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日本計量新報 2017年12月17日 (3176号)

豊かでも快適でもない指定定期検査機関職員の実態

北朝鮮のイカ釣り漁船が日本海の北側に何艘も難破・漂着している。北海道の松前小島には漁業施設から漁具などが北朝鮮の漁船に盗難された。北朝鮮沿岸の漁業権を中国に売り渡したために日本海中ほどにある浅瀬に出漁する。粗末で小さな木造船をみればエンジンは日本の昭和30年ころのものと違いないことが想像され故障は必至である。冬の日本海の荒波に翻弄されれば難破する。

 乗組員の衣服は粗末であり松前小島では格納施設の蝶番まで盗まれていた。板門店の国境を超えてきた北朝鮮兵士のお腹には回虫が渦巻いていた。北朝鮮の人々の暮らしの貧しさがみえる。取引とはいえ北朝鮮沿岸の漁業権を買うという形で奪い取る中国は無慈悲だ。あらゆることで銭を集めて核爆弾と大陸間弾道ミサイルをつくることが「北の首領さま」のやり方である。ベトナムに介入し、イラクに攻め入った国連軍の装いをして米国が核ミサイルの脅威に震えた時にどのように行動するか。日米は100%一つだと誓いあっているのが両国の責任者である。

 核ミサイル攻撃が日本になされたときの被害規模を問われた菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官は「仮定のことには答えられない」と述べた。同じ席で沿岸警備に関して国民の「安全安心のため」という言葉を用いた。2017年12月の記者会見においてである。「安全安心」が国家目標になっているらしい。戦争をしたときの日本陸軍は「八紘(はっこう)一宇(いちう)」を掲げた。中国も朝鮮も台湾も南アジアの国々は一つになって繁栄しようという理屈で、これらの国々に攻め入って占領することが正当化された。われわれはこの欄で国の目標は「豊かで快適な暮らしの実現」であることを主張し、計量の目標はこれに重なるから「豊かで快適な暮らしのための計量・計測」の表題を掲げた。

 明治政府は国の礎(いしづえ)の一つとして度量衡制度と度量衡行政の制定を推進した。欧米あるいは世界の度量衡制度との整合をとるということで、メートル法にもとづいた度量衡制度を敷いた。度量衡制度の完全なメートル化には時間を要し、また度量衡関係者の大きな情熱と力がそそがれた。メートル法完全実施は度量衡関係者の悲願であった。悲願は熱情と一体であり力強行動をともなった。本紙の「計量計測データバンク」に掲載された「私の履歴書 鍋島綾雄」(日東イシダ会長、日本計量振興協会顧問、前宮城県計量協会会長)の文章に次のような記載がある。

 「戦前、宮城の協会の先輩たちはメートル法の普及推進に取り組み、目覚ましい成果を残している。白石と大河原の駅を起点として1kmごとにメートル標語を書いた高さ3メートルの指導標を立て、蔵王山頂には幅30cm高さ4メートル御影石の指導標を運び上げて立てるという壮大な企画であった。1930(昭和5)年には500人もの人を動員して総予算2032円(現在の2000万円くらいだろうか)を掛けて大事業を完成させ、蔵王賽(さい)河原において盛大な祝賀会(横山商工次官・湯沢知事出席)を開催している。先人達の社会的レベルの高さと、メートル法推進のエネルギーには驚嘆すべきものがある」。

「豊かで快適な暮らしの実現」のための計量制度は計量行政が機関委任事務から自治事務に転換して以降、地方公共団体は法律の規定を無視して計量事務のための組織をないがしろにしたために機能が危ぶまれるようになった。衰弱した体となり考える力もなくなっている組織がいくつも出現している。体を病み精神が荒廃し異常をきたしている。この状態だから計量法の施行にからむ検定検査の分野で「民活」がうたわれ、計量業務が法令に則らない形で民間機関で実施される状況が生まれている。

 新規に盛り込まれる計量器の検定業務もまた「民活」でなされる仕組みになっている。実務の内容に符合する検定手数料であるようでなければ「民活」はいずれは崩壊する。儲けられるのではないかとさまざまな理屈で自分を言い負かして事業者は行動にでる。現在ひろくなされているハカリの指定定期検査機関制度による事業者はその経営・運営に苦しんでいる。

 ある県の計量検定所職員OBで現在県協会の事務責任者をしている人は「今の体制のもとでは若い人を職員にしても先々の給与など処遇を見通せない。だから若い職員は採用しない」と述べる。このように言っていても結局は若い人を採用して指定定期検査機関業務に就かせる。しかし公務員並みの処遇など期待はできず使い捨てにされる。「豊かでも快適でもない指定定期検査機関職員」の実態がある。

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