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【背景の第三 : 整備機関に係る行政改革の実施を受けた機動的業務展開の必要性】


(3)化学物質安全管理

 

a.整備のプライオリティ・方向性及び整備体制の考え方

(背景)

 化学物質の安全管理を適正に行うには、まず化学物質の性状を科学的に把握することが必要である。また、化学物質の性状を公表することにより事業者と周辺住民、政府と国民の間の円滑なリスクコミュニケーションを図ることが重要である。化学物質管理促進法*58においては、事業者の自主的な管理を基本とし、その前提として化学物質の安全性評価に関する試験方法の開発や化学物質の性状・取扱いに関する情報のデータベースの整備を国の責務と定めている。
 本分野は、化学物質のより適切な安全管理を目指して、PCBのような難分解性、高濃縮性、慢性毒性のある物質を市場に出さないようにすること(化書法*59)から始まり、化学物質の有害性情報の伝達と環境への排出量 の届出を義務づけて事業者の自主管理を改善していくこと(化学物質管理促進法)まで広がりを持ってきている。さらに、最近は微量 でも人や自然に影響を与えることが懸念されている内分泌かく乱物質の取扱いが課題となってきている。特にその有害性を適正に評価することが求められている。

 

○国自身の需要とハザードデータベースの整備体制

   化学物質の多種多様な取扱実態に関し、法規制を含めた適切な管理を促進するためには、国や産業界、国民などの各主体が科学的知見に基づいて適切な対応を図っていく必要がある。このため、国は化学物質の有害性に関する科学的知見の充実に努めるとともに、それぞれの主体がその知見を効果 的に活用し得るよう、知的基盤として体系的かつ長期的観点から整備(化学物質ハザードデータベースの構築等)していくことが重要である。
 当該知的基盤の整備は、公共性や技術的能力などの観点から、その整備主体が決められるべきものであり、NITEは、知的基盤整備事業の一つである化学物質ハザードデータベースについて、化審法、化兵器法、化学物質管理促進法の施行にあたって、新規化学物質の審査、国際査察の立ち会い、GLP制度に基づく優良試験所の確認、排出量 データの記録・集計等に関し国の事務を技術的側面から支援する役割を担っており、整備体制の中核に位 置づけるべきである。
 また、有害性等の評価や評価方法の開発及びデータ取得のための試験の実施等については、技術力、信頼性、適切な施設、人員等を有する民間試験研究機関や産総研の参加が必要である。

 

○積極的なデータ公開

   NITEは、国自らの需要として化学物質管理に係るデータベースを整備するとともに、化学物質のリスクに関する内外機関の議論を収集、体系化し、積極的に情報を公開して、事業者の自主的な化学物質管理や周辺住民・一般 消費者とのリスクコミュニケーションを促進するべきである。
 なお、民間等の参加・協力によって得られたデータについてもNITEの運営するデータベースに蓄積し、一体として提供していくことが有効であるが、事業者から得たデータは当該事業者の財産権等を侵害しないよう十分留意が必要である。
 また、NITEのデータベースのうち、専門家によるデータの評価と信頼性の確保が求められる性格を持つものについては、化学物質審議会における検討を経た後公開するべきである。

 

○対象とする化学物質等についての考え方

   化学物質安全管理基盤としてのデータベース構築において、対象とする化学物質や情報の種類については、現在進められている「化学物質総合評価管理プログラム」、「HPV(High Production VoIume chemicals ; 高生産量化学物質)点検事業」、「内分泌かく乱物質関連事業」それぞれで整理されている考え方に基づくことや「化学物質管理促進法」で対象となっている化学物質に関するデータを優先することにより整備していくことが適当である。それぞれの事業の要点は以下のとおりである。

・化学物質総合評価管理プログラム
 リスクが比較的高いと考えられる化学物質の有害性、暴露、リスク等の評価を実施するとともに、その有害性やリスク等を容易に評価することができる手法の確立のための研究開発等を行う。

・HPV点検事業
 OECD(Organization for Economic Co-operation and Development ; 経済協力開発機構)加盟国間で分担して高生産量化学物質に関して必要なデータを収集し、その初期評価を行っていることを踏まえて、我が国では、1,000t以上生産している化学物質について、関係省庁で協力して、化学物質の基本的性状や有害性に関するデータ取得試験とそのデータの評価を実施している。

・内分泌かく乱物質関連事業
 OECDスクリーニング試験法*60によるデータの収集のほか、構造活性相関有害性予測システムの開発に資するため、プレスクリーニング試験*61を実施し基礎データを収集している*62が、これら試験データの持つ意味・性格についての評価基準を早急に整備する必要がある。
 また、試験の実施、物質の選定にあたっては、OECDの試験法開発・評価のための専門委員会(EDTA)*63等と連携を図っている。
 なお、これらの試験法は、多くの化学物質を簡易・安価に選別するためのあくまで予備的な試験手法であるため、最終的にハザード(人や環境生物に対する内分泌かく乱作用)を評価できる高次の試験手法を確立することが必要であるとともに、(プレ)スクリーニングデータ・用量 ・用途等、高次試験を実施するための情報整備を行う必要がある。

・化学物質管理促進法の対象物質
 複数の国際機関等(IARC(国際がん研究機関)、EPA(米国環境保護庁)、EU(欧州連合)、NTP(米国毒性プログラム)、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)、WHO(世界保健機関))が発癌性、慢性毒性、作業環境影響、生態毒性があるとしている化学物質のうち、経済産業省、厚生労働省、環境省の合同審議会において、年間100t以上の生産量 があるものを中心に選定されたものである。

 

b.国際取組みの視点

(背景)

 化学物質の輸出入において化学物質のハサード評価について同様の試験を繰り返す等の非関税障壁をなくすことと、資源の節約を目指してOECDでは共通 の試験法としてのテストガイドラインを制定しており、現在85種が示されている*64。テストガイドラインは、我が国においては、化審法、労働安全衛生法、薬事法、農薬取締法、飼料安全法、EUでは危険な化学物質の分類、梱包、表示に関する法律、条令及び危険な化学物質の分類、包装、表示に関する理事会指令(67/548EEC)、米国では有害物質規制法(TSCA法 : Toxic Substance Control Act)の運用に利用されている。
 ハザードデータについては、OECDテストガイドラインに基づきOECD優良試験所基準*65で認定された機関で実施された場合、合意に達した加盟国間で相互に受け入れることとなっている。

 

○OECDテストガイドラインヘの積極的提案と国際分担に基づくバザードデータ整備

 OECDテストガイドラインは、国際的な化学物質安全管理を円滑に行う上で極めて重要なものであり、我が国としても、研究開発や知的基盤整備事業の成果 を積極的にガイドラインとして提案していくべきである。
 同様にOECDで決められた国際分担に従い、高生産量 (HPV)化学物質ノハザードデータ整備を積極的に進めていくべきである。

 

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