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【背景の第二 : 初期の収集・集積の段階からより高次の整備、より良いサービスの展開へ】


2.国が整備した知的基盤の供給料金のあり方

(背景)

 国の整備した知的基盤の供給料金については、公共性と特定の利益供与性、効果 の基礎性と商品化直結性といった観点から、知的基盤の種類により無償、供給に要する実費の一部又は全部などがあり得る。社会全体から見た公平な費用負担を実現することにより、知的基盤の効率的な維持一供給につなげるとともに、民間参入の環境も整備する。

  ○知的基盤の開発資金の負担

 知的基盤は、概括的に見ると、一般的に、喩えて言えば一般道路のように、

 ・利用者個々にとっては、知的基盤の利用によって際立った経済的利益を直接待るという性質のものではなく、社会全体として薄く広く裨益されるもの
 ・その開発には相当の技術開発力や施設設備を要し、相当な額の集中的・継続的投資が必要

という特性を有し、従って、開発投資資金を回収することを前提として、経済的に成り立つような価格を設定することが困難であり、,基本的にはその大部分を国が実施する、すなわち国費で賄われるべきものである。

  ○供給料金の受益者負担の考え方

 国費で開発されるからといって、供給料金がすべて無償であるということは、適当でなく、知的基盤の種類とその性質に応じて価格を考慮すべきである。

 すなわち、知的基盤を内容、裨益する対象、享受するメリットから見ると、「基礎的科学的事実」から「実用情報・サービス」まで、「広く国民に裨益するもの」から「特定の者に裨益するものjまで、「メリットが潜在的であるもの」から「明らかに直接に経済的・商業的メリットがあるもの」まで多種多様であるが、実用情報、特定の者に裨益するもの、直接的に商業的メリットのあるものについては、受益者負担の考え方も導入すべきである。これを模式的に表せば次のようになる。

内容

基礎的科学的事実

実用情報・サービス

稗益する対象

広く国民に稗益するもの

特定の(能力をもった)者に稗益するもの

享受するメリット

メリットが潜在的あるいは間接的であるもの

明らかに直接に経済的・商業的メリットがあるもの

 ここで、上図の左に位置するのは、基礎物理定数などがその最も典型的と考えられる。他方、例えば、校正サービス(計量 標準の供給)や微生物株の提供などは、一義的に特定の企業等に経済的・商業的メリットを与えるものと考えられる。また、校正事業者の認定(技術審査、技能試験を含む。)のように、特定の能力を認めることにより、実質上資格なり、地位 なりが与えられて経済活動上利益を得ることになる場合も同様と考えられる。こうした知的基盤の提供については、受益者負担の考え方も導入すべきである。

 また、国からの委託で整備したデータベースを維持・運営するのに必要なコストの一部は利用者から料金を徴収することとして受託者に運営させれば、国全体としての知的基盤の維持・供給を効率的に行うことができる。その場合、データの性質(基礎的なものか応用的なものか、従来的なものか先端的なものかなど)のレベルにより、無料公開、有料公開、特定会員のみの公開といったようにきめ細かい提供形態にするとともに、データを提供した者には料金や閲覧範囲に特典を付す等多様な工夫をすることが効果 的である*26。

 

○供給コストの受益者負担の原則

 供給に要するコストについては、一般的に、コストが供給の行為の都度発生し、コスト発生とその原因者(ユーザー)の対応が明確であるものは、多くの公共的サービスでもユーザーがそのコストを負担している。このことから、知的基盤においても同様なサービスの供給コストについては、負担の公平性の観点から少なくても受益者が直接負担することが適当である。その際、供給方式により、コストの多寡の考え方が整理できる。例えば、インターネット環境の下では、印刷・出版という供給量 に応じて増える追加コストも極わずかであり、料金徴収により発生する追加コストとのバランス等によりむしろ無料とした方が経済的な場合もあると考えられる。また、校正サービスのように人件費、物品質等が伴うもの、標準物質や微生物株の供給のように原材料費、加工費等が伴うものなどについては、相当分は利用者の負担料金とすべきである。

 

○適正価格の考え方

 供給コストと更に付加価値も加味してどの程度の対価を徴収するかは、

 ・提供する知的基盤の質とのバランスという観点

 ・知的基盤の普及という観点、分野ごとの産業競争、新産業育成の観点

 ・国際的な相場の観点

 ・民間にできることは極力民間に委ねるということを念頭に民間の参入の余地を価格設定によって妨げていないかという観点

などを考慮することが必要である。

 

○コスト負担に係る公平性と効率性のバランス

 コスト負担を社会全体に分散させるか、受益者に集中させるかを考えるに当たっては、社会全体としての公平性と効率性のバランスの観点が重要である。例えば、一般 に研究開発にはリスクが伴うものであり、そこにさらに知的基盤に係る負担を集中させることは、社会全体のリスクを高めることになり適当でない。また、いわゆる大学等学術研究に対するアカデミックプライスの考え方も必要である。

 

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