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日本計量新報 2015年10月11日 (3076号)

ノーベル医学生理学賞の「イベルメクチン」「アルテミシニン」と計測と分析

2015年のノーベル医学生理学賞を贈られた大村智(さとし)北里大特別栄誉教授(80歳)の業績は、蚊やブユ(ブヨ)が媒介する熱帯地方特有のヒトの病気で、失明や視覚障害を引き起こす「オンコセルカ症(河川盲目症)」や、皮膚などが肥大化して硬くなる「リンパ系フィラリア症(象皮病)」、ダニが原因の皮膚病「疥癬(かいせん)」などの感染症の治療の開発で、特効薬となった「イベルメクチン」(エバーメクチン)の服用で感染の危機から救われる人は年間約3億人にのぼる。「イベルメクチン」(エバーメクチン)は寄生虫に効果のある抗生物質で、この発見を1979年に発表し、米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士(85歳)が家畜に効果があることを確認した。これによって、大村氏とキャンベル氏の共同受賞となった。もう一人のノーベル医学生理学賞の受賞者は、マラリアに効果のある「アルテミシニン」という化合物を発見した、中国の研究機関に所属するト・ユウユウ氏である。
 ト・ユウユウ氏が抽出した「アーテミシニン」(artemisinin アルテミシニン)は、抗マラリア活性を有するセスキテルペンラクトンのひとつで、多薬剤耐性をもつ熱帯熱マラリアにも効果的である。古くから漢方薬として利用されていたヨモギ属の植物であるクソニンジン (Artemisia annua)から分離された。そのきっかけになったのはベトナム戦争に出兵した中国軍兵士の感染であり、マラリア治療薬の調査がおこなわれ、1000年以上前から皮膚病やマラリアなどさまざまな病気の治療に用いられてきた漢方薬のヨモギ属植物の薬用効果を試すことによって、「アーテミシニン(アルテミシニン)」が発見された。
 マラリアには南方に進軍した旧日本軍が悩まされた。フィラリア症は飼い犬の命を奪うやっかいな病であったのが、「ミルベマイシン」などの開発によってこの病気は劇的に減少した。「オンコセルカ症(河川盲目症)」、「リンパ系フィラリア症(象皮病)」、「疥癬」の特効薬である抗生物質の「イベルメクチン」(エバーメクチン)によって、この感染に対する恐怖は少なくなった。
 司馬遼太郎が西郷隆盛のことを述べている一文に、象皮病に感染したために陰嚢が人の頭大に腫れ上がっていたことがあり、という箇所がある。藤田紘一郎氏の『空飛ぶ寄生虫』では、西南戦争で自害し、首のない死体を巨大な陰嚢によってそれを西郷隆盛と決めたことを述べている。医師の亀谷了氏が私財を投じて1953年に創設した寄生虫学専門の私立博物館「公益財団法人目黒寄生虫館」でも、西郷隆盛の象皮病感染のことを確認できる。
 科学と技術に寄り添っていて、それ自体が科学と技術である計量計測は、ノーベル賞のような優れた業績を陰で支え、あるいは知見を証明することに役割は果たしている。計るためには単位が決められていて、それを表示する方法が共通であることが社会の決まりごととして国際制度となっている。大きな量を確かな形でつかまえ、量を微細に求めることが計測としてなされる。計測技法と計測機器の巧みな使用があればノーベル賞に匹敵する研究成果がたくさん生まれる。

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