計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2010年4月  4日(2816号)  11日(2817号)  18日(2818号)  25日(2819号)
社説TOP

日本計量新報 2010年4月4日 (2816号)

計量器というモノを売り、サービスという商品を売る

テレビで谷津干潟(千葉県習志野市)の中継を観ていたら、以下のような一幕があった。

中継していたNHKの若い女性アナウンサーが「あっ、野鳥がいらっしゃいました」と叫び、キー局のキャスターが驚いて「いらっしゃいましたはないでしょ」と正した。女性アナウンサーは「そうですね」と応えたその舌の根が乾かないうちに「あっ、また野鳥がいらっしゃいました」と言葉を発した。何とも驚くべき事態だ。
 別の番組では、若い女性アナウンサーが、秋葉原の電気街にでかけてラジオだかアンプだかを組み立てる様子を中継する中で、これはなんだか知ってますかと聞かれていたが、はんだとはんだごてによって電線を溶接することを知らなかった。
 また、NHKのラジオ番組で、男性アナウンサーがわずかばかりの知識をひらめかして「僕は教養があるでしょう」と言っていた。

 現代の日本人は、学校で習う範囲の知識は持つようになるが、学校で習わない事柄を習得することはできないようだ。
 学校教育は、一般の社会人が共通にもつ、またもつべき普通の知識・意見や判断力を養成することが目的の一つであると考えられるが、有名学校に進むため、知識の詰め込みや暗記を学習の手法として学生時代を過ごした日本人の頭のなかには、求められる常識が織り込まれていない。
 知識、常識と似たような言葉に教養がある。教養とは辞書によると「学問、幅広い知識、精神の修養などを通して得られる創造的活力や心の豊かさ、物事に対する理解力。また、その手段としての学問・芸術・宗教などの精神活動」であり、または単純に「社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識」のことである。
 知識は教養につながるけれども、知識があるからといって教養があることにはならない。 「野鳥がいらっしゃいました」と連呼したり、はんだとはんだごてのことを知らない若いNHKの女性アナウンサーは、アナウンサー試験に合格する知識を持ちながら、教養に欠けるとの印象を人に与えてしまう。男性アナウンサーがわずかな知識を披瀝して教養とうそぶいたのは、知識と教養は異なると分かった上でのユーモアだろう。

 常識や教養があやしくなってきた現代の日本人が、それを補うためにすることは何か。行動のマニュアル化が進み、人々は、それに従えば間違いがないと考えるようになる。
 大衆的なレストランやカフェの店員からは決まり文句以外の言葉は発せられない。2円の釣り銭を渡すのにも麗々しくその確認を求める言葉を添える。

 サービスのプロであり客への「おもてなし」を売りにするホテルでさえも、客になった人に対してああしろ、こうしろと決まり事を押しつける駐車場の係員がいたり、客の要望に対応するマニュアルの項目がみつからないと迷惑顔で渋々と行動する接客係がいるのには閉口する。 
 現代の社会には、常識や教養が消え去る時に出現する現象が蔓延しだしている。

 個々の内容や質は別として、モノが売れないモノ余り現象と平行して、サービスの提供を対価とした売上げが伸びている。サービスとは形のない財で、効用や満足などを提供することである。ホテルや旅館におけるサービスは「おもてなし」であり、別の業種では娯楽とか快適さであることが多い。
 計量計測機器産業においてもモノの販売の不振のいっぽうで、生産を伴わないサービスの販売が増大している。
 計量法における検定検査などはサービス業務である。昔から、検定や検査に取り締まりの感覚や概念を重ねている雰囲気がないではないが、それらを純粋に技術的にみていくと、JCSSなどの校正サービスと同類のサービスになる。
 造ったあとに精密さや精度が変化しない計量器はごくまれであり、ほとんどの計量計測機器は時間の経過とともに器差などが変化する。器差の変化を調べ、適正に調整する行為の総体が校正を含めたメンテナンスのサービスである。
 メンテナンス以外にも、計量器の設置場所や環境のアドバイス、機器の適格性評価の案内など、計量計測器産業においては、計量器という商品と計量器のサービス業務という形のない商品がついてまわる。
 モノを売り、サービスを売ることで計量器が適正に機能する。サービスを売ることで計量器事業は社会に新しい価値を提供することになり、事業者にとっては事業の発展や安定性を確保する要素になる。 
 計量計測器産業、ひいては社会全体の発展のため、マニュアルに頼らない「サービスのプロ」としての姿勢が求められる。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次本文一覧
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.