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日本計量新報 2015年12月6日 (3083号)

放射線測定の確かさを公的に担保する方法とその制度

2011年3月11日に発生した三陸沖の地震は大きな津波を発生させて東京電力の福島第一原子力発電所を襲い、緊急用の電源の不備を衝いて原子炉の制御が効かなくなった。放射能が大量に漏れてこれが北西方面に吹く風にのって周辺地域は放射能に汚染されて人が住むのに不適になった。放射能は関東方面にも飛び散り農林水産物が汚染された。このとき放射線の量を測定する計量器が大量に売れて在庫がなくなった。そこそこの性能があるらしい機器は2万円でインターネット通販されていた。やがてホームセンターでは4000円ほどで「放射線測定器」と名の付く計量器が売られた。

2015年10月8日に青森市で開かれた東北6県北海道計量協会連合会総会では、放射線測定器の値が100までならよくて、101になると測定された品物などが出荷できなくなるというようなことになる例を引いて、測定器の信頼性と測定の誤差についての合理性が確保されているとはいえない旨の発言があった。そして放射線測定器を計量法が直接に規制する特定計量器に指定して、計量器としての信頼性を確保すべきだという趣旨の提案が宮城県と福島県の計量協会からなされた。

測るための器具機械装置は計量法では計量器とされる。計量法が直接に規制するのは特定計量器として指定した計量器である。計量器と特定計量器では計量法の規定の上では意味が違う。「放射線測定器は計量器である」という経済産業省の係の人の説明にこの地の計量協会長など関係者は放射線測定器に対する当局の態度は一歩前進したと受け止めたのであったが、言葉どおりに受け止めるとそこには前進などなかった。ここには東北の福島県や宮城県などの関係者の期待が現れているといってよい。一つの言葉が二つに解釈されるが計量法においては計量器と特定計量器では意味が大きく違う。その計量器を特定計量器と聞いてしまうのは計量法のややこしい論理に不慣れな人にはおきて当たり前である。

米国の原子力潜水艦が横須賀港に入港したときに測定される海水の放射能の変化を調査測定していたデータがねつ造されていたこと国会で取り上げられた。これを40年ほど前の1974年1月の国会において共産党不破哲三衆議院議員が取り上げた。このねつ造データを示された時の政府は困惑し、原潜の入港は183日間停止された。米国のキッシンジャー国務長官はこれを早く解除するように日本政府に迫っていたことが後に公開された米国務省の公開資料にある。

日本国政府は放射線測定など環境測定に関係する計量証明の適正と安全を確保するために計量法に環境計量士制度を新設したのであった。米国の原子力潜水艦や原子力空母が横須賀港に寄港したときに放射能汚染物質を投棄したために海水が汚染されたのか、原潜や原子力空母はこのころには放射能汚染物質を垂れ流す構造になっていたのか定かではない。しかし環境計量士制度の創設と環境計量証明の実施によって横須賀港における放射能汚染の状況が確認されるようになった。

40年前の同じころ小沢一郎衆議院議員は三木内閣で科学技術庁の政務次官になった。1975年12月のことである。原発の商業化のための研究がなされていているころで、小沢氏は担当の官僚に原子力は安全で安上がりで準国産エネルギーであり、高レベルの廃棄物の処理はガラス固化技術によって対処できると説明を受けていた。地震が発生すると活断層に埋設された高レベル廃棄物はガラスが壊れて漏れだす。40年後の現在でも高レベル廃棄物の処理方法は見つかっていないと小沢氏は慨嘆(がいたん)する。

不破哲三氏は田中角栄首相は「完全に参りました」という態度で対応策を出すということをしたと述べる。小沢一郎氏は官僚の説明に反論する知識がなかったために疑問をそのままにしていたが、説明のいかがわしさがここに浮き彫りになる。官僚がなにかの都合で政府高官を騙したり誤魔化したりする構造はいまなおそのままに残っているようだ。

2015年10月24日に東京都で開かれた関東甲信越地区計量団体連絡協議会の会合では北野大(きたのまさる)淑徳大学人文学部表現学科教授が講演し、1972年に博士課程を修了したのちに、分析化学の専門家として(財)化学品検査協会(現(一財)化学物質評価研究機構)に勤務していたときに第1回環境計量士国家試験に合格したことを明かした。40年が経過した環境計量士制度と環境計量証明は世の中に定着して機能している。この制度を原発における放射線測定とその管理に結び付ける方策を計量法に盛り込むことはできないか。北野大氏は安全学に取り組んでおり、フェイルセーフの言葉を講演で何度かもちいた。二重の安全構造、間違っても大過なしの考え方と聞きなした。

取引と証明にかかる計量法の規定と放射線測定器とその測定(計量証明)の確かさの確保のために、計量法は40年前と違って環境計量士制度と、国家計量標準とつながる機器や測定の確かさを公的に証明するJCSS制度ををつくっている。原子力を動かしたりそれを管理するのにともなって発生する放射線の測定の確かさを公的に担保する方法を制度に盛り込むことをすべきである。

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