←もくじに戻る

 

【背景の第三 : 整備機関に係る行政改革の実施を受けた機動的業務展開の必要性】


 

1.整備する重点分野ごとの知的基盤のそれぞれにおけるプライオリティと実施主体の考え方と国際的取組みの重点

(背景)

「科学技術基本計画」に位置づけられた2010年までに世界最高水準の整備を目指すという目標とそのより具体化したものである「知的基盤整備特別 委員会中間報告(平成11年12月)」の示した整備の方針、目標・計画に沿って引き続き進める必要がある。2010年への長期計画に基づき整備する知的基盤については、プライオリティを常に十分考えながら整備していくことが投資効果 を高めることとなる。また、関係独立行政法人の中期目標・計画が設定されたが、「知的基盤整備特別 委員会」が専門的な立場からプライオリティの考え方をより明確化し、それを指針の一つとすることにより、各年度における独立行政法人の整備事業の機動的な実施が期待できる。

 実施主体については、産総研、NITE、NEDOの役割分担及びこれらの機関と分野ごとの各種関係機関との役割分担のもとに集中的仁整備を進めることが必要である。

 また、「科学技術基本計画」において、知的基盤整備に係る国際的取組みに主導的に参画すべきと指摘されており、取組みの重点を明確にすることが求められている。

 なお、地質情報については、知的基盤整備特別委員会中間報告(平成11年12月)のとりまとめ以降に重点分野に追加されたことから、その整備の方針、目標・計画の全体について検討する必要がある。

表/知的基盤整備特別委員会中間報告(平成11年12月)の示した2010年の目標(概要)

重点分野

2010年の目標

計量標準・標準物質

○物理系の計量標準およそ250種類程度、標準物質およそ250種類程度(現在の米国並み)を整備(2005年にはそれぞれ180種類程度)。
○先端技術開発(超微細、超精密、超真空、超高温、高機能等)及び環境保全、安全等社会的課題への対応に必要なものに重点化。

化学物質安全管理基盤

○米国に比しても遜色のない世界最高水準として、約4000物質に相当する規模の詳細な情報のデータベースの整備を目指す(2005年には約3000物質)。
○単に登録物質数を増やすのではなく、むしろデータの内容を重視した精度の良い詳細データ(物理的科学的性状・環境中運命のほか、生態毒性・急性毒性・変異原性毒性・生殖毒性等の毒性に関する詳細データ)を4000物質程度整備することによって、量 と質の総合的な観点から世界最高水準を目指す。

人間生活・福祉関連基盤

○世界にも希な高齢化の急速な進展にかんがみ、現在の米国並みを上回る寸法・形態:2万人、動態、視・聴覚:4千人規模のデータベース整備を目指す(2005年には、それぞれ1万人、2千人)。
○高齢化の進展、安全・安心の確保といった社会的要請、ユーザニーズに応じた質の確保、更には新規市場の創出につながる計測技術の先端性等に応じて重点化。

生物資源情報基盤

○現在の米国最大解析機関(JGIやMIT)並の数百M塩基対/年程度の解析体制の整備を目指す(2001年までに、ヒトのcDNAを3万個、日本人の標準SNPを10~15万個解析)。
○現在の米国並みの微生物10万株程度の生物資源の提供体制の整備を目指す。

材料関連基盤

○材料物性データベースの規模で現在の米国並みの100万件程度を目指す。
○新材料・先端材料の基礎的物性、従来材料も含め、ライフサイクル・アセスメント(LCA)に必要なライフサイクルを通 しての環境負荷特性等社会的要請に基づくものに重点化。

  これまでに論じてきた分野共通的な基本的方針を踏まえ、以下、各分野ごとの考え方を示す。

 

(1)計量標準

1.整備のプライオリティ・方向性

(背景)

 計量標準の整備については、知的基盤整備特別委員会中間報告(平成11年12月)、経済構造の変革と創造のための行動計画、科学技術基本計画に基づき、2010年に世界最高水準として米国並みの整備水準を目指して進められている。これまで物理系、電気系、化学系に分かれていた我が国の国家計量 標準機関は、産業技術総合研究所の計量標準総合センター(National Metorology Institute of Japan ; NMIJ)*31として集約され、集中的な整備が進められているが、さらに効率的、効果 的に進めていく必要がある。

○質と効率性を重視した整備戦略

 2010年の世界最高水準の整備の達成の目標は、量もさることながら質の面を重視して取り組むべきである。分野を問わず必要となる基本的な標準を確実に供給しつつ、ユーザーや社会的課題からくる現在及び未来の二一ズを常に捉えて柔軟に開発を進めるべきである。できるだけ早期に社会に成果 を提供するため、各標準において、供給できるようになった範囲から部分的にでも順次供給を開始すべきである。また、例えば、巨大な施設と膨大な維持費を必要とするものをはじめとして、整備の戦略性と国際協調の観点から、国際技術競争力確保の上でそれぞれに整備することが不可欠な場合を除いて国際分担を考えるなど、広い視点で効率的な計量 標準供給体系を構築していくべきである。  具体的には、産業界の計量関係団体の集まりである計測標準フォーラム等からの意見・要望及び社会的二一ズを踏まえ、特に、a.電気関連標準整備の加速、b.次世代産業のための基盤整備、c.基本となる標準の確実な整備等の観点で進めていくべきである*32*33*34。

a.電気関連標準整備の加速

 電気関連の計量標準は、ほとんどの計測器において必要不可欠な標準であり、必要とする分野の裾野は極めて広く、また、それらの標準を直接必要とする電気・電子機器の製造業は、現在の日本の基幹産業の一つであり、将来においてもその重要性は変わらないと考えられる。しかるに我が国においてはこの分野の計量 標準の整備状況が脆弱である。
 したがって、電気関連標準整備を加速するべきである。特に、発展・普及の目覚 ましい通信分野からは高周波関連の標準供給の要望が強く、そのような海外との厳しい競争に曝される分野の整備は急務である。

b.次世代産業のための基盤整備

 ナノテクノロジー技術の開発、先端材料開発等、次世代の半導体産業などを支える技術開発が推進されているが、このような未知の領域、微少、微量 、高精度等が求められる領域においては、その研究開発自身の促進と迅速・確実な実用化にはその基盤となる計量 標準が重要である。今後、我が国の重要な産業技術となる分野においては、その推進のために必要な標準の整備を急ぐ必要がある。
 なお、産業界に求められる先端的な標準の開発とともに国家標準機関としての実力を国際的にも保持、向上していくため次世代の標準の研究も重要である。

c.基本となる標準の整備

 他の標準を開発する上で必要とされる、より基礎的な標準については、国が自ら行うべきものであり、我が国の計量 標準体系全体の整備を進め、かつ高度化するための骨格となるものである。このような基本となる標準を押さえることにより、計量 法標準供給制度における階層構造を有効に活用し、基本量から組み立てられる量の標準を民間の校正事業者が供給することによって我が国の計量 標準体系を効率的に構築し、より広く標準を普及させることが必要である。

d.環境、安全への対応

 内分泌かく乱作用が疑われる物質、PCB、揮発性有機物質などの標準物質の整備は、国民の生活に直接関わる緊急性、重要性が極めて高いものであり、早期にその整備を行うべきである。

 

○供給手段の高度化

 以上述べてきたように、計量標準に対するニーズの増大と高度化に対して、量 と質の両面から加速的に開発を進めていくことが必要であるが、開発の進捗に伴い、その供給業務がストックとして急増していくこととなる。これに適切に対応するには、先端の情報通 信技術を活用して供給形態の効率化を実現するための研究開発*35が重要である。また、このような情報通 信技術を用いた計量標準の研究開発により、標準供給の効率化と同時に、標準そのものを高精度化、高度化することも必要である*36。
 さらに、先端から基盤まで幅広い校正二一ズに対応するためのシステム開発も重要である。また、技術の進展に伴い計測器のソフトウェア化が進んでおり、ソフトウェアも含めた計測器の信頼性認証・校正の技術開発*37が必要である。

 

2整備体制の考え方

 

(背景)

   我が国の国家計量標準機関である産総研の計量標準総合センター(NMIJ)において、関係機関とも連携しつつ、総合的かつ強力に整備していく必要がある。また、計量 法校正事業者認定制度については、実施機関であるNITEが関係機関との連携の下、適切に運用していく必要ェある。

  ○産総研を頂点とし高度な校正事業者を活用した効率的な計量 標準体系(トレサビリティ体系)の構築

   計量標準供給体制については、技術の急速な高度化とCIPM等の場を通 じた高度な技術レベルでの国際比較の重要性の増大にかんがみ、国の第一(一次)の基準となる国家計量 標準は産業技術総合研究所に可能な限り集約することが必要である。他方、その他の民間校正機関・事業者は、国家計量 標準から生産や研究の現場での計量器にまで連なる校正の連鎖による階層の中で、その技術水準及び精度に応じた階層において役割を果 たすことが求められている。
 産総研は、民間でできることは民間に任せるという考え方に立って、計量 標準トレーサビリティ体系の中で、高度な能力を持つ校正事業者を育成し、民間で供給可能な組立量 の標準を含め、広い範囲で二次標準の供給に、民間事業者を活用すとが必要である。これにより国全体として、計量 標準の供給体系の強化と供給能力の向上が期待できる。また、校正サービスの継続性の必要から、担当者の異動・定年等でサービスの質を落とさないよう、継続的な体制整備を行うとともに、品質システムの一部である技術の文書化を適切に行うこと等により、技術を確実に維持・継承することが重要である。
 時間/周波数、アンテナ、EMC等の計量 標準の整備・供給については、我が国の国家機関レベルでの技術力を結集して取り組むことが必要であるとともに、ユーザヘのよりよいサービス提供の観点から関係省・機関の連携が必要である。
 産総研は、我が国国家計量 標準供給体系を国際整合性を持って構築するため、校正機関、標準物質製造者の要求事項に係る国際規格(ISO/IEC17025、ISO GUIDE3 4*38)に基づく体制を早急に整備する必要がある。
 一方、化学系の標準物質については、トレーサビリティの多段階による供給が適さない場合も考えられ、物理系計量 標準との技術的な相違を十分考慮し、階層性によるトレーサビリティ体系が適切かどうか、その供給体系のあり方について、国際的動向や産業界の二一ズ等にも配慮しつつ検討する必要がある。

 

  ○必要な標準物質の種類の急速な広がりへの対応

 標準物質の多様性を考慮して、我が国全体としての標準物質の整備を効率的に行うため、経済産業省・産総研は、関係省・機関との連携・共同・協力を行うとともに、民間の能力の活用が重要である。また、産総研は標準物質に係る認証体制上39を確立し、他機関で開発された標準物質への植付け等を通 じて、産総研の認証標準物質として供給することが効果的である。
 さらに、国際的な分担についても、CIPM(Comite Intenational des Poids et Mesures ; 国際度量衡委員会)の場や二国間協議等において検討していくべきである。

 

  ○計量 法校正事業者認定制度の適切な運営

   計量法校正事業者認定制度の実施機関であるNITEは、同制度の信頼性維持と計量 標準の供給円滑化の観点から、自らの技術能力の維持向上に努めるとともに、産総研を含めた外部の人材を適切に活用することが必要である。特に、認定に係わる技術審査・技能試験のうち、国家計量 標準機関でなければ行い得ないような高度な物については、産総研が分担する必要がある。
 また、中長期的には、校正事業者認定制度一般 の問題として、民間活力の利用の是非についても検討していくべきである。その際、試験所認定制度その他の適合性評価制度全体の整合性等を十分考慮するため、今後、専門的な審議の場において検討されることが期待される。

 

  ○公設試との連携

   計量標準の効率的供給と地域の知的基盤の向上のため、公設試と連携することが有効である。そのため、産総研は産業技術連携推進会議に設置した知的基盤部会*40を通 じ公設試との連携をより一層強化する必要がある。
 また、産総研と公設試の共同研究や産総研による技術研修等を通 じて公設試が知的基盤に係わる技術力を更に向上させ、校正事業者認定制度の技術審査を担う等、それぞれの地域における知的基盤の整備により一層貢献することが期待されている。

 

  ○産業界における普及活動への期待と産業界の人材育成の支援

   産業界においても、業界横断的な意見・情報交換の場として、平成12年に「計測標準フォーラム」*41が組織され、産業界への計量 標準の啓蒙普及や産総研・NITE等の公的計量標準関係機関に対する産業界からの要望事項の取りまとめの活動を行っている。しかしながら、フォーラムの構成企業・団体の範囲が限られ、産業界全体の代表としての位 置付けには至っていないことから、今後は、その活動を更に活発化させて、こうした活動の重要性を各産業界に理解してもらい、その構成範囲の拡大を図ることが必要である。
 また、計量トレーサビリティの各段階において、計量 標準の供給を円滑に行うためには、多くの計量標準に係わる人材を養成することが必要である。このため、NMIJの計量 研修センター*42における各種研修の実施、NMIJの研究部門と民間企業との共同研究或いは、技術研修を通 じて産業界における計量標準関連技術者の養成を支援することが必要である。

 

3国際的取組みの視点

 

(背景)

 

 世界経済・貿易の発展を阻害する技術的貿易障壁を除去するために、平成11年に計量 標準相互承認協定(MRA ; Mutual Recognition Arrangement)*43が署名され、計量 標準の国際的な同等性を確立しようとする取組みがCIPMの場で進められている。また、平成12年には、我が国はCIPMのアジアの地域機関であるAPMP(Asia Pacific Metrology Programme ; アジア太平洋計量計画)*44の議長国・幹事国を引き受けており、その責務を適切かつ積極的に果 たす必要がある。

 また、同年、計量標準分野における協力に係る日米MOU*45が結ばれ、両国の国家計量 標準の同等性が確立された。これにより、米国政府が、米国の規制に基づいて我が国の航空機整備関係企業に対して要求していた、計測機器のNISTトレーサブルを免除することとなった。(FAA(アメリカ連邦航空局)の我が国航空産業が使用している米国籍の航空機の検査等については、NIST(国立標準技術研究所)の計量 標準にトレーサブルな計測器で行うことを義務づけている。日米の国家計量標準の同等性が確立することにより、産総研の計量 標準にトレーサブルであれば認められることとなった。)

 他方、校正事業者認定制度の国際的な整合性を確保するため、NITEが計量 法校正事業者認定制度の実施機関として、平成11年にAPLAC(Asia Pacific Laborato Accredutation Cooperation ; アジア太平洋試験所認定協力機構)*46の、平成12年にlLAC(Intenational Laboratory Accreditation Cooperation ; 国際試験所認定協力機構)*47の相互承認協定にそれぞれ署名した。

 

  ○CIPMへの主導的参画

 

 世界共通の技術的基盤としての計量 標準体系を確立し、世界貿易の技術的障壁の排除と先端技術開発の促進を目指したメートル条約・CIPMの活動について、我が国は、主導的に参画することを基本理念とすラきである。

 具体的には、計量標準相互承認協定(MRA)による計量 標準の国際的同等性の確立を基本とし、我が国の状況に適した体制となるよう主張していくべきである。

 特に、高度な認定校正事業者の能力を活用して効率的な国家計量 標準体系を構築することを基本方針としている我が国としては、国際比較対象の決定においてもかかる方針に基づいた主張をする必要がある。更に、国際比較対象を決定するにあたっては、技術的、社会的見地に立ってその必要性を検討すべき旨を主張することも必要である。

 また、現在我が国からCIPM委員が選出されているが、今後も計量 標準に係る国際活動に積極的に参加し、指導性を発揮して各国に認知されるよう努め、我が国の代表が引き続きCIPM委員に選出されるよう努めることが肝要である。

 

  ○関係省・機関との連携

   CIPMにおける活動に的確に対応していくためには時間/周波数、標準物質を始め広い分野で、関係省・機関と十分な連携・協力していくことが必要である。また、国際機関の分野においてもCIPMと国際気象機関(WMO ; World Meteological Organization)、国際臨床化学連合(IFCC ; lntemational Federation of Clinical Chemistry )、世界保健機関(WHO ; World Health Organization)等の他の国際機関との連携が広げられつつあり、これに対応した国内体制の整備を関係省との連携により進めることも望まれる。

 

  ○地域の取組みと二国間協力

   アジア地域での取組みについては、APMPの議長国・幹事国として責務を積極的に果 たすことにより、アジア地域における我が国の技術的支援と信頼性を高めていくとともに、APMP加盟国のMRAへの参加を促していく必要がある。また、APMPでの地域活動を柱としながら、その他の地域・国との協力・連携も進めていくべきである。
 計量標準の同等性の証明がMRAだけでは不十分な場合には、平成11年に締結した日米MOUのような二国間協定を主として先進諸国について検討していくことが必要であろう。アジア地域に対しては、APMPを通 じた活動を中心としながら、コアとなる国を重点化して、特に中国、韓国、タイ、シンガポール、ベトナム等との関係を重視していく必要がある。

 

  ○その他の国際的な取組み

   APLAC、ILACの相互承認協定に署名したNITEは、校正事業者認定制度のあり方について、計測の品質を保証するという校正の持つ本来的効果 のあり方、校正業者やそのユーザーの実際的なメリット、我が国の実状等を多面 的に考慮して、APLAC、ILACにおいて、我が国の計量法校正事業者認定制度の国際的整合性を確保することと同時に、我が国としての主張を積極的に行うべきである。
 COMAR(国際標準物質データベース)においては、各国の標準物質データベースのネットワーク化が課題となっているが、我が国のナショナルコーディングセンターであるNITEは、我が国で整備した標準物質総合情報システムに係る知見や経験を積極的に提案すること等により、COMARの活動に主導的に参画すべきである。
 また、ISO/IEC17025等国際標準(文書標準)が計量 標準分野に与える影響が大きくなってきており、これらに係る活動について積極的かつ適切に対応していくことが必要である。

 

上へ↑  次の頁へ→