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中国市場での拡大めざす


辻 修 氏

(株)東日製作所 社長

vol.1

日本計量新報 2010年9月26日 (2839号)2面掲載

売上はリーマンショック前に回復

リーマンショック後40%の落ち込み


−−東日製作所の現況はいかがですか。

 リーマンショックの前は、売上も右肩上がりに伸び、7、8年連続増収を続けていました。しかし、リーマンショック後は、2008年の12月、翌年の1月、2月と売上が急激に落ち込み、最終的に2009年度の売上は前年比で40%ほど落ち込みました。
 過去に例をみない落ち幅を経験し、これはどうにかしなければと思いましたが、景気が悪く製品をお客様に買っていただけません。そこで慌てずにいろいろな産業へとタネを蒔くことにしました。

自動車以外にも顧客広げる


東日製作所がつくっているのはトルクレンチという商品ですので、自動車メーカー関連の企業が主なお客様でした。ところが、リーマンショックは自動車産業を直撃したため、注文が激減しました。そこで、自動車関連のお客様を大事にしながらも自動車一辺倒の営業活動ではなく、他分野へも足を広げ、地道な営業活動を始めていきました。
 09年後半には鉄道産業などの他分野からも注文を多く頂けるようになりました。こうした営業活動のお陰でむしろ売上が40%の落ち込みで留まったと思っています。
 また社内的には経費の厳しい削減もしました。そのため厳しい経済環境でもなんとか赤字にはならずに済みました。現在は、過去最高であった2008年比で、全社的には約85%まで売上が戻りました。

海外販売比率は35%ほど


 −−販売における海外と国内の比率はどのくらいですか。
 国内が65%、海外が35%くらいです。リーマンショック後は一時、国内60%、海外40%と国内販売の比率が落ちました。

海外需要は回復


昨年2009年の12月から新しい期が始まっていますが、現状を見ますと国内の伸びはまだ鈍いです。しかし、海外に関してはリーマンショック前とほぼ同じレベルまで回復してきています。
 アジア圏がけん引役となり、一時的に海外の売上が売上全体の半分以上を占めた月もありました。しかしアメリカやヨーロッパはまだ回復が鈍いです。現状の回復率は2008年と比較して海外市場が100%、国内市場がまだ70%ぐらいです。

中国工場の生産能力を倍増


アジアの伸びは、中国、インドネシア、タイ、インドなどです。東日製作所は中国上海に生産工場があり、トルクレンチの組み立てをノックダウン方式でやっています。当社の製品のうち主要な100アイテムくらい、QLシリーズなどを生産しています。ここの生産品は、中国市場とヨーロッパ向けです。月に約2000本生産していました。
 ところが突然、今年の2月以降、受注量が月3000本、4000本、5000本と急激に伸びました。 年初の生産能力は最大で月産2500本ほどしかなかったので、需要に応えられないわけです。
 しかし、偶然にも上海工場では一部増産を視野にいれたプロジェクトが進行していました。1ラインの生産能力を残業なしで約1000本、これを2ライン増やして計4ラインとし月産4000本にしようということを2009年末に決めて、プロジェクトが動き出していたのです。
 偶然とはいえ、急速に増えた中国での需要を賄うためには都合がよく、スタッフの配置や工具の準備がすぐにでき、急激に伸びた需要に対応ができました。
 このように、中国市場の需要はすごい勢いで戻っています。現在でも月3500本から4000本ぐらいの受注で推移しています。
 中国市場でのトルクレンチの需要は、主に自動車産業です。国内外の自動車メーカーの工場で使っていただく場合が多いですね。日本国内ではまだ設備投資が押さえられています。


中国での販売に力入れる


需要が発生する場所が変わってきました。中国はもちろん、インド、タイ、インドネシアなどで大きな需要が発生しています。中国市場では工場のライン増設も行いながら、中国で「製品を販売すること」をもっと強化していきたいと考えています。
 これまでうちの中国工場には生産部門しかありませんでしたが、営業部門も立ち上げて、当社の常務取締役を総経理として派遣しました。そのほかに生産技術部門1人、営業担当者1人の日本人3人体制を構築しました。私どもの規模では3人の日本人を配置するのは異例のことだと思います。


トルクレンチは計測器+作業工具

堅牢性が求められる


ISO規格の浸透でトルクの管理が意識されるようになり、1990年代にはずいぶん売上を伸ばしました。
 ただ、トルクレンチは計測器としては特殊な位置づけだと考えています。計測器であるとともに作業工具でもあるということです。ノギスやはかりは計測器としての機能のみですね。しかし、トルクレンチは締め付けるという作業をして、同時に計測もするわけです。計測器としてはかなり特殊です。
 ノギスやマイクロメーターを投げる人はいないですが、トルクレンチはポーンと投げられます。私どもは丁寧に扱ってもらいたいのですが、現場ではそうもいかないですね。
 そこで、トルクレンチでは堅牢性、壊れにくい、ということがかなり必要になります。
 当社は、現場での使用に耐えられるトルクレンチをつくっています。しかし、いくら壊れにくくても重くてはダメなのです。ハンドツールなので、重いツールは作業性を損ねますから。そのバランスが難しいですね。


正しい使い方の啓発が重要


 

以前、国土交通省から、大型車のタイヤの締め付けに関して、トルク管理ができて簡便に締め付けられるものをつくりなさいという要請がありました。われわれはそれに応える製品をつくって市場に出しました。
 われわれは当然過負荷試験などもして製品を市場に出しているわけですが、販売してからしばらくして、その製品が壊れて帰ってきたのです。
 どうしてなのだろうと調査したところ、お客様はトルクレンチがカチンとなったらそれ以上は締まらないのだと思って、カチンと鳴ったにもかかわらず、さらにギューッと締め付けていたことが分かったのです。
 これで、トルクレンチの正しい使い方を啓発する活動の重要性に気づいたわけです。
 じつは自動車のアフターメンテナンスだけではなく、ISO規格の普及浸透でさまざまな分野でお客様が増えました。そのため、以前は壊れなかったものが壊れて帰ってくるようになったのです。自動車産業のお客様はトルクレンチを長年使っているので、正しい使い方を理解しています。しかし、新しい分野のお客様のなかには、トルクレンチを使うのは初めてであり、われわれが予想もしない使い方をする場合があるのです。われわれが、正しい使い方をお客様に伝える努力をしていないことを痛感しました。正しい使い方をしないお客様が悪いのではなく、われわれの努力不足なのです。ユーザーの幅が広がったということは、トルク機器の正しい使い方の普及の必要性が高まっているということです。しかし、普及は難しいことも事実です。


ポスターやシール、講習会で啓発


 

そこで正しい使い方がよくわかるポスターをつくったり、製品に「カチンで止める」というシールを貼ったり、という啓発活動をしています。
 トルク講習会も好評で、お客様の企業の研修プログラムにトルク研修を組み込まれることもあり、お客様から定期開催の要望があります。
 ネジは締めれば締めるほどよいと考えがちですが、締めすぎはネジの破断に繋がります。感覚ではどうしても、適正に締め付けを行うことが難しいのです。
 海外のユーザーでも事情は同じです。ですから、正しい使い方を説明したポスターの文字を現地の言葉である、英語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語などに直して、代理店が配り始めています。また、講習会などを現地の代理店が行えるように教育もしています。
 そういうことも含めて、正しいトルク機器の使い方の普及に、力を入れていきたいと思います。


 

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