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日本計量新報 2007年2月25日 (2665号)

計量の世界の人々は情報弱者になってはならない

インターネットは爆発している。パソコンの低価格化と能力向上そして高速通信網の発達によってインターネット環境が整備されたためほとんどのオフィス、家庭でインターネットを利用するようになった。普及率は100%といってよい。普及していないのはパソコンとインターネットを利用する能力が確保できていない人々のところであり、これらの人々は世帯数の30%ほどある。100%普及しているのに30%に行き渡っていないというのはとくにパソコンの特性であり、自動車の運転と同じように習わなければ取り扱いができないからである。パソコンのワープロ機能を利用できても電子メールやインターネット上の情報を利用できない人々も多い。様々な理由から、パソコンやインターネットをはじめとする情報・通信技術の利用に困難を抱える人を情報弱者(information shortfall)という。情報弱者は、低所得者や高齢者、視聴覚障害者などに発生しがちである。
 読み書き算盤(よみ・かき・そろばん)といって日本人は江戸の寺子屋時代からこの能力を庶民の熊さんや八さんでも習い覚えた。現代の高齢者のうち旧制中学や帝大などの教習課程を終えた人々が高齢者になっていて、高学歴であったこうした人々の中にもパソコンとインターネット能力の弱者が少なくない。パソコンとインターネットの利用は習い覚えるものであり、少しの訓練と少しの踏ん張りによってこの能力を身につけることができるのであるが、習い覚える環境と意欲などの関係で取り残されている人々は不仕合わせである。
 現代は情報社会といわれアルビン・トフラー氏は07年のNHK番組で知識経済という概念を示した。知識経済のもとでは、情報を使いこなす能力としての情報リテラシー(information literacy)が重要になる。うわさ話も情報のうちであるものの基本情報は新聞、テレビ、ラジオのほかインターネットの世界に蓄積される。とくに専門的な知識など多くの情報はインターネット上に蓄えられているから、インターネットで情報検索ができない人々の立場は極度に弱くなる。インターネットの世界を予告したマーシャル・マクルーハンは、古い世界の感覚を情報社会に持ち込んでいる人々を「活字人間」と呼んで化石的な人々と規定している。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は1999年4月に出版した著書『思考スピードの経営』で、事実の力で経営をしようと述べ、デジタル・ナーバス・システムを提唱した。企業の全社員が情報を共有しそれを使いこなすことでなければ情報社会の企業運営はできないということである。情報が伝達する速度はインターネットの発達によって農業社会あるいは工業社会と比較すると情報社会では極度に早くなっているので、企業の事業展開に対する舵取りも素早くなくてはならないということも述べているのである。
 情報社会と知識経済のもとでは企業や業界の境界が曖昧になり、場合によってはビジネスの境界が取り払われる。書籍販売がビジネスの主体であったと考えられていたアマゾンは音楽ソフトの販売をしているほか、計量器の販売も行っている。計量器販売に関係していえば計量器という器物の販売は、計量器という器物の機能の説明のうえになりたっている。計量器の機能としての性能と価格が表示されればどこから買ってもよいのであり、アマゾンはそのブランド力と信用力と情報発信力とアクセス確保力によって計量器販売ビジネスを展開して実績をあげているのである。
 計量計測情報の取得という面で適正計量管理事業所の業務あるいはハカリの代検査業務に従事する計量士のうち少なくない人々がパソコンとインターネットを利用する能力を持てないために情報弱者の立場にいる。企業経営者のうち高齢者にもこのような人々が少なくなく、また若い人々の間にも同じような状況がある。
 世の中には変わらぬ原理があるとはいっても基礎的条件が変わると変わってしまう事柄も多い。原理を理解し、変わらなければならない事柄にしっかりと対応しなければならない。基礎的条件の変化に対応した経営の舵取りや、さまざまな分野の人々の業務の在り方を考えるとき、情報社会と知識経済という言葉とインターネットが果たす役割の理解こそ大事であると考える。


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