【背景の第一 : 知的基盤整備の全政府的な位置付け】
3.知的基盤の整備体制の考え方
(背景)
取り扱う知的基盤の範囲が明確化した後に、そのような知的基盤は本来誰が整備すべきかという整備主体の問題がある。海外において見られるように、知的基盤については、国がその主要な整備主体となっている*4。しかしながら、我が国において知的基盤整備を集中的にかつ強力に進めるに当たって、今一度なぜ国が整備の中核を担うべきなのか、ということを知的基盤が本来持っている特性に立ち返って考えることが有益である。そうすれば整備における国と民間との関係、及び官民総力を合わせての整備に向けた考え方が整理できる。
(1)知的基盤の特性と整備主体の考え方
○知的基盤の公開性、網羅性、非市場性、永続性
知的基盤は、
一公共的性格が強く、広く国民に公開・提供することが必要。また、特定の者の独占により産業発展や公共の福祉を阻害する恐れ。
一網羅的、体系的な収集、整理が求められ、整備に相当の投資が必要。
一知的基盤に要する投資は、それ自体が利潤を生む性格のものではないので、投資を回収することは期待できない、あるいは、整備に要する投資に対して、市場原理に見合う価格設定が困難。すなわち公開することに経済的メリットが少ない(他者の整備を待つか、自ら整備したものは公開しない)、あるいは長い年月にわたる整備の積み重ねにより、価値が生じてくるものであり、比較的初期の段階では価値の評価が困難。 等の性格を有する。
したがって、民間独自の事業としての成立が困難であり、基本的には国が整備する必要がある。しかし、国全体として知的基盤の底上げを図るため、民間における整備も期待し、民間の能力も活用することが適当である。○民間が競争の中で創意を発揮する事業環境整備
世界的に見て超巨大企業は、先行的な市場開拓等を狙い、その企業戦略により自らが使う知的基盤を相当程度整備している場合もあるが、こういった戦略を採りうるような体力のある企業はそう多くないと考えられる。また、仮に企業自らがこのような知的基盤を整備した場合には、通 常当該企業内に秘匿されることとなるため、必要とする知的基盤が個々の企業によって整備されることとなり、結果 として社会全体としては、コストの増大をまねくこととなる。
したがって、国は、自ら整備が困難な多くの民間企業に替わって知的基盤を整備し、事業環境を提供するという役割を担う必要がある。またこのことは、同種の知的基盤の整備における社会全体のコストを低減させる効果 を生じさせる結果にもなる。しかしながら、かかる知的基盤の整備にあたっては、政策的必要性を考慮して戦略分野に重点化することが求められる。また、国自身の需要により整備した情報も個人の財産やプライバシーの保護に充分配慮した上で可能な限り公開し提供して、民間における二次利用を促すべきである。(2)国における知的基盤整備体制
○高度な研究開発機関、行政実施機関、研究開発マネジメント・コーディネート機関による役割分担
国における知的基盤整備体制については、経済産業省で考えると、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE;National Institute of Technology and Evaluation)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO;New Energy and Industrial Technology Development Organization )が整備実施の中心となる主体であり、それぞれ高度な研究開発機関、行政実施機関研究開発マネジメソト・コーディネート機関としての機能、能力によりその役割分担が整理される。この考え方は、他省においても関係の類似する機関について同様に適用できると考えられる。
それぞれの機関について述べると以下のとおりである。
・産総研
産業技術の研究開発主体でありその高度な研究開発能力により、国家的研究機関として行うべき知的基盤整備を実施する。特に、計量 標準及び地質情報については、技術的な専門性・特殊性や基盤性から産総所以外での実施は基本的には困難であり、また国として一元的、体系的に行うべきものである。海外においても当該分野の専門の国家的研究機関がこれを実施している。また、自らが実施した一般 的な研究開発の成果についても、その普及の観点からデータベース整備等を進推している。
・NITE
経済産業行政の実施に密接不可分な技術評価、分析及び調査研究、技術情報の提供を行う行政実施機関として、その実施機能・能力(一定の技術レベルを持っ た技術者集団としての能力を有しつつ、大量データ収集等の業務も行い得る)により、民間で対応が困難な生物資源情報基盤(DNA解析データベース、カルチャーコレクション等)、化学物質ハザードデータベース、人間特性データベース等の整備を実施する。
・NEDO 国として民間の能力を活用して行う研究開発のマネジメント機関、産学官の協力による研究開発のコーディネート機関として、知的基盤整備のうち、産業技術総合研究所、製品評価技術基盤機構民間機関・企業、大学等産学官連携により行うことが効果 的なもの、あるいは、産総研、NITEよりむしろ民間にポテンシャルがあり民間の能力を活用することが効率的なものについて、産学官連携体や民間等への委託により実施する*5。
なお、現在政府において特殊法人改革の議論が進められており、今後その検討結果 がまとまればそれを踏まえる必要がある。