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【背景の第二 : 初期の収集・集積の段階からより高次の整備、より良いサービスの展開へ】


1.世界最高水準に向けた高次の整備への発展の考え方

(背景)

 世界最高水準の整備を目指すとの目標達成に当たっては、単に量のみに捕らわれず、質についても十分考慮する必要がある。また、相当に意欲的な目標であることからその整備にあたっては、効率的に進める必要がある。

 また、国の事業に係る様々な機会を捉えて意識的にも、結果的にも知的基盤整備につなげていくことが国全体としての効率的な知的基盤整備のための課題である。

 

1)知的基盤のプライオリティの考え方

○静的整備から動的整備へ

 知的基盤はある程度の幅と量の「厚み」が必要であり、ある厚み以上になると効果 が飛躍的に発揮されるものと考えられるが、基盤としての質を上げるには、厚みとともにダイナミズムも重要である。

 すなわち、従来的なものの整備を積み重ねて知的基盤の核を作る静的な整備から、戦略的方向に伸びる動的整備へ移行していくことが必要である。知的基盤はその汎用性と公共性からよく道路に喩えられるが、道路もどこにでも引けばよいというものではない。知的基盤は本質的には特定目的のないもので、網羅性、俯瞰性を提供し、あらゆる人がアクセスしてそれを基に活動することにより、その活動に信頼性と創造性を与えるものであるが、その整備に当たっては、今現在の目的で整備するのではなく、未来の目的を志向して整備することが必要である。また、研究開発のキャッチアップ型からフロントランナーの一員となった現在においては、新しい研究開発の場やそれに関わる情報の交流の場から知的基盤の整備が進むことが必要である*24。

○現在の二一ズと将来見通し、コンセンサスとリーダーシップのバランス

 プライオリティの検討に当たっては、産業界等社会における現在の二一ズと将来見通 しを十分踏まえることが重要である。知的基盤がシーズとなって新しい産業が生まれることも十分あり得ると考えられ、現在顕在化している特定の二一ズのみに捕らわれ過ぎないよう留意すべきである。将来見通 しは技術的、政策的予測が重要であり、戦略性を持って行われるべきである。

 その際、コンセンサス(合意)とリーダーシップ(直観)のバランスをうまく取ることが必要である。また、産業界においてその二一ズを集約する場などが必要であり、このような産業界の場から本委員会や経済産業省あるいは整備機関が、その二一ズを政策立案や整備計画の遂行に反映させていく必要がある。

  ○データ・情報の取得の手法・方法論

 データの整備とともに、データや情報の収集の手法や方法論の開発の視点も重要である。このような方法論の新しいコンセプトと提示は、極めて高度な技術革新につながる可能性がある。このような手法や方法論の開発はそれ自体が極め先端的な研究開発であり、このような観点からの研究開発プロジェクトと知的基盤整備プロジェクトの連携が重要である。

  ○情報セキュリティの確保

 情報通信技術の進歩により、知的基盤の供給は、インターネット環境など世界に開かれた通 信ネットワーク上で行われるようになってきている。これは知的基盤の公共性からして大変好ましいことである。一方、このようなネットワーク環境においては、外部からの情報の改ざん等に対するセキュリティの問題がある。知的基盤の公共性にかんがみると、その信頼性を保つため、情報セキュリティの確保が極めて重要であり、また、提供する知的基盤に対する責任範囲の明示なども必要である。

 

2)国全体としての効率的な知的基盤整備

  ○特定目的の国家プロジェクトの柔軟性

 特定目的の研究開発プロジェクトや事故原因解明に当たっては、当該プロジェクトの合目的性の追究とその後の知的基盤としての活用性のバランスを考慮し、例えば、材料試験の条件範囲を広範囲に取るなどのことが、国全体として知的基盤を整備していくことに効果 的と考えられる。

  ○国家プロジェクトの知的基盤の登録制度

 国費による研究開発プロジェクトについては、得られたデータや試験評価方法などを登録する制度などの検討も必要である。登録制の前提としては、

・国のプロジェクトで得られたデータは、国の共有財産であるという基本的合意が得られていること、

・データを登録し公開する仕組みとしてのデータベースシステムが存在していること、

・登録するデータに含まれる項目とその表現方法について規定されたガイドラインが用意され、そのガイドラインに沿ったデータの提出がプロジェクト実施の必須項目として含まれること、

・研究開発インセンティブの確保のためプロジェクト終了後一定期間はデータの公開範囲を制限する等、提供されたデータの公開に関する規定が明確に示されること、

などが必要である。

 また、民間に死蔵されている知的基盤を買い取るといったことも検討することが望まれる。

 

3)国際的取組みの重点の考え方

  ○国際的なルール作り・プロセスヘの主導的参画

 知的基盤整備に係る国際取組みについては、国際経済の技術的ルール作り・プロセス(国際計量 標準の同等性確保、計測・分析・試験・評価法やデータ構造の共通化など)への主導的参画を基本方針とすることが必要である。例えば、これらの国際活動に係る幹事国、議長国、パイロットラポ等を引き受けるべきである。これらは相当な負担の伴うものであるが、先進国としての国際貢献の観点とともに、当該分野の全世界の先端の生きた情報が集まってくるということの重要性を十分認識すべきである。

 また、近隣諸国・アジア諸国に対する協力と取りまとめ役を果たすべきである。当該諸国自身の基盤を整備・提供することになるとともに、当該地域における技術的指導性の確保は、我が国企業の当該地域における活動を環境整備の面 から支援することとなるという点も重要である。多くの国際的取組みの枠組みにおいては、地域における活動を通 じて全世界的に活動を広げていくという考え方が取り入れられて

いる。我が国は、アジア地域の一員としてその地域活動を通じることを中心としてその他の地域・国との協力・連携を進めていくべきである。

  ○科学的知見の国際公共性と国際産業競争力確保のバランスを考慮した知的基盤の公開

 国費で整備した知的基盤は、科学的知見の国際公共性にかんがみ、内外に公開することを基本としつつも、国際産業競争力の観点も考慮して対応するべきである。

 すなわち、学術的あるいは標準的な知的基盤は積極的に公開するとともに、国際産業競争力の確保・強化に直結するものについては、例えば、開発と公開の間に時間差を設けて知的所有権を確保したり、時間的に公開の範囲を拡大していったり、あるいはデファクトスタンダードの獲得を目指して積極的に公開したり、各分野の状況に応じ戦略的に取り組むべきである。また、国際的な相互交換や国際分担についても、分野の特性に応じて機動的に行い、国際的な競争と協調の下に全世界的視点で知的基盤を整備していくべきである。

 このような国際競争力という点は、国民に対する責任という観点からも重要である。

○データベースに係る知的所有権問題と我が国における整備実績作り

 データベースに係る知的所有権については、新たなデータベースの構築・検索技術が発明された場合は特許による保護対象になっている。また、情報の選択や配列(データ構造)に創造性が認められる場合は著作権による保護対象になるが、事実情報をただ集めただけの新たな創造性のないデータベース、データベースの要素であるデータそのものは保護対象となっていない。

 データベースに係る知的所有権保護の取扱いについては、国際的にも不確定な部分が多い。最も先行しているのが欧州であり、1996年にEU指令により、既存データベースからのデータの抽出(データを他の媒体に移送すること)、再利用(入手した情報を新しいデータベースにして多数の者に提供すること)について、作成者に排他的権利を認めるというものである。米国においては、投資を行って収集、配列、維持がなされている情報収集物のすべて又は実質的部分を抽出することにより、市場に悪影響を及ぼす行為を禁止する法案が1998年に下院を通 過したが、教育・学術研究の用途に対して悪影響を及ぼすとの科学者の懸念などもあり、上院で審議が進まず廃案となった。1999年には著作権法の公正利用条項に類似の適性使用条項を追加する法案が下院に提出されている。また、不正競争防止の考え方に基づく、データベースのデッドコピーを禁止する法案も提出され、現時点では最終的な姿は見えていない。
 一方、我が国においては、著作権審議会や産業構造審議会において議論がなされているが、我が国として統一した明確な方針が示されている状況にはない*25。
 いずれにせよ、内外における議論の状況・行方を踏まえて、知的基盤整備に当たり適切に対応していく必要があるが、国際的には、一般 論として、知的な成果に対してはそれを生み出した者に権利を認めていく又はそれを第三者が使用する際の行為を規制するというのが概括的な方向であろうと考えられるので、我が国においてもデータベース等の知的基盤を自ら整備し実績を積んでおくことが肝要である。

 

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