計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2017年8月  6日(3159号)  13日(3160号)  27日(3161号)
社説TOP

日本計量新報 2017年8月13日 (3160号)

質量の理解と国土地理院による重力値の新基準

質量を説く2つの文章がある。

岩田重雄氏はテレビでの問答の途中で専門家が「ニュートリノの質量」と説明するとアナウンサーは「ニュートリノの重さ」と言い換えたことを伝えて、質量と重さの区別を述べる。重さ(重量)を質量の意味に使うためにおこる国際的混乱をさけるため1901(明治34)年にパリで開かれた国際度量衡総会で、「物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位でありその記号はkg)」と、「質量と重力加速度の積に等しい重さ(重量)」とは異なることを決議し、この場には日本からは2名が出席していたことを記している。この区別の説明が質量と重さ(重量)の区別を明瞭にする。日本初代の国際度量衡委員の田中舘愛橘(たなかだ てあいきつ)氏が西洋諸国の人士に推されて国際度量衡委員に就任したのが1910(明治43)年6月のことであるから、上の決議の場にいた日本人はだれであったろう。

数学教員であった高田彰氏が質量と重さのことを次のように表現する。世間が重さと言っているもののほとんどは質量である。重さは場所によって変わる。月へ行くと6分の1になる。宇宙船の中では0である。その人には不変な固有の量がある。それが質量としての体重である。「体重」は質量概念である。

質量とは「物体そのものを構成する物質の分量である」そして「そのものがもっている不変な固有の量」である。当時の計量研究所が編纂した計測辞書や計測用語辞典では大体このように書いてあった。

質量のことを別の言葉で述べる。「質量は重さと混同される場合も多いが異なる概念である。物体の重さとは、その物体が受ける重力の大きさを表し、重力が異なる場所ではその重さは異なる。しかしその物体の質量は同じである」

次の言葉で質量を理解できるであろうか。「物理学的には厳密には、動かし難さから定義される慣性質量(inertial mass)と、万有引力による重さの度合いとして定義される重力質量(gravitational  mass)の 2 種類の定義があるが、現在の物理学では等価とされている。慣性質量と重力質量の等価性は、たとえば重力加速度が落下する物体によらず定まることから知ることができる。物体に働く重力は重力質量に比例するが、一方で重力加速度は重力を慣性質量で割ったものなので、重力質量と慣性質量は比例していることが分かる」以上はインターネット百科事典のウィキペディアによる。

同じ質量の物体は重力値が変われば重さとしての値が変化する。質量に重力値を掛けてやると質量が表示される仕組みができており計量法はこのようにしている。計量法がモノの目方として取り扱っているのは質量であり、質量の単位はキログラム(kg)である。お肉屋で買ってくる肉の目方の200グラムとは肉の質量200グラムのことである。

北海道と沖縄では地球が回転するときに発生する遠心力などが影響して重力値が異なる。沖縄での計量は北海道より1000gに対して約1g軽くなる。10kgでは10g、100kgでは100g軽くなる。そうならないようにするためにハカリは使う場所の重力値に対応した補正がされている。1kgのモノがどの場所で計っても1kgになるようにしている。

日本の場合には重力値がおよぼす地域差は1000分の1であるので、それより目の粗いハカリを補正することには意味がないので、目盛りが1000分の1より粗いハカリは同じ取り扱いで規制することをしていない。目盛りが1000分の1より粗いハカリということで目盛りが1000以下のハカリは計量法では検定の対象になっていない。このことと連動して計量法によるハカリの定期検査からも外れる。

上に述べた重力値が目方に作用するのはバネ式ハカリと原理を同じにするハカリであり電子式ハカリのすべてがこうした原理に属する。電磁力平衡式のハカリは加重に対応して電磁石の力で釣り合わせる方式である。1kgの加重に対応する平衡の力は1kgであるがそもそも1kgの加重として働く力は重力加速度の影響を受けており、同じモノを沖縄で同じ計測すると1g軽い999gを表示する。999gはハカリにとって未知のものであり、これに対応する電磁コイルの電流を発生させて999gの値で釣り合わせて999gと表記する。この電磁力平衡式のハカリも地域の重力値を乗じて補正しなければならない。電磁力平衡式は釣り合わせるというゼロ位法であるために重力値の補正が要らないと勘違いされることがある。

1000gの質量の分銅を載せると北海道で1000gと表示されるハカリの場合、北海道で使ったものと同じハカリを重力補正せずに沖縄で使うと表記は999gになる。1g軽く表記される。磁力平衡式のハカリも同じだった。ところがこうしたことがおこらないハカリがある。左右が上下に揺り動くヤジロベー式の天びん秤(ハカリ)の場合には北海道では1000gあるモノの目方に対応して1000gに相当する分銅を載せて釣り合わせるので、1000gとしての質量を表記できる。沖縄にその計量したいモノを移した場合もヤジロベー式の天びん秤(ハカリ)は、北海道で使用した分銅を積んで釣り合わせる。

北海道でバネ式ハカリで計った表示が1000gであり、それが沖縄に移されると999gになってしまうが、ハカリが重力値を乗じて補正されているので沖縄では1g足した形になる。バネ式のハカリで計ると北海道の1000gの品物が沖縄では999gになってもヤジロベー式の天びん秤(ハカリ)では沖縄に移すと既知の質量の分銅によって1g軽い状態で釣り合わせて1000gの質量の品物として表記する。ややこしいがモノに働く重力値の影響と重力値の影響を除去して質量を求める方法はこのようなことだ。

地球上の重力値はさまざな要素と作用によって変化する。その日本の重力値の値がこのほど公表された。日本の重力値の新基準を国土地理院が2017315日に公表した。日本の重力値の基準の更新は40年ぶりのことである。公表された「日本重力基準網 2016 JGSN2016)」は一般に「重力値地図」(重力マップ)と呼ばれており、ハカリなどの検定や定期検査あるいは調整のための校正にさいして、その地域の重力値を用いて補正される。新しい重力値を用いてのハカリやトルク計などさまざまな計測器の補正や校正などは計量法法令ほかの規定によって発表と連動してなされる仕組みができている。

さてモノに働く重力値の影響のことである。月の満ち欠けが潮の干満を引き起こすのをみれば月の及ぼす重力値への影響を無視できるだろうか。月の地球への接近と太陽やその他の惑星との関係はどうだろう。宇宙工学はこのことを織り込み済みであろう。計測の世界の誰か、この方面のことを述べてほしい。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.