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【背景の第三 : 整備機関に係る行政改革の実施を受けた機動的業務展開の必要性】


(2)地質情報

  (背景)

     「産業技術戦略」(産業技術審議会)、「経済構造の変革のための行動計画」(閣議決定)で地質情報分野が知的基盤整備の重点分野に追加され、2010年までに世界最高水準の整備を目標とするとされたことを受け、当該分野の具体的な整備目標・計画とその考え方を明確化する必要がある。

 

 地質の調査は、地球科学的手法により地質の実態を体系的に解明し社会に提供すること、及びそれらに必要な技術の研究及び開発を行うことである。地質の調査からは、地球を構成する地層の岩質・年代・断層等の地質学的情報、地温・重力・磁気等の地球物理的測定データ、元素分布等の地球化学的データ等が得られる。これらはすべて地球科学に関連する科学的情報(地質情報)であり、体系的に整理・組織化することにより地質図・地球科学図・データベース類等の知的基盤に、また高度化・標準化・統合化することにより各種主題図・統合データベース等の知的基盤になる。

   特に、我が国は他の国々に比較して世界有数の変動帯に位 置し、激しい地殻変動の蓄積による急峻な地形と脆弱で複雑な地質構造で特徴づけられる。このような複雑な地質条件で、かつ資源の乏しい我が国において、地質情報を知的基盤として整備して行くことは国土を保全・管理する上で非常に重要であるとともに、地質の調査により開発された高度な技術を海外に適用してエネルギー・資源の安定的確保に備えることは緊急の課題である。

   地質の調査は、これまで工業技術院地質調査所がナショナルセンターとして総合的に実施してきており、引き続き、経済産業省・産業技術総合研究所の地質調査総合センター(Geological Survey of Japan ; GSJ)がその役割を担って、社会の期待に応えるべく、2010年を目途に世界最高水準の整備を目指して推進してく必要がある。

  このような地質情報分野の知的基盤整備を推進していくには、
・いかに基本を押さえて効率的、体系的に整備していくか
・いかに使いやすい形に整備していくか
・防災、地下利用等いかに直接的な社会二一ズに応えていくか
・いかに国際的に主導的に取り組んでいくか
・いかに国全体として総合的な推進体制を構築していくか
などの課題がある。

 

 

a.地質情報の体系的集積・発信

 

   地質図幅や海洋地質図、地球物理・化学図など地質情報の中でも基本となり基盤性、汎用性の高いものを体系的に集積し、使いやすい形で発信する必要がある。以下に述べるように、基本図を核として展開する整備、地質情報のデジタル化と統合化による総合データセンターからの情報発信・提供をその基本方針とすることが適切である。

  ○基本図を核として展開する整備  

 国土・周辺海域の地質・地球科学的実態を把握することを目的として、国土全体をカバーする世界最高水準の高い精度の地質図・地球科学図の網羅的・系統的整備を進め、その統一規格に基づくシームレス化*を目指す。
 これを基本図として効率的に、社会的・行政的二一ズの強い地震・火山等の防災や国土利用・都市基盤整備・環境保全、資源・エネルギー賦存評価等に資する主題図の整備・刊行を推進する。  

  ○地質情報のデジタル化と統合化による総合データセンター  

 使いやすさや高度な利用の観点から、従来的な印刷した図情報に加え、IT先端技術、ウェブ環境等を十二分に活用し、情報のデジタル化と統合化により、付加価値、利用価値の高いデータベースとして整備する。
 産総研は地質情報の総合データセンターの機能を果 たし、民間における二次利用を促進する。


 以上の基本方針に基づき、具体的には以下の整備を重点的に進める必要がある。

《国土の実態を示す地球科学基本図の網羅的・系統的整備》  

  ○基本となる20万分の1、5万分の1地質図幅  

   20万分の1地質図幅の全国整備及び20万分の1海洋地質図の全域整備を達成する。
 5万分の1地質図幅は、地震-防災、都市基盤整備等の社会的二一ズ及び20万分の1地質図幅全国整備の必要性、シームレス化に不可欠な地質図凡例統一等の地質標準確立の必要性からかんがみて、迅速に整備すべき重点地域として選定される地域(60図幅)を整備する。シームレス化にあたっては、国土地理院、海上保安庁等の関係省庁と十分連携して、我が国として総合的な地質情報を整備する必要がある。未出版地域については、5万分の1縮尺精度で既存の地質情報が利活用できることを目的とした地質情報データファイル**を2010年を目標に作成し、インターネット上に公開する。併せて、地球化学図、地球物理図の全国的整備を進める*48。

シームレス化* : 地球科学図は、調査者・調査時期によって、地質情報の精度・地質区分・データの規格等が異なることが多い。シームレス化とは、地質図凡例や地質区分・地球科学基本データの規格を統一し、こうした図面 間で食い違いのないものにすることである。これによって、各地球科学図はその区画にしばられずに、任意の位 置での切り取りが可能となり、国土全域にわたる規格化された地球科学基本図として整備される。

地質情報データファイル** : 地質図幅単位で既存の地質情報をPDF化して蓄積-整備したデータベースであり、ウェブを通 じた情報検索によって、ユーザーはこのデータファイルにアクセスし、活用できる。

 

   主要な地球科学基本図の整備計画

地球科基本図の種類

整備目標

現状

2005年までの計画

2010年までの計画

20万分の1地質画幅

全国整備とシームレス化

全124図幅中99画幅(80%)

8画幅(#1)の出版(85%)とシームレス化

全国整備達成とシ一ムレス化の全国暫定版整備

5万分の一地質図幅

重点化と全国整備

全1274図幅中896図幅(70%)

30図幅(#2)の出版(72%)

60図幅の出版(75%)と地質情報データファイルの整備

海洋地質図(20万分の1)

周辺海域全域整備とシームレス化

全49区画中35区画(地質図24枚、堆積図20枚)(45%)

47区画の調査完了及び地質図・堆積図各7図(#3)の出版(60%)

シームレス化に向け再調査と全海域区画の整備達成

  (#1)2010年全区画整備とシームレス化を目途とし、主要四島内の整備を重視して選定
(#2)地震防災等の緊急の社会的二一ズと20万の1地質図幅全国整備・地質標準確立の必要性のある60画幅のうち、特に迅速に整備すべき地域として選定。  
(#3)2010年全区画整備とシームレス化を目途とし、太平洋側に比べて活断層の地震発生ポテンシャル予測が遅れている日本海側の全区画整備に重点化。

 

  《地質情報の標準化とデータベースの整備・提供》

  ○総合データセンターによる高度な2次利用環境の提供

   国土の公共財として、網羅的・系統的に整備された地質図・地球科学図等の地質情報を数値化・統合化し、付加価値が高く有益なデータベースを構築するとともに、ユーザーからアクセスし利用しやすい、電子出版、ウェブページ上での公開等の情報提供システムを構築する。

   そのために、産業技術総合研究所は世界共通 的なGIS*(地理情報システム)技術及びIT等の情報通信技術を活用することにより、関連諸機関が所有する情報を含む地質情報検索システムの機能を有するデータセンターの役割を果 たし、民間によるデータの二次加工の促進等、地質情報が高度に利用できる社会の構築に資する。

主要な地球科学基本図の数値化計画

 

ラスター化

ベクトル化

数値地質図

現在

2005年までに

現在

2005年までに

2010年までに

20万分の1地質画幅

全既刊画幅(99画幅)完了

CD-ROM刊行と新規図幅の追加・更新

全既刊画幅(99図幅)完了

新規8図幅の追加

全図幅の数値化達成とシームレス版の整備

5万分の1地質図幅

北海道を除く全既刊画幅完了

全図幅のCD-ROM刊行と新規画幅の追加

60図幅

1965年以降出版の315図幅の整備

順次新規画幅の数値化

海洋地質図(20万分の1)

全既刊図幅の完了

CD-ROM刊行と新規画幅追加整備

20/41図幅

既出版全図幅の達成

シームレス版の整備

  

GIS*:地理情報システム(Geographic Information System)の略。空間的位置座標系に拘束されたデータの集合と分布を扱い、地理学のみならず、自治体の行政情報管理や地域医療情報、マーケティング戦略等に欠くことができない。地質の調査では、一般 的な平面曲面上の情報分布の他、地下空間の三次元処理が加わり、複雑で困難性が大きいため、研究開発が必須である。

ラスター化とベクトル化:地質図等の図面 をデジタル化する上でのデータ加工法のうち、画像情報としてスキャナー等でデジタル化するものをラスター化、図面 の構成要素(点、線、面等)を数値情報(位置、属性等)として加工するものをベクトル化という。ラスターデータは簡便に処理できるが、データ容量 が大きい。ベクトルデータは容量が小さく、投影法処理や統合・編集処理等で柔軟性を発揮するが、複雑・難解な処理が必要であり、作成に時間がかかる。

 

 

b.社会的二一ズに直接的に対応した知的基盤整備のための調査・研究

《地震・活断層調査・研究》

  ○政府の地震調査研究体制における着実な地質情報整備

   大規模地震対策特別措置法等に基づき、地震調査研究推進本部*49により示された「地震調査研究の推進について」*50を踏まえ、2005年までに全国主要活断層98*51の調査と評価を完了し、その成果 をもとに活構造図を改訂し、100年以内の地震発生確率を明らかにした地震発生危険度マップを作成する。また活断層評価により危険度が高いと認定される重要活断層については、活断層ストリップマップを作成する。2010年を目途に、地震発生確率が高いとされた活断層について、第2次調査と活動性評価を行うことが必要である。また、最新の溶断層データと地震・津波被害予測データを集積・加工して、広域防災情報としての地震総合データベースを構築し、2005年までに京阪神地域について、2010年までには主要な大都市地域について公開を目指す*52。

  主要な地震・活断層関連の主題図及びデータベースの整備計画

主題図

整備目標

現状

2005年までに

2010年までに

活断層ストリップマップ

重要活断層について整備

7図について作成済み

3図*

活断層評価により危険度が高いと認定された断層について作成

50万分の1活構造園(改訂版)

全12図の改訂

第1版全12図終了。1図の改訂

3図の改訂

残り8図を改訂し、全12図の改訂を終了する

地震発生危険度マップ

主要活断層98について100年以内の地震発生確率の図示

新規作成

第1版刊行

必要に応じ改訂

地震総合データベース

最新の活断層データと地震・津波被害予測データを集積・加工

新規作成

京阪神地域の作成**

政令都市を主とする大都市地域の作成

*危険度が同いとされる糸魚川一静岡構造線周辺の活断層を対象に選定。

**兵庫県南部地震以後、国内でもっとも研究・調査が集中し、かつ地震発生の危険性が高い地域。

 

《火山調査・研究》

  ○政府の火山対策体制における着実な地質情報整備

   「第6次火山噴火予知計画」*53に基づき、測地学審議会*54が選定した重点観測火山を含む約15火山*55について、過去の噴火活動履歴の解明と、将来の噴火活動予測を目的に、2010年までに火山地質図を作成する。第四紀火山約200についてのデータ、特に過去1万年間に噴火活動があった約100の火山については噴火活動に関する詳細なデータを集積し、2005年までにデータベースの試作版を作成し、最新情報を更新しつつ、2010年までに公開する。

 

主要な火山関連の主題図及びデータベースの整備計画

主題図

整備目標

現状

2005年までに

2010年までに

火山地質図

測地学審議会の重点観測火山等約15火山

11図

2図(三宅島・岩手)及び新規に多面 的な地球科学情報を盛り込んだ火山科学図*の概念設計

全15図の出版と火山科学図5図**

第四紀火山データベース

約200の第四紀火山(うち100火山は過去1万年間に噴火活動)

200万分の1縮尺の火山分布図の出版

第四紀火山約200のデータの集積と、データベース試作版の作成

最新情報の更新と完成・公開

  *火山科学園:火山地質図に地球物理データ、噴火履歴、噴火予測データ等を追加した主題図。
**近年火山噴火活動を行う等、活動性、危険度が特に高い火山(有珠山、岩手山、三宅島、雲仙岳、薩摩硫黄島火山)を選定。

 

《深部地質環境の調査・研究》 

○着実な知見の蓄積

   高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全規制に関する国の施策(原子力安全委員会、原子力安全・保安院で検討中)に従って、評価手法・基準に関する地質の知見・データを整備し、新たに得られた知識を技術資料や総括報告書に取りまとめる。また、環境地質図類を作成し、普及・活用を図る。

c.緊急調査・研究

 

○迅速かつ機動的な対応

   地震・火山噴火、地すべり等の地質災害発生時には、産業技術総合研究所において直ちに社会的要請への組織的かつ機動的な対応をとり、情報収集体制の構築、必要に応じた緊急調査研究実施、現地調査観測情報及び関連情報を一元的かつ速やかに提供することが必要である。

 

d.国際地質協力・研究

(背景)

 21世紀の地球科学最大の社会的課題は、地球規模での環境、資源、災害への対処の問題である。地球環境問題の原因やプロセス解明は、局所的問題として扱うことは不可能であり、さらに学際的な専門性を必要とする複雑な問題である。

  ○東・東南アジアを中心とした主導的取組み

   隣接及び類似する地質変動帯に属し、日本列島の地質特性理解に不可欠な、東・東南アジア地域において、地質情報の共有化を目指した国際活動を重点課題として取り組むことが必要である。
 具体的には、CCOP(Coordinating Committee for Coastal and Offshore Geoscience Programmes in East and South east Asia ; 東・東南アジア沿岸・沿海地球科学計画調整委員会)を通 じてアジアの地球科学情報整備等に国際貢献するとともに、世界129ヶ国に存在する「地質調査所」ネットワークであるICOGS(Intenational Consortium of Geological Surveys ; 万国地質調査所会議)とCGMW(Commission for Geologic Map of the World ; 世界地質図委員会)における*56、アジア幹事国としての責務を果 たすことが求められている。それによって、将来的なアジア地域の地質情報のベクトル化も睨んで、我が国の地質情報の標準、すなわち地質図凡例等の基準及び地質調査方法等がアジアの標準となるように努力することが必要である。また、CCOPでの地域活動とともに、その他の地域・国との協力・連携も進める。

 

○先進国との競争と協調

   一方、欧米先進諸国研究機関とは競争的連携をもって国際共同研究・国際プロジェクトを実施し、これにより我が国の先進性を確保するとともに、新たな科学技術発展の方途を追求する。

 

e.推進方策

(背景)

 15の研究機関を統合して独立行政法人化した産業技術総合研究所において、地質調査のナショナルセンターとしての役割を適切に果 たしていくために、所内体制整備、国全体としての総合的な地質情報整備に必要な関係機関との連携・協力体制整備、地質情報に関する人材育成・普及広報の課題がある。

 

《産業技術総合研究所内での推進課題》

 

○地質調査総合センターによる総合的対応

   幅広い専門の研究者、研究ユニットに対して、地質調査総合センターによる支援・協力体制を構築することが必要である。
 具体的には、学際的・境界領域的研究分野の積極的開拓を目指した連携体制の構築、地質情報の数値化・データベース化の総合的推進、地震・火山噴火等の突発的な地質災害発生時の緊急調査・観測体制を構築する必要がある*57。

 

○外部からの情報・試資料の収集・受入れ

 国土地質情報の組織的収集体制を整備する必要がある。
 具体的には、国土の地質情報を組織的に収集するための情報提供基準(有償・無償、著作権、継続性、利便性、合法性)や、地質試資料(ボーリング試料、地質標本地)の受入体制の整備を行う必要がある。

 

○内部人材育成と評価システム

   知的基盤整備を目的とした人材育成推進と研究者評価システムの確立が必要である。
 地質図の作成や地質図編集には豊富な地質調査経験を必要とするので、そのための人材の育成を継続的に行うとともに、地質図やデータベース作成を正当に評価するために、多様なキャリアパスを用意することが重要である。

 

○情報提供システムの改善と供給料金のあり方

   国を中心に整備されてきた知的基盤の公共性の観点から、今後とも基礎的科学的事実としての地質情報は無償提供、ただし印刷物等の場合は実費提供という原則で対応すべきであるが、より広い普及という観点から需要掘り起こしを念頭においた、より廉価での提供が可能なシステム(オンデマンド印刷、ウェブからのダウンロード等)を構築する必要がある。

 

《産業技術総合研究所と関係機関の連携・協力体制》

 

○関係省・機関、地方自治体、学協会、産業界との連携・協力

   GIS関係省庁連絡会議へのメタデータ提供推進による貢献、他省庁研究機関等との共同研究・情報交換を通 じた連携強化を図ることが求められている。
 火山・地震等の突発的地質災害発生時における緊急調査活動、及び活断層調査委員会等での連携を通 じた、地方自治体・公的研究機関との調査協力・地質情報の共有化が必要である。産業技術連携推進会議・知的基盤部会も有効に活用する必要がある。
 地質の調査に関係の深い関連学協会等との地質情報普及活動の共同実施、地質標準・調査手法の国内基準策定等の連携等が必要である。
 技術移転、技術相談、共同研究、受託研究等を通じて産業界へ研究成果と技術情報を積極的に提供し、地域での産業創出につながるように積極的に取り組むことが必要である。

 

○連携と知的所有権のあり方

   連携・協力においての知的所有権のあり方については、国・地方自治体等の行政機関により開発・取得された地質情報は、その公共性、公開性の観点から、国の知的基盤整備事業の実施機関間で無償利用できる方向での整理が必要である。

 

《人材育成・普及広報》

  ○大学、企業の人材育成、非専門家への広報

   産業技術総合研究所は地質の調査を総合的に扱う我が国唯一の機関として、
・地質標本館・地質相談所を通した一般や地方自治体等の非専門家への地質情報の広報・普及・啓発活動。当該活動の地域展開については、産業技術総合研究所地域拠点の産学官連携センターを活用するとともに大学・学協会等と連携。
・連携大学院制度を活用した大学地学教育への貢献。
・地質関連企業の研修及び地質技術者の再教育活動への協力。
を通じて、地質情報の社会への普及と「地質の調査」分野の知的基盤整備に必要な人材育成に努めることが重要である。

 

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