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日本計量新報 2008年9月14日 (2740号)

物理法則を再見直しすると新しい計測をつくりだせる

テレビの気象予報は茶の間の人気番組であり、気象予報士は格好いい仕事の一つになっている。総合的な気象観測は、観測方式の改良の一つとして人工衛星を使い、気象予報の確度を向上させている。
 富士山頂の観測レーダーはこのような観測体制の進歩によって任務を終え、いまでは山中湖村の道の駅に移されて一般に公開されるようになった。宇宙からの観測や計測はリモートセンシングという技術名称で1970年代に計測自動制御学会などで発表されていたもので、さらに人工衛星を使った地形図などの地図作成、そしてGPSによるナビゲーションシステムの開発と普及があった。
 このような仕組みが計測の仕組みであり、計測の成果だというと我田引水のそしりを免れないかもしれないが、そのように述べても的外れではない。地域の狭い分野での気象観測は人工衛星の観測体制が整備されるに従ってその観測の確度も向上し、努力すれば災害をもたらす集中豪雨や土砂崩れの事前予測などはいまよりも格段に向上する。
 気象予測の確度の向上に対応するように、農業分野でも畑地その他気象観測を細かに実施して生産活動に生かすことが行われている。畑地に百葉箱程度の観測装置を据えるほか、幾つにも分かれた畑地の気温、湿度、風速、風向、降雨量を観測して、必要に応じてスプリンクラーで水分を供給し、送風機を回して温度を下げるといった対応がごく普通に行われている。農業分野のさまざまな業務の自動化は、日本の農業人口の減少や海外農産物への価格対抗の面からも求められることである。トラクターなどが田植えやその他の苗を植えるのに総合的に用いられていて、農業機械の改良発展はめざましい。それでも、長野県の川上村などの高原野菜産地には中国などからの研修生が組織的に大量に導入される仕組みができており、日本国内で生産される農産物でも、海外の労働者の手によっているという事実がある。高原野菜の収穫期には、機械の稼働では間に合わず大量の人手を動員することになり、都市からのアルバイト学生のほかに海外の労働力に頼らざるを得ないのが、今の日本の農業機械と農業技術の現状である。計量包装機械では農業分野の要求実現ということで、不揃いのピーマンを一定量はかり取って袋詰めする組み合わせハカリが開発され、このハカリ装置は食品分野ほかさまざまな分野に普及した。
 温度や湿度の計測が人の生活と深くかかわっていることは言わずもがなであるとはいえ、この方面の観測方式に電気式が普及したこと、コンピューターチップやコンピュータシステムと組み合わせることによって様々なことができるようになった。
 果物の甘さの基準となる糖度を測る簡便な計測器が普及していて、スーパーマーケットなどではスイカなどの糖度が表示されることもある。この測器自体の精密度は間違いないとしても、スイカは中心部と周辺部で糖度の違いが大きいので、どの部分の糖度を表記するかということが問題になっていて、「偽り」の糖度表記といって差し支えない状況もなくはない。
 宇宙から観測できない温度や湿度を測定し、ドラムに巻いた記録紙にペンで書き込んでいく「自記式温湿度計」は、美術館や博物館そして工場などに設置して利用されている。温度と湿度の電気式センサーが普及したことと関連して、この「自記式温湿度計」に代わる電気式の自記式温湿度計が台頭している。コンピューターチップとの組み合わせなどで、メンテナンスの手数が少なく長期間の観測と記録ができ、その記録をデジタルデータとして取り込むことができるという利便性が特筆される。ドラム式が記録紙の交換などで手間を要するもののその作動原理が誰にでも分かるのに比べると、電子式の自記記録計はその原理が直接には目に見えず、データの取り込みや処理にコンピュータ(パソコン)の一定の知識を要することが難点ではある。この電子式の自記式温湿度記録計はさまざまな応用を加えた製品が逐次登場しているので、この先関連する需要分野すなわち市場を開拓していくことになる。
 電気式の温度計の仕組みは、サーミスタなど物質の電気抵抗が温度によって変化するという物理現象を応用したものである。計測機器は物理現象の法則を利用してつくられているものがほとんどであり、ガラス管に封入した物体の膨張を利用するとガラス管温度計ができあがる。フックの法則を利用したからバネ式ハカリができたというわけではないが、その原理はフックの法則に合致する。電気を流した物体が歪むと抵抗値が変化するという現象を利用したのが、ロードセルと呼ばれる電気抵抗線式ハカリなどである。音叉構造の振動体の張力が変わると振動数が変化するという現象を利用したのが音叉式のハカリである。この発明と応用を成し遂げたのは日本の企業であり、これまでのハカリのさまざまな不都合を解決するという偉業を成し遂げている。
 人類が発見した物理法則や物理現象は計測システム開発の玉手箱であり、新しい物理現象の発見はまた計測機器の可能性と結びつく。小柴昌俊氏のノーベル物理学賞を受賞を決定付けた宇宙ニュートリノの検出にかかわる観測装置は計測装置でもあり、ニュートリノに質量があることがわかったために宇宙の謎を解く鍵が確認された。同じ年(2002年)にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」は、この手法によって未来の科学を切り開くきっかけをつくっている。この自然科学分野のノーベル賞2つの背景には、諸現象を観測する計測の技がさまざまな形で隠されている。今一度、物理法則や物理現象を見直し、見つめることによって新しい計測の仕組みをつくりだすことができる。計測技術者は大なり小なりそのようなことへの取り組みを日々実施しているのである。


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