MT法の場合の単位空間というものはゼロ点で、信号である値は校正の標準値です。目盛りを校正して使うのですよといっても、なかなか理解されないですね。ゼロ点と一つの信号があれば校正できますが、標準値の信号がいい加減だったらよい結果が出ません。計測の校正と同じです。

品質工学は評価法そのものであり、SN比はバラツキを評価する検査の方法である

植手稔 品質工学は評価法の評価ですか。

阿知波正之(司会) 評価法そのものですね。SN比はバラツキを評価する方法です。

中野廣幸 一般にはバラツキの概念すらないという気がします。学校で学生に品質管理を教えません。そのまま社会に出ていますから、量品生産にはバラツキがあるのだという概念がないのです。教育ができていないのです。そういう状況で、計測のバラツキまで考えろといっても無理かもしれませんね。

よい計測技術者がいることは企業発展の必要条件の一つである

横田俊英 よい計測技術者がいる企業は発展しますか。

阿知波正之(司会) それは間違いないですね。

秋山忠司 いや、必ずしもそうとは限らないでしょう。世界有数の計測メーカーが必ず成功しているかというとそんなことはないですね。必要条件ではあります。だからといってそれがすべてではないと思います。

阿知波正之(司会) 計測は直接利益を生むわけではないですから、そこにどれだけ投資できるかということの影響は大きいですよ。

横田俊英 誰がトップに計測の重要性を伝えるかということも大事ですね。

松井博武 松下電器グループには生産革新本部があります。安定化設計を実際の開発の過程で教えるということをしています。

自動車関係の会社は計測技術部を持っているところが多い

阿知波正之(司会) 品質工学会の田口賞を初めて受賞したマツダでは、生産技術部門が最初に品質工学を導入したといわれています。独自の計測システムも導入されていました。計測技術者がいなければ生産技術の技術者がどんどん直していくということになります。それが発展したのがトヨタの計測技術部ではないかと思います。自動車関係の会社は計測技術部がある会社が多いですね。

横田俊英 小さい企業には計測技術者もいないかもしれませんよ。

阿知波正之(司会) 技術導入をしたときによくわかったのですが、図面を与えられても同じものはつくれないのです。それは図面だけでは計測技術とか生産技術がわからないからです。外観は似ていても品質が違うというのは、そういうことです。

中野廣幸 私は松下エコシステムズを退職後は、産業専門の通訳をしています。通訳というのはけっこう企業の機密分野まで接近しますので、そのぶん気は遣いますが。ITの開発現場にもいったことがあります。おもしろいですよ。幸いにして現役時代にいろいろ経験してきましたから、加工から機構、計測までわかります。これが役に立っています。

中小企業が困っているのが計測

阿知波正之(司会) ものを計測しているということは、どこへいっても役に立ちます。計測器だけ見ていては、使い道が狭いですね。

松井博武 中小企業さんが困っておられるのが計測です。なかなか測る装置がないし、測れないですから。そういうことに貢献できます。

横田俊英 計測に関する基礎知識は、専門家がいないとバラバラですぐにおかしくなります。

計量計測の範囲は法令で決められた範囲だけではない

阿知波正之(司会) 計量計測の範囲は法令で決められた範囲だけではありません。計量士でなければできない仕事だけではなくて、計量士が計量の専門家としてできる仕事をどんどん増やしていけばよいのではないかと思います。ありがとうございました。

(おわり)
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