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日本計量新報 2010年6月27日 (2827号)

地域で活躍するメンテナンス企業

特定の一地方において、その地方の資源・労働力を背景に古くから発展し、その地に定着している産業のことを、地場産業という(大辞林第二版より)。
 計量計測に関係する産業には、地場産業として発展してきた地域も多数あり、生産と販売のしくみが絶妙な分業体制構造を取ってきた。しかし、そうした地場の計量計測産業のほとんどが、今、厳しい局面を迎えている。
 いくつかの地域を次に紹介する。


 金物の地場産業としては三条、関、三木などが有名である。三条市ならびに燕市では、曲尺(かねじゃく)ほか金属製のモノサシの産業が、昭和まで栄えていた。新潟県では、計量検定所所在地が県庁所在地とは別の三条市にあるという珍しい状態にあるが、これは三条市にハカリ産業、モノサシ産業ほかの計量器産業が集積していた頃の名残である。目盛りを鏨(たがね)などで打刻する職人芸が求められる時代は長くつづいていたが、フィルムによる焼き付けによって目盛りを刻むようになると、家内工業の曲尺製造業者は存立できなくなった。
 神奈川県の小田原市界隈は、竹製のモノサシの産地であった。その後、樹脂製のモノサシが普及したことや、竹製のモノサシの役所による検定がなくなったことなどによって、竹製のモノサシを作る事業者は徐々に姿を消した。小田原市には竹製のモノサシの検定を主業務とする神奈川県計量検定所小田原支所があったが、現在は閉鎖されている。
 東京都では、千代田区神田地域や中央区日本橋地域に理化学機器ならびに計量器の卸業者が集積しており、これに連動して、ガラス製の温度計ほか関連製品を製造する家内工業も隣接して立地していた。これらの製品が相対的に価格低下したこと、大量生産方式が導入されたことなどから、多くの関連事業者が転廃業を余儀なくされている。
 圧力ゲージや圧力式温度計の事業者が集中しているのが、阪神地域である。京阪地域もこれらの産地であり、岡谷・諏訪地域にもこうした事業者が集まっている。圧力計業界は、大手企業が中国での生産を拡大していることもあって、総需要と製品単価の低迷に苦しむ状況にあるが、そんな中でも、ステンレス製のサニタリー向け圧力計など、特殊な製品を製造して活路を開いている企業も少なくない。

 こうして見渡してみると、計量器産業の地場性を見出そうとしても難しい時代になったと言わざるを得ない。その地方の労働力によって発展してきた、という観点では、圧力ゲージ関連の産業をあてはめるのがやっとである。地域の資源を使って生産する、という観点で見ると、計量器産業では何も当てはまらなくなってしまう。
 しかし、その地域に密着しており、地域になければならないという観点から地場産業を見ると、自動車の整備と車検をする工場と同様、ハカリのメンテナンスを主事業とする企業が活躍している。
 自動車産業の規模とは比較にならないほど小さな産業ではあるけれども、これらメンテナンス業者が存立していなければ、地方の生産工場あるいは農業設備やスーパーや商店のハカリは正常に機能しないのである。

  ハカリというものは、整備しなければ機能しない。機能していても、計量値が正常であるか確認することが求められる。
 この確認作業は、ハカリ使用者に求められる義務であり、その義務の一環として、取引と証明にかかわるハカリは、出荷時(購入時)の検定受検の後も2年周期で定期検査という検査を受検し、これに合格することが求められる。定期検査に合格するためのハカリの精度(器差)は検定精度の2分の1である。
 こうした定期検査は役所が直接に実施することもあるが、役所が指定した地域の計量協会などの指定定期検査機関が実施することが多い。
 また、定期検査に代わる計量士による検査(代検査)も普及しており、地域によっては計量士による代検査が、計量法によるハカリの検査の5割を超えている。地域の計量器事業者には、その代表者などが計量士資格を保有していたり、社外の計量士と提携するなどして、地域で使用されている大部分のハカリの定期検査を実質的に担っている事例もある。
 ハカリの定期検査は、漏れなく実施されることが望まれ、その検査のための主体者は役所であるが、計量法の基本的な規定では、ハカリ使用者が自らの責任でハカリの定期検査を受検することになっていることを理解していなければならない。つくって売りっぱなしでは済まない計量器が多いのは当然として、とくにハカリの場合には自動車と同じように整備し、定期検査を受けてこれに合格していてこど真っ当に使用できる機械であることを知らねばならない。
 そして、その代検査業務などを担っているのが、地域のハカリ事業者などである。
 最近は、製造販売を大規模に全国展開している大きなハカリ企業でも自社製品のメンテナンスなどを積極的にするようになってはいる。しかし、そうした大手ハカリ企業の場合も、メンテナンス網の整備にコストがかかるという問題などがあって、地元のハカリ事業者と提携することも多い。
 地域に根付いて活動しているハカリ事業者は、地域にとってなくてはならない企業なのである。
 地場産業というにはその集積の規模が不足しているものの、整備のため、自動車で気軽に移動できる範囲に一定規模の事業者が存立していることは、望ましい状態である。各地域のメンテナンス企業は、今後もますます実直に事業を展開し、活躍してほしい。

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