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【背景の第二 : 初期の収集・集積の段階からより高次の整備、より良いサービスの展開へ】


3.国が民間に委託して整備した知的基盤の知的所有権のあり方

(背景)

「産業活力再生特別措置法(平成11年10月施行)」*27では、国の研究開発に係る委託事業で発生した知的財産権が社会で活用されるよう、一定の条件の下で国は当該知的財産権を受託者から譲り受けないことができるとされている。これは、受託者に委託事業の成果 に係る知的所有権を付与することにより、受託のインセンティブを向上させるとともに研究開発成果 の普及促進を図るという民間活力の活用策である。その際、当該成果の有効活用の観点から、国が公共の利益のために必要であるとする場合は、無償で当該知的所有権を利用する権利を国に許諾すること、当該知的所有権を正当な理由なく活用していないと認められる場合は、当該知的所有権を利用する権利を第三者に許諾すること、を条件としている。こういった状況において、知的基盤整備と知的所有権の考え方を整理する必要がある。

  ○受託者への知的所有権の付与による開発・供給の促進と公共性・公開性の担保条件

 知的基盤整備についても、基本的には知的所有権を受託者に帰属させることにより、民間能力を効果 的に活用することが重要であるが、知的基盤の公共性、公開の必要性から、知的基盤の種類により、いくつかの留保条件が必要となる場合がある。その場合、インセンティブを確保することによって民間の活力を効果 的に利用することと、整備した成果が知的基盤として十分に社会に供給されることの双方が両立されるように配慮することが重要である。

 なお、国からの受託者が再委託する場合も産業活力再生特別法上準用されるので同様に考えられる。

○成果の性質による分類成果の性質で分類すると以下のとおり考えられる*28。

・知的基盤としての委託事業の成果が直接国の需要である場合

 例えば、国家計量標準や国土情報の整備、安全規制に必要なデータや評価法の整備は、一義的に国の需要であり、これらに係る知的所有権は国に帰属させるか少なくとも国が無償で利用できることが必要である。計量 標準による計測機器の校正方法、標準物質の値付けの方法、地質図の版権、化学物質の有害性評価方法・データ

などがこれに当たる。このような場合、国は知的基盤整備に当たる独立行政法人に使用を許可するケースが多いと考えられる。また、これらのうち、校正方法や有害性評価方法・データ等については、社会全体で共通 に使用することが適切であり、社会的コストを考えると第三者も含め無償で公開されることが必要である。

  ・製品開発に直接つながるようなものの場合

 一義的には国の需要ではなく、例えば、標準器の製造方法、標準物質の素材の製造方法、知的基盤取得のための機器の製造方法などは(これらの機器・素材は国は製品として購入すればよい。)、知的所有権を受託者に帰属させ、ゆくゆくは積極的にビジネスが展開され商業べ一スで民間が当該機器等を社会に供給することが望ましい。

  ・直接国の需要であるものと製品開発に直接つながるものとの中間的なものの場合

 例えば、材料物性のデータベースのようなものについては、受託者に知的所有権を帰属させ、それを運営させることが民間能力の活用により国全体として知的基盤の維持・供給の効率化に資すると考えられる。受託者が当該データベースの例えばフォーマットを自らの努力で改良しようとするとき、知的所有権が国にあるといちいち国の許諾を得る必要があり、やる気をそぐ恐れがある。しかしながら、このような場合の受託者への知的所有権の帰属に当たっては、知的基盤の公共性、公開性の必要から、適正な対価の下に基本的には無差別 な公開を条件とする必要がある。

 我が国の国際競争力確保と科学的知見の人類共有性のバランスを十分配慮し、公開の国際的な範囲については個々の具体的案件に応じて適切に対処すべきである。なお、域内のプロジェクトで整備した材料データベースを域外には非公開としたEU事例がある*29。

  ○国が再利用する場合及び連携機関間の取扱い

 国が再利用する場合及び連携機関間の取扱いは以下のとおり考えられる。

・国が再利用する場合

 国費で開発された優れたデータベースフォーマットを次に国が別のデータベースを作るときに利用する場合は、知的所有権利用料をまた国費から支出しなけれぱならなかったとしたら財政的に非効率的であることから、国に無償で利用できるようにする必要がある。国が統合データベースを開発する際に委託成果 を利用する必要がある場合も同様である。

  ・連携機関間の取扱い

 国からの委託による知的基盤整備事業の成果を一般に有償で提供する場合であっても、国の知的基盤整備事業の実施機関(独立行政法人や民間の受託機関等)間においては、国費の結果 的な二重投資を防ぐため、当該知的所有権を無償で利用できることとすべきである。

 

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