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日本計量新報 2015年12月13日 (3084号)

三陸地方の津波と震災被害からみえてくる事柄

東日本大震災による被災地は現在どのような状態であるか。ここでは原発事故による被災地のことを除いて現状をみていく。そしてその対象地域を三陸沿岸に限定する。2015年10月11日、震災から4年7カ月の状態である。

被害が大きかった宮古市田老地区、山田町と大槌町の中心市街地、釜石市鵜住居地区、大船渡市河口部、陸前高田市中心市街地、南三陸町沿岸部、女川町中心市街地などでは、高台の切り土による高台移転のための工事、低地の盛り土による地盤の嵩上げ工事が進行中であり、かつての賑わっていた市街地はダンプカーなど工事車両が頻繁に走り回っていて、そこには住民の姿は見えず地元車の走行は少ない。  復興の計画に対して工事の進行は遅れているようだ。2015年には住居と商工業施設が津波被害を受けないような場所に設置されるための工事がすんでいる予定であるのに、これがまだである。その進行は市町村によってまちまちであり、陸前高田市は比較的早くこの工事が進行している。重機械と工業力によって強引に津波が到達しない高い場所をつくって、そこに住まい商工業を営もうとするのは、低地で暮らしていた人が多かったからである。

釜石駅のすぐ前にある新日鐵住金釜石製鉄所(旧富士製鐵釜石製鉄所)が稼働している。釜石駅には津波は到達しなかった。製鉄所は現在は新日鐵住金の棒線事業部のもとで線材圧延設備によって線材の生産をしている。その種類は低炭素鋼・中炭素鋼線材、ばねやケーブルに使用される高炭素鋼線材、ボルトなどの部品の材料に使用される冷間圧造(鍛造)用線材、ラジアルタイヤに使用されるスチールコード用線材、溶接用線材などだ。従業員は200人ほど。1989(平成元)年に高炉を休止しており現在は銑鋼一貫製鉄所ではない。

製鉄所は規模が縮小されつづけており従業員は愛知県や大分県などに移動した。このような事情によって釜石市の人口は1960 (昭和35)年に8万7511人であったのが2015年10月現在は3万5918人に減少している。製鉄所の従業員は津波被害が大きかった鵜住居地区や大槌町ほかに住居をもっていたから、この地域の人口減少に影響している。工業とそれに従事する人口の相関関係の典型事例が釜石市の人口と製鉄所の操業にある。

日本列島の沿岸部には工業施設が多数設置されている。地震のあとに押し寄せる高さ8メートルの津波被害にあう工場は多い。その工場が三陸沿岸と同じように津波被害にあうことを想定すると、ゆっくりではあっても三陸沿岸に工場を移設したり、新設することを考えるとよい。なぜならば震災被害からの復興策によって三陸沿岸は津波対応ができているからである。三陸沿岸の難点は道路交通の整備が進んでいないことだ。盛岡から宮古への道、花巻から釜石への道、大船渡市、陸前高田市、気仙沼市といった地域への交通は、東北道などからの道のりが一般道を使うために所要時間が長いことである。

日本列島の地震被害への対応、津波被害への対応ということでは少しずつでも高い場所への施設の移動を進めていくことが大事である。三陸沿岸の縄文期の遺跡の多くは津波が到達しない丘陵部や尾根の鞍部などにある。縄文人の知恵に反して現代の人々は学校教育によって知識を膨らましても肝心の知恵を養っていなかったということができる。

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