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全体最適で、成長市場を開拓する


苅谷 嵩夫

(株)チノー 社長

vol.3

日本計量新報 2011年11月13日 (2893号)2面掲載

サービス体制が大事

働きかけが大事

苅谷 嵩夫計測・制御と監視の機器は使い捨ての商品ではありません。ほとんどの場合、24時間連続で使われて、しかも正しい結果が出ることが求められます。そこで、3〜5年で修理・サービスが必要になってきます。
 ですから、テクニカルなサービス体制が非常に重要になってきます。日本では、こういう体制がきちんとしているので、顧客から厚い信頼もいただいています。
 しかし、海外ではまだその水準には達していません。日本では当たり前になっていますが、なかなか新興国ではそういう体制はできていませんから、サービスの重要性を顧客に理解してもらう働きかけが重要です。これもビジネスチャンスです。定期的なサービスによって顧客は安心を得るし、わたしどもは信用と対価を得ることができます。

計量のトレーサビリティを構築

われわれのビジネスは、計測器に関わるものですから、計測器を売るということは測定結果を売っていることにもなるのです。そうすると、測定結果の正しさをどういうふうに保証するかという問題も出てきます。
 計量のトレーサビリティです。測定結果が、上位の計測器による校正により、次々に鎖のように繋がって、最終的には国家計量標準までたどり着きます。これにより、測定値の正しさが保証されます。
 計量のトレーサビリティは、新興国では、特にこれから大切になってきます。チノーの計測器は、必ず計量のトレーサビリティがきちんと取れているというようにしていきます。
 これまでは、故障したりすると日本の工場まで戻していました。これは、時間とお金のロスですね。ですから、現地できちんと対応できるように、工場をつくれば、必ず校正室などもきちんと整備するようにしています。
 昨年の10月から、インドの工場で、ノックダウン方式で、記録計の生産を始めましたが、その際には、検査工程に空調設備をきちんと整えて、25℃プラスマイナス1℃の環境を構築しました。そういうことを管理するマインドが形成できれば、計量のトレーサビリティもきちんと構築できて、顧客に信頼される商品を提供することができます。
 韓国の子会社は、一番先にそれをやり、最も成功を収めています。韓国の工場には、相当に力を入れて立派な標準室を造り、韓国標準科学研究院の国家計量標準との間で、計量のトレーサビリティを確保しました。工場を訪問した顧客もそれを見て、チノーの計測器に対する信頼を高めています。

各国の計量標準構築のお手伝いを

チノーの計量標準は、(独)産業技術総合研究所(産総研)と共同開発をしています。今、アジア各国の国家計量標準機関に、共同開発した計量標準を導入していこうとしています。各国の計量標準構築に関して、いささかでもお手伝いができたらと考えています。チノーはかつて、標準温度計を数十カ国にのぼる各国の機関に納めた経験があります。

現場と直結した研究開発

技術者を現場に派遣

それぞれの国でものづくりをするとなると、コア技術はチノーの各工場および技術開発センターが担うわけですが、センターのかなりの数の技術者を現場に派遣するようにしています。
 また、ここで商品開発をした部隊は、事業所へ移しました。そんなことで生まれた計測器が「ペーパレスのレコーダ」です。
 普通は製品を開発したら、それを工場へ技術移管して、後は工場の技術者がやるのですが、開発した人と生産をする人の間で、どうしてもギャップが生まれます。それでは痒いところに手が届く開発にはならないので、実際に現場に入って最後まで面倒を見ています。また技術者が顧客の現場に出ないと、本当の力になりません。

積極的に提案を

今回の原発問題も、技術はどんどん進歩しているのに、安全・安心を確保する技術に関して、進歩が見られません。皮肉にもさまざまな細部の安全のための制約が、新しい試みを阻んでしまったのではと思います。実証的にやればもっといろいろな技術を導入できたはずです。緊急時の熱画像処理やワイヤレス測定などももっと早くから導入していればと思います。
 われわれも、さまざまな分野で、もっといろいろな提案をしていかなければならないとの想いを強くしました。熱画像処理技術などは、さまざまな分野で応用できる技術です。これを工業分野の工場の中だけに留めておくのは、むしろもったいない話です。
 われわれは小さい熱画像素子を開発しました。放射温度計の応用ですが、これを使えば低コストでコンパクトな機器もつくれますから、応用範囲はさらに広がると思います。こういうように、一番得意とする分野の技術開発を一層進めて、新しい用途を提案し、安全・安心を始め、適用分野を広げていきたいと考えています。

温度には広い可能性が

温度には、技術開発の要素はまだまだあります。こういう新しい技術の開発による展開は、なくならないと思います。温度の計測は、産業の中でかなり基幹的ウエイトを占めますから。

4社が事業提携
海外水市場ターゲットに

−−分野が異なる計測器メーカーとの業務提携が注目されていますね。

巨大な水ビジネス市場

(株)チノー、東京計器(株)、長野計器(株)、(株)オーバルの4社で、伸張している海外水市場の開拓を主な目的として包括的な業務提携をすることになり、業務提携に関する基本合意を締結しました。
 現在、世界各地において人口増加、都市化、工業化の進展に加え食糧問題で水に対する需要が増加しています。特に発展著しい新興国では産業用水の確保、生活用水の安定供給、下水処理による水資源環境の保護などが急務となっています。現在36兆円といわれる世界の水ビジネス市場の規模は、2025年には87兆円に膨らむものと予想されています。巨大ビジネスです。

新興国市場への大きな提案に

世界の水市場において、水メジャーをはじめとした民間企業や政府の後押しを受けた企業連合などが各国で争奪戦を繰り広げていて、われわれもそれぞれ生産する計測器をプラントの末端に納入しています。しかし、水のコントロールに関して、実際の現場を担うのはわれわれが製造する計測器なのですね。
 そこで、われわれ4社が、単体ではなく水のコントロールで重要な計測器をひとまとめにパッケージ化してコンパクトな標準システムとして提案できれば、ニッチでローカルなニーズには直接応えられるということで、提携がまとまったわけです。
 東京計器は超音波流量計や電波レベル計等を中心に国内の上下水道市場で高いシェアを持っています。長野計器は圧力計における国内トップシェアのメーカーであり、オーバルは流体計測市場の国内最大手であると同時に海外市場や石油市場に豊富な経験と実績があります。この4社が保有する固有の技術を融合させて、新たな高付加価値商品や計装システムパッケージを創出することによって、高度・多様性に富むシステム要求に対し迅速に応えることができます。新興国市場への大きな提案になりますし、大きなビジネスチャンスとなります。

思い切った構造改革を実施

−−大規模な組織改革をされましたね。

生産体制を再編

先ほど「グループ全体最適」という話をしましたが、この目標を実現するために昨年、当社は思い切った構造改革を実施しました。
 組織体制を営業本部、生産本部、管理本部の3本部制に改めるとともに、生産体制を再編しました。
 計装システム、装置の製造を全て藤岡事業所に集約し、また、プリント板の実装や成形部品の製作は(株)山形チノーに集約し、久喜事業所には、(株)チノーサービス、(株)浅川レンズ製作所、三基計装(株)の生産部門を集結して、効率化とグループの連携強化を図りました。
 これにより、生産の分担を、重複を避けて、得意分野に応じて、相互に連携・補完し合う体制を構築することができました。

一品料理から標準化へ

これまで、計装部門というのは、一品料理的な要素が強くて、ノウハウは蓄積・共有化できない、生産性は上がらないという弱点がありました。
 それを標準化して、自分たちで設計し、自分たちで管理し、製造方法を確立していくようにしました。標準化したものをもとに、顧客からの注文があれば、それをアレンジしていきます。
 これは当たり前のことですが、その当たり前のことが今まではできていなかったのです。外注に任せていては、その技術は中身がわからないブラックボックスですが、自社でつくると確実に技術が進歩するわけです。データも蓄積され、共有化できます。そこが、われわれのコア技術になるわけですから、これをきちんとやる必要がありました。
 これにより、製造コストも下げることができます。昨年下半期は、この効果が出て、計装部門の利益が増えてきました。この上期も順調に業績を伸ばしています。
 生産体制の再編は、それぞれの事業所が一番得意としているところを徹底的にやろうということです。それにより、グループ全体の目的は一つですから、その目的を全体で達成するようにしていきます。これが「グループ全体最適」です。

海外市場を戦略的に攻め、海外比率を高める

また、今年は海外戦略に力点を置いています。それを着実に実行するために「グローバル戦略本部」を設置しました。
 中国、韓国、台湾、ASEAN、インド、アメリカ、ヨーロッパ、の各市場を全体的に俯瞰して、戦略を立案・企画していきます。
 たとえば、当面中国での大量の需要に対しては、オールチノーで対応する必要がありますから、そういうグループ全体の戦略を立てていきます。

人財の問題がカギ握る

人事異動でモチベーションを刺激

このように、目標に向かってチノー全体が一つになって動いていかなくてはなりません。そうなると、重要なのは人財の問題です。目標達成のために、機動的に動けるようにしなくてはなりません。人事がカギを握っています。
 この7月には、思い切って人事を換えました。人間は3年も一つの仕事をやれば、その仕事がやれるようになれます。その後に2年間くらいは、仕事の中身を改善していきます。しかし、同じ部署に10年もいれば、惰性になってきます。そうすると、積極果敢な仕事はできなくなります。そこで、どんなに長くても7年以上は同じ部署にいないようにしたいと考えています。

異動は海外へも含めて

同時に、異動は国内だけでなく、海外への異動も含めて実施します。こういうモチベーションに刺激を与えるローテーションがうまくいけば、その会社全体が伸びます。インドの子会社への人事は、よい例になります。
 海外勤務は、言葉の問題もありますが、自らの経験に照らしても、実際に現地に行って生活して、現地の文化に触れなければダメです。出張程度では、何もわかりません。海外で活躍する社員が多くなれば、会社のグローバル化も進みます。

新中期経営計画で飛躍はかる

これまで、4つの点を基本に話をしてきましたが、まとめます。

市場を開拓

第1に、東日本大震災からの復興に必要なことを最優先でやっていきます。同時に環境・安全・安心・新エネルギーの分野における新しいニーズをいち早くつかんで、積極的に成長市場を開拓していきます。

シナジー効果

第2に、各拠点を再編成しましたので、それによりスピーディーに商品開発して製造する体制を強化し、シナジー効果を出すようにします。グループ全体で目標を達成するために何がよいのかを考えて、発展的にやっていくための再編です。

海外事業を重視

第3に、海外事業は東アジアに注力し、海外拠点の強化と、生産の現地化などを進め、海外売上高比率の拡大を図っていきます。

リーマンショック以前の目標に再挑戦

第4に、2011年度を初年度とする「新中期経営計画」では「全体最適」をキーワードに改革を進め、企業体質を強化していきます。3年後には、リーマンショック以前に掲げていた営業利益率10%、連結売上高200億円以上と海外売上高比率25%以上という目標を実現できるように、チャレンジ精神で再挑戦していきます。
−−ありがとうございました。

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