計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2015年6月  7日(3059号)  14日(3060号)  21日(3061号)  28日(3062号)
社説TOP

日本計量新報 2015年6月21日 (3061号)

計量法と計量行政とその実施体制は国民共通の道具だ

北陸新幹線が3月14日に東京駅と金沢駅間で開通した。2015年は記念すべき年になった。日本の鉄道は1872(明治5)年10月14日に、新橋駅と横浜駅間で正式開業した。明治政府は日本の旅客交通と貨物輸送のために鉄道を敷いていく。大きな国家予算が投じられた。日本政府は1875(明治8)年8月5日太政官達第135号によって、度量衡取締条例を制定した。この年にはメートル条約が締結され、フランス政府は各国に条約加盟を勧誘したが、日本政府は国の度量衡の体制がメートル法に対応していないことなどもあり、すぐには加盟しなかった。日本は1885(明治18)年10月9日に加盟手続し、1886(明治19)年4月16日にメートル条約(同年4月20日勅令)として公布した。
 蒸気機関を利用する鉄道が初めてイギリスで実用化されたのが1825年であり、これから30年後の1853年の幕末ころに実働の蒸気車の模型が日本で走った。それから20年ほどで日本の鉄道が運転を開始したのだから、動きは急であり明治政府の西欧を見習っての工業社会への政策の舵取りは国の運命を託したものであった。日本では「国」とはそれまでは「藩」であったが明治政府のもとで「国」は1つとなり、度量衡制度も藩ごとに少しずつ違っていた制度をメートル法の精神を基本にしてつくりかえる動きとなり、ここに度量衡の基準となる基準器をメートル法と連動させて保有することになった。
 鉄道は人と物資の輸送という日本人のための共通の道具であり、度量衡制度とその施行も同じであった。現代の政治と国(政府)は国の基本となる道具としての社会基盤に投ずる費用割合は明治政府初期のころと比べると大きく減じている。鉄道にも度量衡行政にも多くの費用が投じられ国の重要な社会基盤として役割を果たした。現代は普通選挙となり、選挙民の小さな利益のために費用が向けられるようになって、大事な社会基盤の整備が手抜かりになっている。そして国の財政は借金を大きく背負うようになっていて、これが萎む気配はない。
 日本国内の旅客輸送と物資輸送に占める鉄道の割合は、自動車交通の発達と連動して減っている。敷かれた鉄道が旅客不足のために維持が困難になり、廃線になったところは少なくない。代わってのバスでの旅客輸送が時代の反映であるから、一概に鉄道輸送だけを褒め称えることはできない。そうではあっても高速鉄道による旅客輸送にとって新幹線方式は有効であり高速交通網が敷かれることによって都市集中型の産業と人口構成に少しは修正が加えられる。北陸新幹線が開業した富山県は工業の立地が盛んな地域であり、人の輸送のための時間が短くなることによって、かつての京浜工業地帯、阪神工業地帯、あるいは東海道沿線の工業地帯の賑わいがここに生ずることが予測される。
 日本国政府は中国などからの観光客が増えていることをテレビメディアを通じて、ことさらに大きなできごととして報じさせて悦に入っている。本筋は日本の各地で暮らす人に生き甲斐がある仕事と満足のいく収入をもたらすことだ。地方創生といって農業などで潤うようにすることができるかのような見せかけをしても駄目だ。就業人口が激減し高齢化している農業に助太刀をすることは良いとして、地方で工業振興、商業振興がなされることでなければならない。滋賀県は阪神工業地帯の脇にあって、その後に工場や研究所や大学などが立地するようになり、人口が増えている数少ない県の1つであった。それが人口減少に転じているから、日本の人口減少の動きは滋賀県でも補い切れない状態にある。
 明治初期の日本の人口は約3000万人であった。第2次世界大戦直後の日本の人口は7200万人であった。現在は1億2688万人(5月1日概算値)ほどである。国立社会保障・人口問題研究所の人口減少の予測がある。この機関は公開したホームページの閲覧をしにくくして、閲覧機会と実際の閲覧をさまたげるようにしている。小学校が次々に廃校になれば、これが中学校に及び、高等学校も4校が1つになることは確実である。その分だけ日本の人口が減るのであるが、いつまでにどの程度ということでは、楽観する数字を選ぶことはできない。
 明治政府がおこなった国民皆兵と軍事拡張は、この時代が米英独仏露など帝国主義の行動をとるなかではやむを得なかったという言い方はできても、これによって失ったものは大きい。軍事行動のための法整備に安倍内閣が躍起になっていることと、明治政府の列強に伍すための軍事拡張が重なって見える。お金を国民生活の基盤、産業振興の基盤のために使うようにすることが大事だ。計量法と計量行政とその実施体制は国民生活と産業振興のための基盤となるものであり、国民の生活を豊かで快適にするための社会の道具である。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.