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日本計量新報 2010年8月22日 (2834号)

慣れと過信が引き起こす事故は防ぐことができる

2010年夏、奥秩父で東京都勤労者山岳連盟の沢登りパーティの一人が滑落して死亡した。救助にあたった埼玉県の防災ヘリコプター「あらかわ1」が現場で墜落して救助隊員5名が死亡、さらに、事故を取材しようとした日本テレビ記者ら2名が遭難死した。
 一つは自分の楽しみのために、一つは人の救助のために、一つは事故現場を報道するために、三つの死亡事故が連鎖した。沢登りの滑落事故から端を発した一連の死亡事例に考えさせられることは多い。
 奥秩父での滑落事故の原因がどこにあったのか探り出すためには、経験、技量、体力、靴などの装備の状態などを確認していくことになる。自然界において、滑落などの予期せぬ事態は、少なからず発生する。
 事故の引き金となるあらゆる状況に対して準備をしたのかしないのか、最終的には自己責任が問われる。
 最近は、ツアー登山といって旅行会社が企画するツアーに申し込んで山に登る人が増えている。日本百名山に数えられるような、有名な山のツアーが人気で、富士登山者に占めるツアー参加者は、かなりの割合である。ツアーに申し込む側は、有名な山に登れるということで気軽に飛びつく。山小屋もまとまった客を取れるので好都合である。
 しかし、ツアーだからと、安易に山に登ることは大きな危険を伴う。山に登る時は、自分の体力に合った行程を組んで、無理のない計画を立てなければならない。行程や所要時間があらかじめ決められているツアー登山の場合には、特に、歩行時間や標高差などを考慮して体力に見合うコースを選ばなくてはならない。
 2009年夏に北海道大雪山系で、ツアー登山者ら8名が死亡した遭難事故が発生して問題になったが、似たような遭難事故は依然として起きている。
 山登りの装備の中で見落としがちなのが、登山靴の経年劣化である。シューズ本体と靴底のゴムとの間にあるポリウレタン素材の層(ミッドソール)は、製造後5年ほど経過すると保存状態にもよるが劣化が進む。劣化したミッドソールがボロボロと崩れて、登山中に靴底が剥げ落ちる事象が多く報告されて問題になっている。強い糸で縫い付けた靴底が剥がれることの希さに比べると、流行の軽登山靴の靴底のひ弱さとその剥離による登山事故は見逃すことができない問題である。
 安全確認した靴を履いて、防寒具、雨具、水、非常食を携行するのが登山の最低限の装備である。加えて登山者の体力と自然への危機意識が必要不可欠である。多重防護の考え方をしっかりと備えていれば、冒頭に記した沢登りの滑落事故、救助ヘリの墜落事故、無謀な取材事故は起きなかったはずである。救助ヘリの活動は、命がけの危険な状況にあったとはいえ、慣れや過信が潜んでいなかったか、ということも問われる。
 人間は誰でも、慣れや過信による失敗と隣り合わせである。前回大丈夫だったから、今回も大丈夫とは言えない。 我々は、用心や備えの大切さを、一連の事故をきっかけに我が身を省みて再認識する必要がある。

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