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温度基準を作り続ける誇り

株式会社東亜計器製作所代表取締役社長
日本硝子製計量器工業協同組合理事長

横山守二

 

 私の会社では日本の温度の基準となる「ガラス製基準温度計」を製作しています。このガラス製基準温度計は気象庁や官公庁、大学、研究所、メーカーなど様々な場所で使われています。デジタル体温計を製造する際、基準温度計で適切な温度調整をすることによって、デジタル体温計は一定の正確さを保ち温度を表すことができます。また温度計の正確さは企業が製品を製造および販売する際に価格にも密接に関わっています。ガソリンは温度が上昇すれば体積が膨張し量が増えるため、厳密な温度管理が不可欠です。

  メーカーでも基準温度計が無ければ正確なモノづくりはできません。特に現在ではISOという国際標準の導入によって製造現場は厳密な温度管理が求められるようになり、基準温度計が活躍しています。

  最近は多種多様に存在しているデジタル温度計では、異常があった場合の発見や原因追友に時間が掛かることがあるのに対して、ガラス製温度計は目視ですぐに異常を判別することが可能です。また、ガラス製基準温度計は物性変化の少ないガラスと水銀で構成されています。製作工程では、電気炉の中で熱したり冷ましたりを繰り返すアニーリングという工程を3〜6か月間にわたって繰り返します。これによってガラスの分子が安定し、長期の精度維持が可能となっております。

  このガラス製基準温度計の信頼性は様々な分野で欠かすことができず、その存在価値は今後も揺るぎません。

  私の会社が製作しているガラス製基準温度計は、産業技術総合研究所の基準器検定に合格し、検定が定める構造と精度を実現しています。それを可能としているのは厳選された素材、そして長年にわたり培われてきた技術者たちの職人技です。精度を保つには温度計の感温部の大きさや感温液の量を微妙に調整する必要があります。極微細なガラス加工や注射器を使用して感温液を的確に注入するのはすべて手作業。また温度計に刻まれた目盛もすべて手作業です。こうした作業は百年以上継承され続けた熟練の技で、それができる職人の数はガラス製温度計の需要とともに少なくなってしまいましたが、今でも当社はこの技術によって支えられております。日本だけではなく世界でもほとんどない技術だと思います。

  明治37年に創業して以来4代目となる私も、温度の正確さにこだわってこれからも技術を継承していきたいと思っています。そして様々なニーズに対応できるよう今後はデジタル技術の拡大、計量器の精度をチェックする校正事業、さらには商社的な業務といった分野にも挑戦する所存です。

■ガラス製温度計をご利用の皆さまへ


  私が理事長をつとめます日本硝子計量器工業協同組合は、ガラス製温度計、湿度計、浮ひょう等の製造事業者が参加している団体です。

  皆様にご理解いただきたいことは、現在ご利用の、ガラス製水銀温度計(以下、水銀温度計)は、現在もまた未来も問題なくご利用いただけます。

  水銀に関する水俣条約とは、水銀の一次採掘から貿易、水銀添加製品や製造工程での水銀利用、大気への排出や水・土壌へ放出、水銀廃棄物に至るまで、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を求める条約です。2013(平成25)年10月に熊本県で開催された外交会議で、採択署名がおこなわれました。

  2015(平成27)年6月に水銀による環境汚染の防止に関する法律が可決成立しています。

  私どもは、この法律で規制の対象になる水銀温度計の製造販売をしています。2020(令和2)年末から製造、販売に関しての適用を受け、製造について一定の条件のもと、事業者は製造申請、許可を受け対応しております。ただし研究・計測器の校正および参照を目的とする製品、非電気式で高精密度の測定に使用されるものは除外として従前どおり製造することができます。

  目量(目盛)などにより適応除外に該当する水銀温度計も従前とおり製造することができます。

  具体的には、
(1)計ることできる最高温度が300℃以下であって、目量(目盛)が0・5℃以下のもの。
(2)計ることができる最高温度が300℃を超え500℃以下のものであって、目量(目盛)が2℃以下のもの〔(3)に該当するものを除く〕。
(3)塩酸、硫酸その他腐食性の高い薬品の温度を計ることができるものであって、計ることのできる最高温度が200℃を超え500℃以下のもののうち、目量(目盛)が2℃以下のもの

  また廃棄については、適正な方法での廃棄をお願いいたします。

  私ども組合員の製品でしたら組合事務局までお問い合わせいただきたくお願いたします。

  最後に、ガラス製温度計の優れたことをご紹介します。

  ガラス製温度計は感温部から温度の指示部まですべてを確認することができます。このことは温度計測における示度の確認をすることができる構造です。つまり、温度計に不具合があればすぐに確認することができる構造です。一方、感温部と表示部がある温度計ではその示度の確認は他の温度計ですることになります。つまり、その温度計そのものが正しく表示されているかの確認はその温度計では確認のしようがありません。

  ぜひ皆様のご理解のもと、ガラス製温度計をご利用されることをお願いいたします。また水銀温度計のご利用にあたり、水俣条約のご理解を改めて、お願い申し上げます。
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