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【背景の第三 : 整備機関に係る行政改革の実施を受けた機動的業務展開の必要性】
(6)材料
(背景)
材料物性のデータについては、米国のASTMデータやMILハンドブック、欧州のGMERINなど、長い歴史を経て体系化されてきたものがあり、キャッチアップの時代には我が国は外からもらってくるものと思っていた。しかし、これからは世界のトップランナーとして自らフロンティアを切り開いていく必要がある。基礎的なデータの積み上げがあって新規な独創的な工夫につながる。
我が国においても少しづつではあるがデータの蓄積が進んできており、さらにどう使いやすくするか、どういった方向にデータを広げていくかという課題がある。
国際的にはデータ構造の共通
化、試験評価方法の標準化といったいわゆるルール作りについての取組みが国際協調により進められている。一方で、Materials
DataBanksはEUのプロジェクトで整備されたものであって、EU以外の国にはデータ利用が認められていない。データベースの整備はこのように、国際協調の要素と同時に国際競争の要素も多分に含んでいる。
a.整備のプライオリティ・方向性及び整備体制の考え方
○整備のダイナミズムの方向性
知的基盤はある程度の幅と量の「厚み」が必要であり、ある厚み以上になると効果が飛躍的に発揮されるものと考えられるが、基盤としての質を上げるには、厚みとともにダイナミズムも重要である。すなわち、文献データを網羅的に集め俯瞰性を高めるとともに、新規開発の方向を重点的、戦略的に定め、基本材料から先端材料へ、製品設計に最も必要とされる基本的な物理特性、機械的特性から機能特性へといったようなダイナミズムが重要である。また、研究開発の過程で生じた失敗に係るデータもその後の研究開発を効率化するという観点から有効である。
○リーダーシップによるデータベースのグランドデザインと関係者が広く参加する枠組み
材料物性については、狭く合目的性を追究し過ぎると汎用性に乏しくなり、その材料の全体像を俯瞰的・大局的に見ることができず、特定の意図した目的には使えても、知的基盤として公開してより多くの研究者・技術者がアクセスしてその中から新しい発見やアイデアに結び付くという波及効果
が望めない。材料を必要な視点から俯瞰することにより新しい着想を生み出すような使われ方を考えたデータベース
のコンセプト・グランドデザイン作りとリーダーシップを発揮する研究者・技術者、それを実現する高度なシステム設計を行う研究者・技術者、データ計測・評価を行う研究者・技術者などのチームが必要であり、機関の枠組み、さらには国の枠組みも超えて連携することが必要である。
また、材料研究者がデータを使うだけでなく、自らの研究成果
のデータをインプットするとともに、改良・改善のアイデアを出し合う参加型のネットワークが必要である。
○求心力のあるデータベース
評価の観点から研究者のデータ整備インセンティブを向上させるため、データベースの科学技術的権威を高めることが効果
的である。
それには、学協会との連携、世界への情報発信が重要である。論文誌に投稿する論文には計測条件等を付したデータの提出を求め、データベースに登録する制度が効果
的である。また、使いやすいデータベースであればそれだけ研究者・技術者の注意や興味を引き、上で述べたような参加型の求心力のあるデータベースが望まれる。まず、自立的なモデルを1つ作ることが重要である。
○自発的にデータが集まってくるような工夫
データベース整備に当たって、現在の目的のみならず、常に未来の目的を志向したダイナミズムを確保するには、先端的な研究開発からもデータが自発的に集まるようなデータベースの求心力と、国のプロジェクトについては、得られたデータを登録する制度などの検討も必要である。
登録制の前提としては、
・国のプロジェクトで得られたデータは、国の共有財産であるという基本的合意が得られていること、
・データを登録し公開する仕組みとしてのデータベースシステムが存在していること、
・登録するデータに含まれる項目とその表現方法について規定されたガイドラインが用意され、そのガイドラインに沿ったデータの提出がプロジェクト実施の必須項目として含まれること、
・研究開発インセンティブの確保のためプロジェクト終了後一定期間はデータの公開範囲を制限する等、提供されたデータの公開に関する規定が明確に示されること、
が必要である。
○使用目的を十分考慮したデータベース設計
材料のデータベースを使用目的から見ると材料開発を目的としたものと材料利用(製品設計)を目的としたものに大別
できる。それぞれに必要なデータ項目・要素は一部重なるが重点に違いがあると考えられる。材料利用の立場からは、材料そのもの(完成品としての材料)の性質、サの温度依存性、時間依存性などに重点が置かれる。一方、材料開発の立場からは、完成品としての材料の性質よりも材料を構成する化合物の化学構造や合成・反応に関する特性などに重点が置かれる*77。なお、材料開発には完成品としての材料の製造条件や製造手順に関する詳細なデータが必要であるが、特定材料に係るこのようなデータは製造ノウハウに当たり、基本的には製造事業者が自ら整備すべきもので、また公開には馴染まないものと考えられる。
また、使用目的とは別にデータベース内の情報をどのように入手し加工・成形等を行っているかという技術的な使用形態に関しては、技術の進歩や材料開発・利用の置かれている状況等に応じてデータベースに対する要求も変化することから、この使用形態についても押さえておく必要がある。
材料データベース整備に当たっては、以上のような使用目的による必要なデータ項目・要素の違いや使用形態を十分路まえて設計することが必要である。
○二次加工に必要なデータセットとデジタル化
データを実際に製造や設計に使おうとする場合は、物性データと併せてそのデータの前提条件として、試料の製造条件、加工条件、試験条件、データのバラツキ等が示されていることが重要である。さらに、数値データは表や図のままの情報ではなく、デジタル化されていることがアプリケーションソフトによる統計解析等二次加工を可能とすることから重要である。このようなデータ構造は、整備に当たって各データベースで共通
認識を持つことが統合的な活用に重要である。このような検討を行う会議体など関係者の枠組みが重要である。各材料種により要求されるデータ項目・要素を材料種によらず共通
するものとしないものに整理し、その共通するものの名称の統一(慣例上統一が困難な場合は、同義語としての辞書)、測定単位
のSIへの統一(慣例上統一が困難な場合は、単位変換機能)などの検討が求められる。
○大まかな材料種ごとのデータベース
このような共通構造があれば、すべての材料を一つのデータベースに統合する必要はなく、利用者にとっての利便性を考えれば、例えば、金属、セラミックス、ガラス、有機材料などある程度大まかな分類で存在しそれらが連携することが効果
的である。
○自立的な運営
業界団体や学協会等に委託して整備したデータベースについては、自立的に運営されることを目指すべきである。
それには、データの性質(基礎的なものか応用的なものか、従来的なものか先端的なものかなど)のレベルにより、無料公開、有料公開、特定会員のみの公開といったようにきめ細かい提供形式にするとともに、データを提供した者には料金や閲覧範囲に特典を付す等多様な工夫が必要である。その際には、データの質を評価する仕組みと人材が必要である。また、データベースとしての科学技術的権威と求心力を高めることがデータの量
と質が自立的に高まり、結果として経済的自立性が向上すると考えられる。国の産業戦略、社会的課題に合致した方向でのデータ開発や民間での高度利用が実現されるアプリケーションソフトの開発などを産学官等の形で国の委託等により、データベースを発展させていくべきである*78。
b.国際的取組みの視点
○データ構造の共通化、試験評価方法の標準化への主導的参画と近隣地域のとりまとめ役
データ構造の共通化、試験評価方法の先取り標準化等の国際活動に積極的、主導的に取り組む必要がある。ファインセラミックス等における先取り標準化をはじめ、材料分野での技術的な基準やルールにおいて我が国の技術が反映されることは我が国産業の国際活動上極めて有意義である。このような国際的取組みにおいて、リーダーシップを発揮する(議長国、幹事国を引き受ける)ということは、先進国としての適切な「負担という国際貢献」をするということとともに、当該分野の全世界の先端の生きた情報が集まってくるということの重要性を認識すべきである。このような取組みは、VAMAS士79、我が国は幹事国を引き受けているISO/TC206(ファインセラミックス)士80等で進められており、さらに取組みを強化することが必要である。
また、このような世界的な展開を図っていくための足がかりとしては、近隣地域・アジア地域のとりまとめ役を果
たすことが重要である。当該地域への協力により、当該地域自身の基盤を整備・提供することになるとともに、技術的指導性の確保は、我が国企業の当該地域における活動を環境整備の面
から支援することとなると考えられる。
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