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日本計量新報 2016年5月29日 (3105号)

日本文化と産業と社会の支える兵站としての計量の展開の在り方

計量と計量制度の社会機能を戦争における<RUBY CHAR="兵站","へいたん">にたとえて理解することをこの欄で試みてきた。どこまで当を得ているか心もとないが、このことを説いたのを目にしたのは当時の電子技術総合研究所(現産総研)の所長の<CODE NUMTYPE=SG NUM=6C72>日本計量新報<CODE NUMTYPE=SG NUM=6CE3>への寄稿文書によってであった。いわく「計量と計量制度は社会の兵站である」。

兵站とは軍隊が軍事行動をまっとうさせをるための後方支援に関するすべてのことを意味する。兵器、弾薬、食糧その他の必要な物資の補給がそれであり、そのための輸送も含まれる。そうした後方支援の総合が兵站である。

戦争をしてよいか、してはいけないかということは別にして、日本国はいくつかの戦争をしてきた。19世紀と20世紀は戦争の世紀であり、日本も世界も同じようであった。

日露戦争における兵站はどうであったか。歴史学者の評価はさまざまであろうが私たちには司馬遼太郎の物語が手近であり、その後の中国ほかを相手にした日中戦争、米国を主な相手国にした太平洋戦争のことは、これに従軍した人が後に作家になって経験を小説にしたものが事実を伝える。

日本軍の日露戦争における兵站作戦はドイツの兵站思想の模倣であったが兵站の意味はわかっていた。限りあるものではあっても兵器、弾薬の製造と調達、食糧その他の必要な物資の輸送とその補給をなんとかまかなった。

日中戦争初期の中国戦線の戦闘は兵站が機能していた。短期戦であればそれができる。もう1つは参謀に兵站を執拗に説く者がいたことによる。都合が悪い意見を吐く者が排除され作戦は情緒が優先される。兵站が機能していた占領地での駐留において略奪等はおきにくい。日中戦争の全体を通じては日本軍に精神主義が台頭したことや長期戦になったこともあっても軍事行動を支えるための兵站は機能しなくなった。兵站思想が欠如して兵站が機能しない戦争は無謀な戦争になる。このとき軍は内部にも外部にも暴力をむきだしにし戦争犯罪がここに生まれる。

国家の存亡の危機となったのがロシアとの戦いである。放っておいたら日本の国が滅茶苦茶にされ無くなってしまう。国を挙げてロシアに対処しなければならない。このときは桂太郎内閣の時代であり児玉源太郎は内務大臣であった。事実上の副総理の地位にあった児玉源太郎である。児玉源太郎は大山巌元帥を参謀長にして、自身は参謀次長の地位を選んだ。児玉源太郎は国が総力を挙げて戦闘をまっとうするための兵站事務を取り仕切る立場に身を置いた。大山巌の勝ち運に賭けたこともあるが、この戦争における重大な意味をもつ後方支援ができるのは自分をおいてほかに人はいないと判断したからであろう。ロシア軍との戦闘に勝利することができた、この日露戦争において日本軍の略奪行為はほとんどなかった。

日中戦争そして太平洋戦争といった日本軍の第2次世界大戦における戦いにおいて日本の軍事行動は兵站抜きでおこなわれた。日米の軍事格差と戦争遂行能力ともいえる兵站のことを知っていた山本五十六は少しの間は華々しく戦ってみせるという意味のことを述べている。

ここで話が大きく飛ぶ。

軍事学において敵に対して最大限の戦闘力を発揮できるように戦力を体系的に配置する行動を展開(Military deployment)という。展開という言葉を気軽に使うことを戒めたらい。

作戦地域において戦力を再配置することを意味する軍事行動が一般に展開とされる。しかしこの展開は軍事面だけではなく政治と外交にも及び、この方面で影響と効果をもたらすことを含む。

戦闘をする時期と場所、動員する部隊と規模などによって戦敵など相手に国の意思を示すことがなされる。こうしたことは軍事学あるいは軍事面での展開である。戦力を展開する時期や場所、また、動員している部隊の規模や機能から政治的な意思を発信することができる。

石垣島北方約130<CODE NUMTYPE=SG NUM=5A03>ほどにある<RUBY CHAR="尖閣","せんかく"><RUBY CHAR="諸島","しょとう">は、日本が実効支配しているが中華人民共和国および中華民国がそれぞれ領有権を主張しており、中国は釣魚群島あるいは釣魚島と呼び台湾では釣魚台列嶼と呼ぶ。この島を巡る軍事行動と政治宣伝は一体をなす。

「計量と計量制度は社会の兵站である」とすればこれがどのような状態にあらねばならないか思慮するだけではなく配置し、どのように行動していくか。これが計量の展開の在り方だ。

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