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日本計量新報 2013年8月25日 (2977号)

偽りの科学が福島第一原子力発電所事故を引き起こした

どんなことがあっても火をだして爆発を誘発しない機器が本質安全防爆機器である。電気回路があれば電流は爆発要因になる。本質安全防爆機器の場合にはこの電流の量や回路の構成などの要件を満たしていれば、この名称を使える。計測機器にも本質安全防爆構造のものがある。本質的に安全ということであるから、どのようなことがあっても安全であるということになる。民生用の原子炉は放射線漏れをおこして人を害してはならない。原子炉に放射線を閉じ込めるのは技術に依拠しており、技術が不完全であったり、事故がおこれば放射線は外にでる。福島第一原子力発電所の事故はこれであった。人を害する放射線をだす核燃料を使う原子力発電は、放射線をださないということでは本質的に安全ではない。
 欧州で頻発している列車事故とその人への被害については、機能どおりに作動している限りにおいては安全である。しかし何らかの要因で機能が壊れると事故がおきる。事故の被害は普通のばあい乗客と事故現場周辺の人に限られる。列車などは制御された安全の概念に属し、人の輸送、物の輸送のために列車や自動車を用いることを否定しては今の社会は成立しない。原子力発電の場合には、これを抜きにして電気を得る方法がないわけではない。原子力発電の技術はきわめて未完成な技術であり、安全を確保するための重要要素としての地震と津波への対応ができていなかった。福島第一原子力発電所の事故は偶然にいまの程度ですんでいるが、これは原子炉が爆発して暴走することになる状態にわずかの差で至らなかったからだ。第一原子力発電所の6基の原子炉が暴走し、第二原子力発電所の4基の原子炉が同じ状態になると、北東北と北海道地区、西日本地区だけが人が住むことができる地域として残り、ほかの地域は放射能汚染で捨てなければならなかった。このことが想定されたために事故対応に知見と自信のない政府と官邸は狼狽えた。
 日本列島の海岸線は地震の多発地帯であり、津波は海岸線では15m、場所によっては30mの高さを超える。日本の海岸線には54基の大型原子炉が据えられている。日本の電力需要には水力発電と火力発電で対応できるという事実がある。福島第一原子力発電所の事故の補償のことなどを考慮すると原発の運転はきわめてリスクが高く、この方式を用いることはできない。電力需要における家庭での割合は1割を越える程度である。一般企業が保有するダムと水力発電所は10を超える。製鉄、化学、自動車などの企業は自家用の発電設備をもっている。これら企業は不完全で不確実で本質的に安全でない原子力発電には手をださないが、手をだせない制度になっているのだろう。
 日本の原子力発電は米国の核の平和利用の名目で始まる。米国は核兵器製造のため濃縮ウランをつくることになり、つくった濃縮ウランを日本に売るという構造をつくった。日本の原発事業者は濃縮ウランの7割を米国から買う約束になっていて、他の国から買うのは3割を上限とされている。電気をつくるために発電設備が必要であるが、必ずしも原子力発電は必要でない。しかし米国から濃縮ウランを買うことを押しつけられているので、日本政府が主導して国策として原子力発電をしなければならないのである。原発の施設建設とその運転の技術が不完全であっても原発を推進しなければならなかったのである。原発は安全だ、という裏付けのない言葉を世の中にばらまき、地元では原子力を正しく理解しよう、と街の入り口に横断幕を掲げて、原発の街を自慢にしてきた。指摘された大地震、大津波に対して偽りの安全宣言をだした関係者の責任は別にして。偽りの科学がまかりとおる状況が福島第一原子力発電所の事故になってあらわれた。
(福島第一原発の事故と原発の現状を考える 連載その2)

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