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【背景の第二 : 初期の収集・集積の段階からより高次の整備、より良いサービスの展開へ】


4.研究者・技術者の評価における知的基盤整備業務の位置づけ方

(背景)

 知的基盤は、研究能力・技術能力を背景として初めて整備(開発、供給)が可能となるものであるが、その整備(開発・供給)は必ずしも論文等には結びつかない。しかしながら、研究機関においてはともすると、論文や特許の研究成果 のみで研究者・技術者を評価する傾向があり、このことが研究者一技術者の知的基盤整備へのインセンティブを低下させ、我が国の知的基盤の整備を後らせた原因の一つであったと考えられる。こうしたことを踏まえて、知的基盤整備業務を研究者・技術者の評価の一つに位 置づけるべきことは、科学技術基本計画においても指摘されており、対応方策を検討することが必要である。

  ○知的基盤整備業務の評価軸の設定

 研究者・技術者の評価軸には、論文や特許などに加えて、国家計量標準の開発・維持、校正サービス、計量 標準の国際比較、地球科学園類の作成、地球科学標準試料の作成、地質標本の採取・分類一登録・管理、計測・分析・試験評価方法の技術文書化、データ計測、データベースの整備、生物遺伝資源の収集・分類・分譲などについても設定すべきである。

 例えば、国家計量標準器を開発することは、その原理が論文としては発表されているものであるとしても、計測器としては世界的に最高精度のものを具現し、研究・開発・製造の現場において不可欠な技術・情報を提供するものである。また、国家計量 標準の構造、動作原理、不確かさ、評価手順、操作手順といった情報は、詳細で正確でなければならず、それらにより技術が継承・伝播されなければ、標準の維持・供給は不可能である。論文は、一般 的に極限られた範囲のことが限られた紙面の中に記述されているため、実際の場面 で使用するには情報として不足がある。これに対して技術報告、技術文書は、必要でかつ広い範囲にわたり、最新で最高の研究成果 を網羅して集め、それを解釈し、再構築し、解説して、実際の場面で使用するのに必要な情報に総合したものである。このように国家計量 標準の開発、技術文書の策定は高度な技術的業務と考えられる。また、国家標準レベルでの校正サービスも極めて高精度の不確かさを実現するように行う必要がある。これらは技術的に極めて高度な活動である。医学・医療に喩えて言えば、医療というサービス行為のうち最先端のものには、それを研究している医学者のみが行い得るということはよくあることと考えられ、その際、医学者は通 常十分評価されていると思われる。計量標準の研究者・技術者と高度な校正サービスとの関係は、医学者と高度な医療サービスの関係と類似して考えられる。

 このようなことは地質調査、地質図作成にも言える。すなわち、地質図に代表される各種地球科学園は、高精度の調査研究に基づく学術的成果 物としての側面と、社会の要請に応えて時限を限って作成され、実用的に使用される正確で利便性の良い知的基盤としての側面 を併せ持つものとして、評価されることが必要と考えられる。

 また、生物遺伝資源の保存・提供については、コンタミネーションや特性変化のない信頼性の高い高品質を維持することが極めて重要である。また、生物遺伝資源の培養方法や特性の技術相談や外国との間の生物遺伝資源の移転契約などのコンサルテーションなど高度な技術力を背景としたきめ細かなサービスが要求される。こうした品質やサービスが安定的に信頼性をもって提供されることが知的基盤としての価値を左右するものであり、こうした業務の質を評価軸として設定することが必要である。

  ○研究と知的基盤整備の2つの評価軸の設定

 研究と知的基盤整備とを対比して評価軸を設定することが考えられる。すなわち、第一の軸として従来的な研究の評価軸(論文、特許、学会発表、学術表彰等)、第二の軸として知的基盤整備に係る評価軸を設定することが考えられる。この知的基盤整備に係る評価軸については、例えば、計量 標準の場合は、国家計量標準の開発・維持、国家計量標準による計測器の校正・標準物質の植付け、認定校正事業者に対する特定要求事項の策定、国際比較一国際相互承認、国際比較の実施、計量 標準に関する著作(技術報告、技術文書、計量関係JIS規格、TR、ISO/IEC規格)、校正機関認定の技術審査、計量 技術の教習等がこれにあたる*30。また、生物資源情報分野の場合は、生物遺伝資源の収集・分類・保存・提供、DNAの解析等が考えられる。

 なお、評価一般の問題として、この二つの評価軸に加えて、例えば管理者や評価者としての評価軸を設定する場合があることに留意する必要がある。

  ○二つの評価軸のバランスと質・量 両面からの評価

 第一軸での100%の評価から第二軸で100%の評価まで幅広い評価軸の設定が可能なものとし、その適切な比率の組み合わせは、研究者・技術者個々について、研究・サービス現場の状況、それぞれの経験、経歴、意向を総合的に考慮して決定することが適当である。

 また、評価に際しては、業務の単に量だけでなく質も十分考慮して適正に行われることが必要である。例えば、データベース整備について言えば、文献からの収集やシステムヘのデータ入力など比較的単純作業に類するようなものは、独立行政法人など国の整備機関の研究者・技術者たる職員が専門に行うことは必ずしも必要で

はなく、できる限りアウトソースにより効率化を追究すべきである。研究者・技術者には、・データベースのグランドデザインやコンセプト設計、・研究分野の専門家、システムの専門家等専門家のコーディネート、・データベース整備の指揮監督、などが求められ、また、これらは相当に創造性が必要なものである。

 また、整備した知的基盤がどれだけ社会に使われたかという点も重要である。ただし、整備してから評価できるまで時間経過が必要であること、これも単に量 のみによらず質も重要であることに留意する必要がある。

 なお、質・量両面からの評価の必要性はいわゆる研究の評価においても同様である。さらに、個人の評価のみならず、研究機関としての評価についても知的基盤整備の観点からも同様に評価され得るようにすべきである。

  ○キャリアパスとしての位置づけと知的基盤整備業務の社会的評価

 このような評価の方式により、知的基盤整備を研究者・技術者のキャリアパスとして位 置づけることができるようになると考えられる。このことは知的基盤整備の促進や研究者の流動性の促進要素になると期待される。

 また、知的基盤整備を行ったことが、その機関内で評価されるとともに、社会的に評価されることにより、研究者・技術者が誇りを持って知的基盤整備に取り組むことができると期待される。知的基盤の重要性について社会的な認知を進め、知的基盤整備へのインセンティブを高めることが求められる。

 このため、例えば、知的基盤整備に係る公表の場として査読機能を備えたジャーナルの発行やWebサイトの開設等をNITEがコーディネートして行うことが考えられる。この公表の場が社会的に評価されるようなものにするためには、まずNITE自身がより一層質の高い、使える知的基盤の開発・供給を行うとともに広報活動と内外の知的基盤整備の状況に関する調査、知的基盤のあり方に関する調査研究を積極的に展開し、社会的に認知されるよう努めることが必要である。なお、計量 標準、地質情報については産総研が従来の取組みを発展して行うことが適当である。

 

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