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日本計量新報 2009年6月7日 (2776号)

計量法に惑わされて計量器を見ない計量の世界の人々

計量法はその「守備範囲」を縮める。ユンケルス式流水型熱量計、ボンベ型熱量計、ベックマン温度計、アネロイド型血圧計のうち圧力の検出部が電気式のもの、抵抗体温計の5器種を検定検査の対象計量器となる特定計量器から削除するのである。ユンケルス式流水型熱量計、ボンベ型熱量計、ベックマン温度計の3器種は検定実績がほとんどないからであり、「アネロイド型血圧計のうち圧力の検出部が電気式のもの」と堅苦しく表現される電子式血圧計、同じように一般には電子式体温計といわれる「抵抗体温計」は、薬事法で計量法とで二重規制されていることから、薬事法の規制に一本化する方がよいという判断に基づく処置である。電子式血圧計、電子式体温計は役所による検定を通す方法ではなくメーカー自己検定方式の指定製造事業者制度を利用していて、この制度を利用して役所が行う検定と同等の効力を持つ「基準適合証印」を付して供給されている。
 指定製造事業者制度を規定した計量法の規定の内容は、品質管理の方法、製造技術基準など一定の遵守すべき事項が決められており、その品質管理の方法は、組織、品質管理体制、文書管理、材料・部品の発注基準 、外注管理、工程管理、完成品管理、製品の識別及び工程遡及可能性、検査状態の識別、不適合品の管理、製造・検査設備、品質記録、内部品質監査、教育訓練、統計的手法、その他である。電子式血圧計、電子式体温計が計量法の特定計量器から除外されると、これを製造する当該事業所への計量の役所による定期的な監査事務がなくなるので、その分計量の役所の事務作業と人員は削減されることになる。計量の役所では、質量計(はかり)ほかの特定計量器の指定製造事業者の監査事務も兼ねていることもあるので、一律に事務作業と人員を削減できることにはならないものの、当該役所の指定製造事業者が電子式血圧計、電子式体温計だけである場合には大きく影響する。特定計量器とは「取引若しくは証明における計量に使用され、又は主として一般消費者の生活の用に供される計量器のうち、適正な計量の実施を確保するためにその構造又は器差に係る基準を定める必要があるものとして政令(計量法施行令第2条)で定めるものをいう。」(計量法第2条第4項)
 削除の措置がとられる上記5器種を含む計量法の特定計量器は次のとおりである。
▽タクシーメーター▽質量計▽温度計▽皮革面積計▽体積計▽流速計▽密度浮ひょう▽アネロイド型圧力計▽流量計▽熱量計▽最大需要電力計▽電力量計▽無効電力量計▽照度計▽騒音計▽振動レベル計▽濃度計▽浮ひょう型比重計
 日本の計量法の目的は、「計量の基準を定め」ること、そして「適正な計量の実施の確保」の2つである。「計量の基準を定め」なければ「適正な計量の実施の確保」ができないことは理の当然である。その「適正な計量の実施の確保」とは、計量法の守備範囲の実際としては「取引」と「証明」に限定されている。計量法における「『取引』とは、有償であると無償であるとを問わず、物又は役務の給付を目的とする業務上の行為をいい、『証明』とは、公に又は業務上他人に一定の事実が真実である旨を表明することをいう。また車両若しくは船舶の運行又は火薬、ガスその他の危険物の取扱いに関して人命又は財産に対する危険を防止するためにする計量であって政令で定めるものは、この法律の適用に関しては、証明とみなす。」(計量法第2条2項および3項)。取引とは簡単にいえば商取引であり、証明とは環境計測の数値を表記するなどの行為であり、温泉の成分の分析の結果の表記などをこれの属する。産業廃棄物の産廃施設などへの持ち込み前の計量結果の表記も証明となる。
 取引と証明のために計量法は機能しているので、計量法が定める計量単位はそうした範囲に限定されている。つまり、世の中のさまざまな分野で慣用的に使われている単位が、計量法の単位には含まれないことになる。
 計量法第2条は計量単位を次のように規定する。
 この法律において「計量」とは、次に掲げるもの(以下「物象の状態の量」という。)を計ることをいい、「計量単位」とは、計量の基準となるものをいう。
一 長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度、角度、立体角、面積、体積、角速度、角加速度、速さ、加速度、周波数、回転速度、波数、密度、力、力のモーメント、圧力、応力、粘度、動粘度、仕事、工率、質量流量、流量、熱量、熱伝導率、比熱容量、エントロピー、電気量、電界の強さ、電圧、起電力、静電容量、磁界の強さ、起磁力、磁束密度、磁束、インダクタンス、電気抵抗、電気のコンダクタンス、インピーダンス、電力、無効電力、皮相電力、電力量、無効電力量、皮相電力量、電磁波の減衰量、電磁波の電力密度、放射強度、光束、輝度、照度、音響パワー、音圧レベル、振動加速度レベル、濃度、中性子放出率、放射能、吸収線量、吸収線量率、カーマ、カーマ率、照射線量、照射線量率、線量当量又は線量当量率
二 繊度、比重その他の政令で定めるもの

 計量法は計量器を二つに区分している。一つは計量をするための器具、機械又は装置であり、これを「計量器」と規定し、もう一つは取引若しくは証明における計量に使用され、又は主として一般消費者の生活の用に供される計量器のうち、適正な計量の実施を確保するためにその構造又は器差に係る基準を定める必要があるものとして政令で定めるものを「特定計量器」としている。「計量器」とは世の中にあるあらゆる計るためのモノであり、「特定計量器」とは計量法が規制して取り扱う計量器である。「特定計量器」に指定されて検定証印(役所による検定)もしくは基準適合証印(計量法の規定に準拠したメーカー自己検定)が付されて世の中に供給されるモノの割合はそうでないモノの1%に満たないほど少ない。特定計量器に指定されているモノでも、取引と証明の用途でないモノは検定証印もしくは基準適合証印を付すことなく、つまり検定を受検することなく供給される。質量計(はかり)の場合でも、市場に供給されるもののうち検定証印もしくは基準適合証印が付されたモノの割合は、10%程度と推定される。
 国民の生活と文化・福祉の増進、そして企業活動や経済の発展のための基礎的条件を確保するために計量法は役割を果たしている。特定計量器が計量のための機能を十全に果たすために規定され、それを実行する計量法の役割の一方で、特定計量器として検定証印が付されない計量器などの機能を十全に果たすための仕組みにも目を注いでいくことが肝要である。取引と証明のための計量だけが大事なのではない。
 計ることには目的があり、目的を達成するためにはその計量器の機能を果たさせなければならない。工場に設置されている特定計量器以外の計量器の管理をも怠らないことこそが、品質管理を増進することにつながる。計量とか計測の失敗によって食品工場が不適当な食品を世の中に出してしまう事例が数多くある。検定証印もしくは基準適合証印付きの質量計(はかり)以外のモノを保守や点検や整備の対象として真っ当に管理することで、それを設置している工場・事業所の品質管理の機能は格段に高まるはずである。怠たりに気づいて正すことをすれば、企業の品質管理も信用も利益も増大する。あらゆる計量・計測機器は保守・点検・整備などの管理なしには機能を全うすることはできない。こうしたことに改めて気づいて、その方面の事業を掘り起こすことができれば、計量計測産業は今の何倍にも大きくなることができる。本来の仕事をした結果としてそのようになるということである。

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