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【背景の第一 : 知的基盤整備の全政府的な位置付け】


4.全政府的な知的基盤の範囲と経済産業省の取組みの範囲、関係省の連携

(背景)

 「科学技術基本計画jに知的基盤整備が位置付けられ、知的基盤整備に政府全体で取り組むこととなり、全政府的な知的基盤の範囲と経済省の取組み範囲の関係を整理することが、今後、関係省庁の連携等により政府全体として知的基盤整備を強力に推進していく上で必要である。

○知的基盤の基盤としての特性と関係省の連携

 知的基盤は、必ずしも特定の限定された目的と直接的に一対一に対応していない場合が多く、これは知的基盤の持ついわゆる基盤性としての所以である。これを考慮した上で、不必要な重複や省際において抜け落ちてしまうことのないよう関係省が分担・連携・協力して政府全体として取り組むべきである。またその際、各省が分担して整備する知的基盤について、インターオペラビリティの確保の観点も重要である。
  その中で経済産業省は、民間活力の向上、対外経済関係の発展、資源・エネルギーの安定供給に着目して、経済と産業の振興を図るという役割を担う観点から知的基盤整備を行うべきである。重点分野それぞれにおける関係省連携の現状は以下のとおりである。

・計量標準計量標準については、経済産業省はその全般を守備範囲としているが、昨今、経済社会活動において必要な計量 標準の範囲が急速に広がってきている。特に標準物質を使った計量標準の分野では、経済社会活動の多くの場面 で安全確保や品質管理の要求が高まってきている。このため、環境、医療、食品などの分野における分析においては、計測器に対する国家計量 標準へのトレーサビリティの要求や、試験機関の品質管理に係る国際規格(ISO/IEC17025)*6の取得を分析の条件として求める動きが、欧米を先行に国際的になってきている*7。
  医療医薬品分野の試薬等の標準品については、国立医薬品食品衛生研究所(厚生労働省)、環境分析用標準試料は、国立環境研究所(環境省)、農薬検査は、農薬検査所(農林水産省)が関係する機関である。なお、我が国の標準物質に関する情報については、省庁横断的に集約した標準物質総合情報システム(RMinfo;Reference Materials total information service of Japan)をNITEが整備し、国際標準物質データベース(COMAR;Code d'indexaition des Materiaux Reference)*8に参画している。また、国際機関レベルでは、化学物質の分析に関して、国際度量 衡委員会(CIPM;Comite lnternational des Poids et Mesures)*9と国際気象機関(WM0;World Meteological 0rganization)、国際臨床化学連合(IFCC;International Federation of Clinical Chemistry)、世界保健機関(WH0;World Health 0rganization)等との連携*10が広げられつつあり、これに対応した関係省の連携による国内体制の整備も望まれる。
 計量標準の高度化・量子化、エレクトロニクスの発展により、時間/周波数標準の重要性が増大している。当該分野には通 信総合研究所(総務省)が関係しており、共同研究やCIPM諮問委員会への対応等において協力・連携を行っている。

・地質情報
  地質情報は、地球科学情報の一類型と見ることができるが、国土管理の基本データであるとともに防災、資源開発・保全、都市開発、環境保全等広範に応用されることから、「経済構造の変革と創造のための行動計画(平成12年12月、閣議決定)」で知的基盤の重点分野に取り上げられたものである。知的基盤としての地球科学情報はその他に、地形情報、海底地形情報、気象情報、大気や海洋等の地球環境情報として幅広く捉えられる。これらはいずれも国土の管理、自然災害の軽減・防止、地球環境の保全の観点から活用される国家的基本的情報であり、民間で整備することが困難なものである。また、地理情報システムについては、その開発・運用に係る関係省庁の連絡会議の枠組みがある*11。
  地質情報の整備については、経済産業省の産業技術総合研究所が我が国における地質の調査のナショナルセンターとして、地質の調査を総合的に行っている。
  地球科学情報に関係する機関は、産業技術総合研究所(経済産業省)、国土地理院(国土交通 省)、海上保安庁水路部(国土交通省)、防災科学技術研究所(文部科学省)、土木研究所(国土交通 省)、東京大学地震研究所(文部科学省)、海洋科学技術センター(文部科学省)、東京大学海洋研究所(文部科学省)、気象庁・気象研究所(国土交通 省)、通信総合研究所(総務省)、国立環境研究所(環境省)、国立極地研究所(文部科学省)、宇宙開発事業団(文部科学省)、宇宙科学研究所(文部科学省)と多岐にわたる*12*13。 これら各機関は、火山噴火予知連絡会や地震調査研究推進本部等、各省間の連絡組織における活動や、国際陸上科学掘削計画等の個別 課題を通じて連携し、それぞれの機関の分担に応じた役割を果たしている。

・化学物質安全管理
  化学物質は社会の多様な活動で使用されており、その安全確保については、生産の観点、人の健康への影響の観点、環境や農水産品を経由しての人への影響の観点、自然環境への影響の観点など多面 的に取り組まれなければならない。このため、多数の省庁や機関が関係することから、各々の知見等を活かしつつ、協力・連携していく必要がある。このため、内分泌かく乱作用が疑われている物質については、関係省庁の連絡会議が設置されており、経済産業省、環境省、厚生労働省、農林水産 省、国土交通省、文部科学省が参画している*14。

・人間生活・福祉
  人間特性データについては、人間生活に適合する工業製品の設計に使われるのみならず、公共施設、交通 施設、労働安全条件等においても、人間の特性に適合した安全・快適な設計をする場合には不可欠なものである。経済産業省においては、NITE及ぴ(社)人間生活工学研究センター(HQL;Research Institute of Human Engineering for Qua1ity Life)が産業応用を目指した人間特性のデータベースを整備している*15。
 また、文部科学省では、学校保健統計及ぴ体力・運動能力調査において、小学生から大学生までの体位 、運動能力に係るデータ計測を行っている。また、厚生労働省においては、国民栄養調査の一環として、身体計測や運動能力計測が行われている。これらのデータは一部が公表されいる。
  防衛庁では自衛隊の装備品を設計するために、身体計測データの収集を行っている。なお、防衛庁では、このデータの更新を目的に2001年より男女自衛隊員3000名程度を対象に、3次元形状・筋力・その他の諸機能の計測・データベース化を図っている。

・生物資源情報
  バイオテクノロジーは、生命現象・機能を利用する技術であるが、高齢化、食糧不足、地球環境保全等人類的課題の解決への鍵を握るものとの期待が大きい。また、その応用の可能性は広範で工業、農林畜水産業、医療・保健、環境・エネルギーといった分野で新規産業に結び付く可能性が高い。このような全政府的課題に対して経済産業省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省がヒトゲノム解析、イネゲノム解析、動物・微生物ゲノム解析等を関係5閣僚申し合わせ(平成11年1月)*16やミレニアムプロジェクト*17の下に分担・連携して行われている。
 また、生物遺伝資源については、産業有用微生物、農林水産業利用のための微生物・動植物の細胞、環境指標微生物、医療研究のための病原菌、疾病遺伝子、細胞、実験動物など広範である。例えば、微生物については、その多様性から培養・保存技術が異なり、諸外国においてもいくつかの機関が、それぞれ専門性に基づきカルチャーコレクションを運営している。我が国においても、それぞれの省の役割に応じて分担しており、その中で経済産業省はその役割に照らし産業有用性又は学術的な価値に着目して取り組んでいる*18。遺伝子組換え体に係る知的基盤整備などが今後の課題である。

・材料
  材料物性データについては、主に産業利用の観点からの整備と学術的観点からの整備の捉え方がある。我が国の主要なデータベースについては、産業応用、研究機関・企業における素材開発、製品設計の基礎データとして経済産業省が民間研究機関への委託や産総研により整備している。金属疲労強度等大規模な設備と長期間を要するような試験データは文部科学省が物質・材料研究機構により整備している。学術的観点からは、金属材料等について日本材料学会が整備している*19。

○関係省連携の推進

 以上のような状況から、各種連携の枠組みやミレニアム事業、科学技術振興調整費事業その他により、各分野の特性に応じ機動的、効果的に各省連携を進めていくことが必要である。
  計量標準については、適合性評価の国際的な新たな動きと標準物質の多様性から、医療医薬品分野、環境分野、農薬分野などにおいて、それぞれの分野でその専門的知見を有する関係省・機関との新たな協力・連携が必要である。特に、臨床検査用のヒト血清中生化学物質・金属・イオン分析用標準物質やPCB・有機塩素系農薬関係の環境分析用標準物質等についての早期の連携着手が望まれる。また、COMAR(国際標準物質データベース)に参加している我が国の標準物質総合情報システムの整備・運営及びCOMAR対応のための関係省・機関等からなる委員会の場を関係省の連携により一層活用することも効果 的である。
  また、計量標準の高度化・量子化、エレクトロニクスの発展により、重要性が増大している時間/周波数標準についてもより一層の連携協力が必要である。アンテナ、EMC関連についても同様である。さらに、次世代の長さ標準を開発するための超短光パルス標準や放射光施設の高精度化に必要な超軟X線標準の開発等について、関係機関との早期の連携が望まれる*20。
  地球科学情報は多様であり、関係機関も多岐にわたるので、地球科学情報全体が俯瞰できるような関係省・機関での連携が必要である。その際、例えば、まず地圏、水圏、気圏等大きな括りでそれぞれまとまり、その上で全体へ連携していくことが効果 的である。地質情報について言えば、まず国土の地質基本図である20万分の1地質図幅について岩相・時代区分を統一したシームレス地質図として整備し、それを基図として関係機関の保有する関連情報を集積することや、国際海洋法条約に基づく200海里排他的経済水域外辺の経済主権の主張の根拠となる海底地質データ整備、及び都市圏の基盤整備、防災、環境保全に必要な地下地質データ整備等について早期の連携が望まれる。これら地圏分野における関連機関の連携は、政府による国土空聞データ基盤整備の構想を通 して社会的基盤の構築に貢献し、さらに水圏、気圏を扱う機関との連携に発展させ、地球科学情報分野全体に拡大していくことが望まれる*21。
  化学物質安全管理分野については、既設の内分泌かく乱物質問題に係る関係省庁の連絡会等における連絡等を図りつつ、引き続き、内分泌かく乱作用の疑いのある物質等について、安全性試験評価方法の開発・確立とハザードデータベース整備を適切な分担・連携により進めていく必要がある。
  人間生活・福祉分野については、産業応用する民間のニーズはもちろん、様々な公共的応用も視野に入れ、関係省庁が分担・連携して、人間特性データベース等の整備を進める必要がある。また、近年、労働安全衛生管理システムに関するガイドライン等の検討が行われており、これに基づくリスクアセスメントの実施などに人間工学データが必要であり、経済産業省の人間特性データベースの整備は大きく寄与するものと考えられる。
  生物遺伝情報分野については、関係5閣僚申し合わせ等を踏まえ、生物資源機関の整備や微生物、ヒト、イネ等のゲノム等解析及びデータベース整備を関係省庁の分担・連携により進めていく必要がある。また、生物遺伝資源については、単に保存するだけでなく、それを継続的に分譲・供給するサービス機能や高度な研究現場のニーズに対応できるサービスを提供していくための研究機能が重要である。日本学術会議微生物学研究連絡委員会も本年3月に関係省の協力・連携によりカルチャニコレクションの中核を構築する必要があると提言している*22。このようなことを踏まえつつ、欧州における微生物情報ネットワーク(CABRI:Common Access to Biotechnological Resources & Infomation)のような機能の構築を目指して、我が国の23のカルチャーコレクション機関の所属する微生物資源学会の場等も活用して、効果 的な分担と集中を行うための検討を開始することが望まれる*23。
 材料物性データベースについては、知的基盤として多くの研究者・技術者に公開して新しいアイデアの創出に結び付くようにするには、材料特性を俯瞰できることやより自立的な運営につながるよう多くの研究者が整備・改良に参加するネットワークが重要である。そのようなデータベース整備の観点から関係省・機関の連携が必要であり、その際、これまでに我が国材料データベースとして金属系を始めとして大きな実績があり、これらを整備してきた独立行政法人、学協会、さらに経済産業省の委託により整備を進めている業界団体等がデータベースの集中と分散のバランスを適切にとりつつ連携することが効果 的である。

○関係省の連携・調整の場

 関係省の連携・調整の場が必要である。政府全体として効率的かつ強力に知的基盤整備を進めていくには、総合科学技術会議に知的基盤を専門に検討する場を設置することなどが適切である。また、知的基盤の大きなユーザーである産業界との連携も重要であり、そのニーズを国の知的基盤整備にフィードバックさせることが必要である。

 

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