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日本計量新報 2008年3月9日 (2714号)

「品質工学」は社会文化の諸事象を扱うソフトウエアの性質を備える

計量計測の世界で計量管理という分野を担っているのが、計量士と計測管理技術の専門家たちである。
 計量士の資格をもっているといないとにかかわりなく計測管理の技術者たちは、製品・商品や製造過程の計測とその管理の知識と技術を習得し、これに現場から学んださまざまな事例を織り込むことによって世界に冠たる日本の製造技術と製品の品質を磨き上げてきた。計量士の国家資格によって行える業務は、計量法が定める計量器の検査などである。指定定期検査機関においての計量士の必置義務、適正量管理事業所指定の要件における計量士の「必置義務」なども、計量器の検査にかかわって計量法の計量士の代検査に連結するものである。計測技術は計量士に代表されて付随するのではなく、計量法における計量器の検査の分野で資格としてだけ計量士が関わっている。そのような立場の計量士に計量計測に関係する知識や技術がないというのではなく、計量士という国家資格とはそのようなものだということである。
 計測技術のひとつとしての計量管理は、品質管理と一体不可分の技術要素として戦後の品質管理の運動と連動して発展してきた。
 この分野での計量管理理論は、品質の設計とその実現における総合計測の在り方として煮詰められ、一定の成果を収めることができた。計測とその管理、あるいは計量管理は、計量管理として独立した立場を維持するよりも品質管理のなかに組み込まれてその存在を保ってきているといってよい。
 計量管理とは品質管理だ、ということで計量管理の意義が品質管理として包括して理解されるようになって、計量管理の理論体系が旧態依然のままであったところに新風を吹き込んだのが「田口メソッド」であった。田口メソッドは物づくりのための最適設計と製造に、統計数学をもちこんだものであった。数学理論は直ぐには文化や産業に影響を及ぼさないが、理論を実際の分野に利用するには理論開発の天才がいるのと同様にそれと同じような才能をもった人物の登場を待たなくてはならない。熱学が熱力学に発展して蒸気機関がうまれてこれが産業革命をもたらした。ニュートンなくしてエジソンは誕生しなかったように、数学や物理の理論なくして産業や文化の発達はない。
 田口メソッドの名称はその後、田口玄一氏自らによる吟味をつうじて、その目的と内容はクオリティー・テクノロジーであるということから、この日本語名を「品質工学」に改めている。クオリティー・コントロールではない、クオリティーのテクノロジーであるのだという強い意志がここに示されている。
 戦前の日本社会には統計数学を利用する風土がないなか、この分野に対しての経験と強い関心をもっていてその能力が高かった弱冠26歳の田口玄一氏は、電気通信研究所での実験計画法の研究を始めたのである。そうした活動は、対策の効果を効率的に評価する方法としての「直交法」理論、機能性の評価を行うための「SN比理論」、品質とコストのバランスを考え経済的な評価を行う「損失関数理論」の3つの成果を収めるとともにこれらは機械、電気、化学などハードウエアの分野で利用されてきた。
 田口メソッドはその後「MTS法」理論を加えてパターン認識や社会現象の分析にも応用されるようになっている。インドの統計数学者マハラノビス氏の理論「マハラノビス一般分散化」は「マハラノビスの距離」理論として発展し、この理論から田口玄一氏は正常と不正常の評価付けを組み込んだ「マハラノビス・タグチ・システム」としての「MTS法」理論をつくりだしている。ここには変数を直交化するシュミット氏の理論も組み込まれている。「MTS法」は「TS法」と呼ばれてもいる。田口玄一氏自身はシュミット氏の理論もはいっているのだから「マハラノビス・タグチ・シュミット法」として「MTS法」と理解するのが正確だと述べている。
 品質工学はその理論を社会現象や経済現象の理解にも応用できるようになった。コンピュータ利用の一般化とデジタル化社会において、田口メソッドこと「品質工学」は物質というモノそのものを扱うだけではなく、社会現象を含めて諸事象を扱う理論としてのソフトウエアとしての性質を備えるようになった。
 計測技術の一つの応用系として「品質工学」理論は、計量管理と品質管理を通じて企業業績向上をもたらすべき立場の計量技術者と計量士が自らの仕事を革新するのに大いに役立つ。理解に手間取ることがあっても、その理論がもつ思想に触れるだけでも既成概念を一度取り払うのに役立つ。


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