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日本計量新報 2014年6月1日 (3012号)

比べたら50μg軽くなっていた国際キログラム原器

テレビやラジオや新聞などマスコミ報道が発する言葉は多くの人の意識の形成に作用する。人は、「食べて働いて遊んで寝る」のでありこれが普通の生活だから、普通の生活に沿った題材が選ばれてニュースがつくられる。ニュースや番組にとりあげられる材料の数は1日に100ほどだ。NHKは1日中というより夜をはさんで2日におよんで1度書かれたニュース原稿を読みつづける。100ほどの材料のニュースを伝えられる人の知識は薄くなり、皆が同じような観念で思考する。人々の考え方の反映の一つが選挙結果であり、ふりかえればあの選択は間違っていたとなる。民主党政権が4年を経ずしてなくなり、自民党が政権に復帰した。
 テレビ放送の隙間から飛びだしてくるのが、サプリメントと呼ばれる副食品の宣伝である。薬よりよく効き、人を健康にし、健康補助器具を使えば映像にでてくる細身の人や筋肉隆々の人と同じになると思わせる。それらが役に立つとしても、人は医食同源にかなう食事をして、働き、体を動かして、寝ることを含めた休養をとることで、健康でいられる。銀幕できらびやかに輝いていた女優が80歳ほどで死亡するとその原因は癌などの病気であることが多い。俳優などがうつ病などの精神疾患のために自殺する報道も目にする。ともに死の原因や遠因は病気である。何もなければ100歳まで生きていられる。
 人の健康は測ることなしでもなりたつが、血圧や血糖値ほかを測ることによって望ましい状態を確認することができる。しかし健康や病気のことを測って調べているその測ることの対象は十分ではない。漢方などの東洋医学からは西洋医学とは別の見え方がある。漢方が測ることをどのように考えているかは知らない。人の健康のために、あるいは病気の診断のために、測るべきあるいは知るべき多くの事柄がある。口内炎ができると頭のてっぺんの皮膚がチクチク痛む。便秘をすると頭痛がする。手首のむくみは飲み過ぎと疲れの結果だ。声が小さくなり言語が不明瞭なときはうつ気分であり、それが続く人はうつ病が疑われることになる。お腹がしくしくと昼夜問わずに痛むのは癌などの内臓の疾患が原因であったという事例は多い。計測することとその因果を追求することによって健康診断、病気診断がすすむ。医療分野では病気診断のためにさまざまに計測がおこなわれており、簡単にして有効な計測の方法が模索されている。
 計測があるから経済や社会がなりたつ、と表現されることがある。計測はいつどのようなところにもあった。計測を貨幣制度とともに語ることによって計量制度の意義を確認することがある。貨幣は金や銀であり、金や銀の質量(一般には重さ)と対比して他の物品の価値が表示される。アダム・スミスは『国富論』(諸国民の富)のなかで金の質量のことを長々と述べる。経済学の古典を読んで貨幣と計量制度を結びつけた人がいたのであろう。比べることは計測の一つの方法であり、GDPなど国の経済規模の増大は前年比ということで比べる。医療分野での血圧や癌組織の増減も比べることをしている。比べればよくわかることが多い。
 質量の基準となっている国際キログラム原器は100年の間に50マイクログラム軽くなっていることを国際度量衡委員の臼田孝氏がある会合で紹介した。洗浄や使うときの摩滅によるらしい。原理の上では国際キログラム原器の質量が1キログラムであるので、手持ちの1キログラムの分銅から50マイクログラム差し引いて、それを1キログラムとしなくてはならないことになる。実際の運用の場面や実態は知らない。1キログラムの何桁も大きな質量をもつ宇宙の事象にあてはめて修正する物事がひっくり返ってしまいかねない。計量の基準になる基礎単位の一つであるキログラムは、国際キログラム原器というモノに依存して成立していることから小さくない問題が起こるので、一般的な再現性のある方式に変更する研究がすすめられている。企業などの社内の計量の標準器がずれていると、それにつながる計測器もずれた状態になりかねない。使っている計測機器が求められる精密度を実現しているのか確認する作業は大事だ。精密度のつながりであり、多くの現場測定には国家標準器ほどの精密さは求められないが、所用の精密さについては考えなくてはならない。計測器の精密度のつながりと、それの実現のことをトレーサビリティという。このトレーサビリティは比べるという観点でとらえることができる。

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