(株)エー・アンド・デイ 森島泰信社長に聞く

「測ることに集中してビジネスを構築する」

(日本計量新報 2018年6月17日号[第3189号]、6月24日号[第3199号]に掲載)

聞き手は高松宏之編集部長
 

 

技術基盤にSBU活動を推進

 

−−業績は好調のようですね。

 

事業の4つの柱

 業績に関しては、昨年度比で増収、増益であり、予定どおり順調に推移しています。

 弊社の事業の柱は、SBU(戦略事業単位)による4つの事業単位で、メディカル事業、計量器事業、TNG※、サービス事業です。

 いずれの事業も、今期はプラスになっています。とくに海外市場で好調です。

 来年度も、増収増益の計画を立てて事業を推進していきます。

 

TNGは、自動車向けの試験機とか半導体向けのユニットで、次世代事業として運用しています。サービスも、独立採算制で1つの事業として推進しています。

 

昨年は創立40周年

 昨年は弊社を設立して40周年の年でして、お客様をお招きして記念行事も実施しました。

 これを機会に次世代へ交代できるような基盤をつくっていくなかで、次のステップへ進んでいきたいと考えています。

 

「技術」が資産

 弊社は、「技術」を資産として持っていることが、会社としての大きな強みです。

 現在も技術開発に関しては大きな投資をしています。昨年も売上比で12%ぐらい、金額にして48億円ぐらいを技術開発に投資しています。

 この基盤技術を、今後も進化させていきたいと考えています。

 

韓国、中国、ベトナムに生産拠点

 海外での生産と販売の拠点を整備してきました。

 生産に関しては、韓国、中国、ベトナムに拠点をつくりました。ベトナムの生産拠点もようやく100万台ラインに達しました。

 

生・販の拠点を成長エンジンとして

 販売拠点としては、米、英、独、加、豪、韓国、中国、印、露など9カ国にあります。

 この生産と販売の海外拠点を車の両輪にして、成長エンジンとして伸ばしていきます。

 

この先10年を見渡そう
 

 今年の1月に社員に対して訓示をしました。

 弊社の『40周年史』をつくる際にまとめた内容で、「この先10年を見渡そう」というものです。

 

技術革新の進化・深化

 1つは、技術革新が進化・深化するということです。IoTAIがかなり進んできていますし、10年後には技術に関して相当大きな変化が起こっているだろうと考えています。

 全面的に人間からAIに置き換わるということはありませんが、全般的に見ると、かなりの分野でAIなどに置き換わっていくでしょう。そのなかで、弊社がどういう存在価値を示せるのかということが大事です。

 

グローバル化

 2つめは、グローバル化の進展です。物やお金のグローバル化がもたらす経済規模の拡大や情報伝達のスピードアップといったメリットと、デメリットである格差が生まれている状況もあります。そういう事態への修正も含めて、私はこのグローバル化の進展という流れは変わらないと思っていますので、それにどう対応するのかということは、必然的に考えざるを得ません。

 

新興国の台頭

 3つめは、新興国の台頭です。

 現在、経済成長率で見れば、先進国は軒並み1桁ですが、新興国は2桁のレベルで成長をしており、今後10年間の高い経済成長率の国の70%は新興国であると言われています。これまで以上にこれらの国に力点を置く必要があります。

 

地球規模の高齢化

 4つめは、地球規模の高齢化です。

 社会の高齢化では日本が先鞭をつけていますが、韓国や中国も高齢化が進んでいますから、世界的に見ても非常に大きな影響がでてきます。

 一方、経済的に豊かになると出生率は下がる傾向にあるようです。ベトナムやフィリピンでも出生率は毎年減少しています。また、都市と農村の格差も広がっていきます。これらが経済に及ぼす影響はかなりのものがあります。

 この4つがキーワードです。

 

正しく測ることは難しい

 「ビッグデータ」もその前提であるデータが正しくなければ、結果は間違った、いい加減なものになってしまいます。

 正しく測る、正確に測るということは、計測においては基本中の基本ですが、これを実現することは意外に難しいのです。

 

アナログ技術が重要に

 私は、正しく測るアナログ技術が今後ますます重要になると思っています。

 現在、すべての産業がAIを活用しようとしている状況があります。

 しかし、そのなかで、「正しいデータの取得」ということに焦点を合わせている企業は、意外にありません。

 より原点に立ち返って、基本である、正しく、正確に測ることを強化することにより、企業価値を高めていきます。

 

自然界の現象はすべて動的

 測ることに対する昨今の要求としては、動的計量・計測があります。

 これはあたり前の話で、自然界で起こる現象はすべて動的なものですから、その中の一条件として、静的な条件があるわけです。

 温暖化対策の一環で、自動車関連では排ガスが大きな課題になっていて、10モードとか定常運転で、排ガスを測定していました。ところが、実際の車は、常に加減速をともなう動的な状態で走行しています。定常運転の時間はきわめて少ないといえます。

動的計測が重要

 ですから、動的な状態で、しかもリアルタイムで排ガスの状態を測定できないと、排ガスの排出を少なくするという改善は進みません。

 つまり動的な計測が普通であって、静的な計測は、ある特殊な条件がそろったときのみの計測であるというようになってきました。これまでの常識は覆りつつあります。

 

MBSの活用が進展

 今年の1月は自動車メーカー各社を訪問しました。その時に感じたのは、開発対象がたくさんあるということです。

 自動車を巡る環境状況への対応、ハイブリッドプラグインやEVなど、さまざまな技術開発のニーズがあります。

 そんな状況ですから、開発に関わる人の数が足りません。そこで、これらを解決する手法としてMBS(モデル・ベースト・シミュレーション)が注目されています。すべての事象をモデル、いわゆる数式に置き換えてシミュレーションする、システム開発の技術です。

 実機をつくらないで、シミュレーションで開発を進め、品質や開発速度を飛躍的に向上させる技術です。

 

モデルつくりには計測精度の向上が不可欠

 この場合、モデルをつくるには、その精度が重要で、そのためには計測の精度を高める必要があり、計測精度を上げることによって、モデル精度が上がります。

 自動車メーカーは、設計をするために、このような測定・試験結果の精密なデータが必要なのです。

 

計測は専門企業に委せる

 測定・試験結果の精密なデータを得るにはどうしても専門性が必要とされますので、計測は専門企業に委せて、彼らは結果としての高精度なデータを入手することになります。 つまり、技術力があると企業価値は上がります。

 

「動的計量」は難しい

 今度、チェッカーやホッパーなどのいわゆる自動はかりが計量法の検定の対象になりましたね。これはよいことだと思っていますが、自動はかりの検査は実際には非常に難しいですね。

 しかし、動的な動きというのは、力で見るとX軸、Y軸、Z軸方向の力の集合ですが、アナログセンサで出力されるデータは、XYZ方向の力が混じった状態です。私どもは、自動車関係の試験では、ホイールは6分力センサを使って、XYZ軸方向の力をそれぞれ分力して測定しています。現在はこういう技術が非常に進んできています。

 使用するセンサの特性にもさまざまな条件が求められます。

 

インターネットに振動をキャンセルできる装置の動画を掲載

 弊社はインターネットに、振動をキャンセルできるハイパフォーマンスデジタルフィルタ(以下、HPDF)の動画を掲載していますので、是非1度ご覧ください。

http://www.aandd.co.jp/adhome/products/keiryo_kiki/ad4408c.html)。

 

 

HPDFで「高精度」と「高速応答」を両立

 産業用計量器には、振動の多い環境において精度よく計量することが求められます。そのため各面からの振動対策が必要になりますが、それらの対策は一般的に計量器の応答速度を遅くすることにもつながるため、高精度と高速応答を兼ね備えた計量器を作ることは容易ではありません。

 この課題への回答が、弊社のデジタル演算技術を駆使した新開発のHPDFを搭載した機器です。

 機械的な防振対策が軽減でき、振動を加えつつおこなう計量や、昇降させての計量も可能になりました。

 不安定な被計量物の計量も可能です。

 振動のある状態での校正(キャリブレーション)も可能なので、生産を止める損失や休日に校正を実施する費用がなくなります。

 

センサと信号処理技術の活用でビジネスチャンス増える

 このように、センサと信号処理技術(アルゴリズム)を活用すれば、ビジネスチャンスはまだまだ増えると感じています。

 

血圧も動的計量が大きなテーマ

 弊社は血圧計を事業としてやっていますが、この血圧計もアルゴリズムの塊です。

 これまでの血圧計は静止した状態で測っていますが、人間の血圧は、行動につれて常に変動していますので、リアルタイムで動的に血圧を測定することが重要になってきています。

 これにより病気の治療から、病気にならないようにすること、つまり疾病の予防へということにつながり、国の医療費抑制にも大きく貢献できると思います。

 信号処理技術(アルゴリズム)は、トルクの計測でも活かされており、当社製品は01%の精度で測れますが、他社製品は1%です。1桁精度が違います。これは分力で測定して、ノイズをリアルタイムでキャンセルすることにより、高速で高精度な計測が可能になったわけです。

計測のニーズは広まっている

 このように、測ることに対するニーズは広がってきています。測ることはエー・アンド・デイの事業の4つの柱とすべてが関連しています。したがって、測るという原点をより重要視し、さらに測ることに集中して技術革新を進めて、ビジネスを構築していきます。

 

−−ありがとうございました。

 

会社概要

【社名】株式会社エー・アンド・デイ

【所在地】〒1700013、東京都豊島区東池袋3丁目2314

【代表取締役】森島泰信

【設立】1977(昭和52)年5

【資本金】638800万円(2017〔平成29〕年331日現在)

【売上高】4019900万円(2017〔平成29〕年3月期連結)、2909900万円(2017〔平成29〕年3月期単独)

【従業員数】2567名(2017〔平成29〕年331日現在連結)、694名(2017〔平成29〕年331日現在単独)

【事業内容】電子計測器、産業用重量計、電子天びん、医療用電子機器、試験機、その他電子応用機器の研究開発、製造、販売

【主要製品】計測・制御・シミュレーションシステム、FFTアナライザ、音・振動解析装置、デジタル超音波探傷器、デジタル超音波厚さ計、材料試験機、半導体製造装置用ADDA変換器、電子銃、電子天びん、デジタル台はかり、ウェイング・インジケータ、ウェイング・コントローラ、各種産業用計量装置、ロードセル、計量・計測データ処理システム、医療用デジタル血圧計、医療用各種体重計、家庭用デジタル血圧計、家庭用デジタル体重計、超音波吸入器