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天びんの基礎知識(3)

(2965号/2013年5月26日掲載)
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特集記事

信頼ある測定には計量のトレーサビリティが必要
JCSS登録校正事業者の利用が望ましい

ISOやHACCPが要求

はかり・天びんの測定値の信頼性は、計量計測学的トレーサビリティによって保証される。計量計測学的トレーサビリティとは、国際計量用語集(VIM3版)の定義では「測定の不確かさに寄与し文書化された、切れ目のない個々の校正の連鎖を通して、測定結果を表記された計量参照に関係付けることができる測定結果の性質」である。具体的には、現場で使用するはかりが社内の標準のはかりで校正され、さらにそれがより上位のはかりによって校正されるというように、順次上位の計量標準によって測定結果の信頼性が確保されるということである。
 「測定の不確かさ(measurement uncertainty)」とは、「用いる情報に基づいて、測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特性付けるパラメータ」という意味。
 経済活動がグローバル化した今日は、国内のみならず、国際基準への適合も必要になってきた。製品の品質基準を定めるISOやHACCPなどのグローバルスタンダードは、使用する計量器や測定データが、国家計量標準にトレーサブルであることを要請している。

JCSS登録校正事業者の利用を

天びんの計量計測学的トレーサビリティを確保するためには、JCSS登録校正事業者の定期的な利用が望ましい。JCSSにおける計量計測学的トレーサビリティの概念
 JCSSとは、国際標準化機構および国際電気標準会議が定めた校正機関に関する基準(ISO/IEC17025)の要求事項に適合しているかどうか審査をおこない、校正事業者を登録する制度である。
 JCSSで登録された校正事業者は、その証として、JCSS認定シンボルの入った校正証明書を発行できる。これによって日本の国家計量標準へのトレーサビリティが確保され、校正事業者の技術能力のあることが一目でわかる。
 JCSSロゴマーク付校正証明書を持っていれば、トレーサビリティ体系図やメーカーの成績書などは必要ない。
 さらに、国際MRA対応を希望する登録事業者に対しては、校正能力の維持状況を確認するための定期的な検査および技能試験が実施される。国際MRA対応認定事業者は、図のようなILAC MRA付きJCSS認定シンボルの入った校正証明書を発行できる。これは、一度の校正で相互承認協定を結んでいる国ならどこでも受け入れられるものである。
 現在、JCSS校正証明書に信頼の水準(包含確率)の表記が要求されるようになってきていることから、順次、信頼の水準約95%表記がされている。ILAC MRA付きJCSS認定シンボル
 質量のJCSSは2013年5月17日現在、79事業所(種類ごとの合計、重複あり)が登録されており、証明書発行件数も増えている(2011年度では約2万数千件)が、料金が高いことが、普及の妨げになっている。
 しかし、国際的な計量計測学的トレーサビリティの重要性は日に日に増しており、JCSSも今後さらに普及していくと思われる。

電子はかり点検のすすめ

日常点検・検査が重要

電子天びんが常に正しく計量できているか信頼性を向上させるためには、常日頃からの点検・検査が重要である。
 点検には、電子天びんを使用する前におこなう「日常点検」と一定の時期または使用期間を定めて実施する「定期点検」がある。また、「定期点検」の検査項目を増やしてより正確な点検を実施する「定期検査」がある。一般的に、「日常点検」や「定期点検」は担当者がおこない、「定期検査」は管理者が実施する。
 電子天びんの点検・検査を計量士や計量器事業者など専門家に依頼すれば、精度が良く信頼できる点検・検査ができる。

点検・検査のルールを決める

■点検をマニュアル化する
 あらかじめ、日常点検・定期点検を実施する担当者と定期検査を実施する管理者を決め、点検・検査の方法や実施時期などのルールを定め、マニュアル化しておくと良い。校正分銅内蔵型の天びんを使用すれば、分銅を用いなくても日常的に校正できる。(株)エー・アンド・デイ、(株)島津製作所、新光電子(株)など、各社が校正分銅内蔵型の天びんを発売している。
■自動校正機能付いた天びんも
 精密な機器である電子天びんは室温変化にも敏感であり、室温変化により、質量測定値に影響を及ぼすため、測定前には感度校正が必要となる。このような正確な測定の準備を天びん自らが整える機能が、高機能の天びんに内蔵されている自動校正機能だ。電子天びんが校正用の分銅を内蔵し、温度変化による感度ドリフトの自動校正や、内蔵タイマーによって設定した時間に校正してくれるものがある。(ここでの校正の用語は、調整行為を含むものとして使用している)
 たとえば島津製作所のPSC(完全自動校正)は、天びんが感度に影響を及ぼす室温の変化をキャッチし、内蔵分銅により自動的に校正を開始する。そのため感度誤差は常に一定範囲以下になるので、測定者は感度校正を気にかけることなく測定作業に専念できる。
 タイマーによる自動校正は、あらかじめ設定した時刻に天びんが内蔵分銅により校正を開始する機能。測定作業の前(朝の始業前、昼休み、夕方休み等)に校正時刻を設定すれば、天びんがその時刻に自動的に校正をするので、安定した正確な測定が可能となる。
 設置場所の重力加速度の違いから生じる誤差の校正を自動でおこなう天びんもある。
 また、新光電子は不確かさが簡単に算出できる「電子天びん計量管理ソフトHKS」を発売している。

日常点検・定期点検・定期検査の実施方法

それぞれの点検・検査方法は以下の通り。
▽日常点検=(1)設置状態(水平)の確認(2)計量皿やその周辺の汚れ、異物の有無の確認(3)ゼロ点の戻り確認(4)普段測定している重量の分銅を載せ、重量表示を確認
▽定期点検=日常点検の点検項目に加えて、(5)ひょう量の分銅を載せ、重量表示を確認(6)ひょう量の2分の1の分銅を載せ、重量表示を確認。季節の変わり目など、実施月をあらかじめ決めておくと良い。
▽定期検査=定期点検の点検項目にさらに加えて、(7)繰り返し性の確認(8)偏置誤差の確認(9)直線性の確認。実施月を決めて、年に一度は実施する。

分銅の選び方

点検に使う分銅の選び方も重要である。使用する天びんに適した分銅を使用しないと、きちんとした点検ができない。
 分銅には、円筒分銅、円盤分銅、枕型分銅、板状分銅という種類がある。どれがその天びんを校正するのに適しているかは、天びんの種類によっても異なる場合があるのでメーカーや、天びんを購入した代理店などに相談して欲しい。
■等級の選び方
 日常点検では、通常測定している試料の重さに近い分銅を用い、精度は誤差の許容範囲の1/3で選定する。
 たとえば、通常使用している試料の重さを約1000g、誤差の許容範囲を±100gとすると、表す質量1000gで精度は±30g以下の分銅が必要となるので、F2級の分銅を選定しなければならない。
 定期点検では、天びんのひょう量に近い分銅を用い、精度は誤差の許容範囲の1/3で選定する。
 たとえば、天びんのひょう量6200gで、誤差の許容範囲が±100gとすると、表す質量6000gで精度±30g以下の分銅が必要なので、F1級の分銅を選定しなければならない。
 分銅の等級と最大許容誤差は、分銅を扱っている各はかりメーカーや、分銅の専門メーカーのWebサイトやカタログなどに掲載されている。

特定計量器は定期検査が義務

なお、特定計量器(注)の場合は、法律で定められた検査を2年に1度受ける必要がある。
 特定計量器の定期検査は、都道府県知事または特定市町村の長が実施する「定期検査」を受ける方法(指定定期検査機関による「定期検査」を含む)と、「定期検査に代わる計量士による検査」を受ける方法がある。
(注)特定計量器=取引または証明に使用する場合において、適正な計量を確保することが社会的に求められる計量器および一般消費者の日常生活における適正な計量実施の確保が求められる計量器(薬局の調剤や食肉の量り売りなど)。

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