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日本計量新報 2010年5月2日 (2820号)

計量器が核兵器とつながってしまう危険性

社会には、これまでの知識や現実感覚では処理できない事柄がある。たとえば、この宇宙の成り立ちに関する説明もその一つである。われわれが生活しているこの宇宙が、ビッグバンによって誕生し、時空がインフレーションによりごく短時間で大きくなったことは、今日ではほぼ確かなこととされている。
 宇宙の成り立ちに関しては、その後の理論の発展で、佐藤勝彦らが提唱する、ワームホールという時空構造で子ども宇宙、孫宇宙と無限に宇宙が生まれてくるという多重宇宙論や、リサ・ランドールなどによる、われわれの認識している宇宙は、さらに高次元の時空に埋め込まれた膜(ブレーン、brane)のような時空なのではないかというブレーン宇宙論などが提唱されているが、われわれがこれを具体的にイメージすることは難しい。これまでの知見で培ってきた「常識」による理解の範囲を超えてしまうからである。

 北朝鮮による横田めぐみさんらの拉致も、発生当初は、国家による人間の拉致ということが、われわれの理解の範囲を超えており、まさかという気がしたものである。しかし、新潟市の自宅付近で行方不明になった横田めぐみさんは、北朝鮮で確かに生きていて、その子どもがめぐみさんの両親の横田滋さんと横田早紀江さんと面会した。2002年10月15日には5人の拉致被害者が帰国した。被害者家族の必死の訴えも、マスメディアが取り上げなければ、多くの人に知られることなく、ささやき程度のものとして埋もれていた可能性もあったのである。

 北朝鮮は拉致被害者を国家謀略のために使ってきた。大韓航空機爆破で捕まった金賢姫(キム・ヒョンヒ)は日本人拉致被害者に日本語を習っていたことを証言している。日本人を日本語を学習するために拉致していたケースもあるようだ。
 同国により長距離弾道ミサイルが数回にわたって発射されている。1998年8月31日にはテポドンが三陸沖の公海に着弾し、以後も挑発か脅しかを目的としたミサイル発射がつづく。2006年10月9日には、失敗したか成功したか不明であるものの、地下核実験を実施した。
 最近でも北朝鮮のテロ支援国家再指定の是非がアメリカ議会で議題にあがるなど、世界的に注視されている。一方で、国民は飢餓に苦しむという情報も伝わってくる。このような状態を知ると、かつて同じ学校に通い、野球や鬼ごっこをして遊んだ幼いころの近所の友のことを思い浮かべる中高年は多いはずである。

 日本の計量計測機器産業と北朝鮮の関係はどうなっているだろうか。
 古いことになるが、かつて国の研究機関である旧計量研究所の職員が、非公式のかたちではあるものの、北朝鮮に行って質量標準の元締めになる基準器を設置してきたという事実がある。基準となる分銅は北朝鮮にもともとあったものかもしれないし、このときにそれにかわる分銅を運んだのかもしれない。出向いた者は用意されたホテルから外に出ることを許されない状態で滞在したという。この時代は、旧社会党が北朝鮮と友好関係を求めて訪問も盛んに行うなど活発な活動していたこともあって、日本国として北朝鮮に対する危険性の認識がうすかったという背景もある。
 その後も、幾つかの企業が核兵器開発にかかわる機器に該当する計量器を輸出したとして摘発されている。中国など、別の国に輸出したはずのものが、その後北朝鮮の核施設に転用されていたという例もある。イランが核兵器を保有していることは国際常識となっていることだが、北朝鮮も、核兵器を国家権力保持の材料にしている。
 計量器産業にかかわる企業はともすると、意に反して計量器を輸出禁止国に販売する危険性がある。十分な注意を払い、危ない橋は渡らないようにしなければならない。

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