計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2010年9月  5日(2836号)  12日(2837号)  19日(2838号)  26日(2839号)
社説TOP

日本計量新報 2010年9月5日 (2836号)

計測器の機能性検査に「不確かさ」を浸透させるには

日本のものづくり産業における製造現場では、出荷前に作った製品が目的通りに機能しているか、確認や検査をする必要がある。
 部品の機能を検査するには、部品の硬さや寸法を計って予定したとおりにできているかを確認する。部品を組み合わせた自動車のような製品であれば、走る、停まる、曲がるなどの基本となる機能を確認する。サンプルとなる製品で代用することもある。

 計量計測機器の基本機能は、いうまでもなく 精密に計ることである。特に目的に合った精密さで計れることが重要である。計量計測器メーカーは、製品を出荷する前に、目的とした精密さで計ることがでるかどうかの検査をする。
 一般的に検査方法は、検査する計測機器より精度が数倍高い計測機器を用いて測定し、得られた値を比較するというものである。
 計量法に定められた検定や検査も、高精度の測定器を用いて測定値を比較し判定する。
 企業等が持っている標準器(計量・計測の基となる計量器)または標準物質の値が、どの程度の精度で国家計量標準(国際標準)とつながりをもっているかということを明確にする計量法トレーサビリティ制度がある。
 具体的には、1993(平成5)年11月に施行された。この制度は、一面では改正計量法により、導入された国家計量標準供給制度であり、他面では校正事業者登録制度(JCSS制度)である。校正の道筋が、企業等での計量結果から国家計量標準まで切れ目なくつながっているシステムを作り維持して、個々の計量結果の信頼性を確保することを目的とする。
 JCSS制度の具体的な内容は、国際標準化機構及び国際電気標準会議が定めた校正機関に関する基準(ISO/IEC 17025)の要求事項に適合しているかどうか審査を行い、校正事業者を登録するというものである。
 校正事業者は、計量のトレーサビリティーを証明する技術行為として、上位の計測機器(場合によっては標準物質)によって計測機器を評価する。そのための測定値の比較を校正と呼ぶ。計測機器の機能の評価には、測定値の信頼性を総合的に評価する指標であり、合理的に生じる可能性があると想定される測定値のばらつきの範囲「不確かさ」が考慮される。 製造現場での機能性検査でも「不確かさ」の概念を取り入れる必要がある。しかし現実には、言葉として分かりづらく意味も難解で、現場が「不確かさ」を十分に理解して活用するのは難しい。
 OIML(国際法定計量機関)では、試験の合否判定の適合性基準として、従来経験値として決めてきたガードバンドの幅を「不確かさ」を使って決めようという考え方が出てきた。「ガードバンド」とは、誤差範囲を事前に想定して「計った値がこの範囲にあればよろしい」として定めた許容誤差の帯域である。
 上限値および下限値から不確かさの半分だけ内側に、測定における実際値を設定することによって、不確かさを考慮しても適合の上限値と下限値を超えることがないようになる。
 この考え方に則すると、その範囲内であれば不確かさを考慮しても目的とする計測器の規格の範囲、精密さの幅を超えない、という仕組みができあがり、比較的容易に適合性評価を遂行することができるので、日本人の現場感覚によく合う。
 計測技術者は、難しい「不確かさ」の概念や算出方法を、現場でいちいち説く必要はない。あらかじめ不確かさを加味したガードバンドを作成しておき、現場では、「この範囲に入っていれば大丈夫である」と示せば良いのである。そうすれば、不確かさの概念を取り入れた適合性評価を比較的スムーズに導入でき、現場に不確かさを浸透させることができるだろう。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次本文一覧
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.