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日本計量新報 2007年10月21日 (2696号)

技術の発展は無限であり対応する社会の仕組みはいつでも遅れる

計量制度は計量法を骨格として形成されており、その主な内容は計量単位の制定と計量器の検定や検査、そして計量や測定の国家標準とのつながりを確かめる校正などである。世の中の進歩の基本的な原動力は、生産力や生産性の向上である。絶えず進歩し、ときには急激に発展する生産力の向上に対応して、日本の計量制度も変化をとげてきた。農業中心の産業社会では、計量する行為と計量器は大事ではあってもそれが実施される分野は限定的であったから、計量器そのものもサシ・マス・ハカリと表現される分野と考えて差し支えない内容であり、明治期から昭和26年までの度量衡法時代には計量器の全品検定主義で対応することができた。新潟県三条市の曲尺も神奈川県小田原市の竹尺もすべて検定が実施されていたのは遠い昔のことではない。工業を中心にする産業が発展し、計量・計測機器がその種類と数量を増大させると、これまでの検査体制では追いつかないことは明白であったから、計量法令は検定や検査をする計量器の数を減らすという制限措置をとって対応してきた。
 計量法の基本目的は、国民生活と商取引にかかわる計量の安全と適正の確保である。国民の知っている計量器としては、はかり(質量計)、電力量計、タクシーメーター、水道メーター、ガスメーターなどが検定の対象とされてきており、はかり(質量計)に関しては、現在では2年ごとの定期検査を実施している。
 以前はこれらすべての計量器が役所もしくは特定の機関によって直接検定されていたのだが、製造企業が検定に相当する検査と品質管理を自ら実施することで検定と同等の扱いを受けることができる計量法の指定製造事業者制度が制定され、電力量計、水道メーター、ガスメーター、ガソリン計量器、そして多くのはかり(質量計)に、この制度が適用されている。この制度によって、計量器はメーカー自己検定制度の体制が敷かれている。計量器の性能としての精密さとその安定性の実現が不安定な状態の製造技術であった時代から、計量法が求める計量器の精密さや安定性の実現が容易になった時代に移行した現在、製造された計量器の検査を役所とその関連機関が直接的に検査することは合理性がなくなっている。計量器の製造企業が定められた品質管理手法と計量器の最終検査を実施することで、それを検定と同じ扱いにすることは、詐欺などを意図する行為が含まれていなければ製造技術の上では何ら問題はなく、いわば当然のことである。実際にも指定製造事業者の品質管理能力の確認の作業が役所によって実施されることで、計量法のこの制度は運営されている。同じ計量器であっても、糖度計、トルクレンチ、その他のものは計量法上の規制の対象にはなっておらず、製造企業の性能宣言が使用者に受け入れられている。一方では、計量器による計量や測定が、その関連の計量の国家標準との必要なつながりを技術的にも体制的にも確保しているかを確認する社会要求が増大しており、計量のトレーサビリティーの仕組みが整備されてきている。国が登録する校正機関も徐々に整備されており、JCSS制度として運営されている。
 使用中の計量器の精密度を検査するはかり(質量計)の検査は、定期検査と呼ばれていて、2年に1度の周期で実施されている。定期検査におけるはかりの精密さ(精度)は、メーカー出荷時の検定の精度の2分の1と定められている。製造技術が進歩し、計量器の性能が向上しても、設置環境や取り扱い状況に応じて劣化する使用中の計量器の性能確認の方法に関しては、計量管理手法の効果を及ぼすことができないでいる。はかり(質量計)のうち、ロードセルを質量センサーとして用いている多くの商取引や証明用のものは、実質上は2年経過する間に性能(精密度、器差性能)の劣化があって、定期検査の合格条件から外れるので、こうしたはかりを排除したり、その他の方法で性能を保全する策が取られている。
 性能(精密度、器差性能)の劣化が少ない優秀なはかりが出現する一方で、現行計量法の規定の枠のなかで製品を造るという状況にあり、こうした性能のはかりを前提に法制度が敷かれている。使用中の計量器の性能を確認すると同時に、実際上の計量の安全を確保する仕組みを模索し、品質管理方式を考案することも必要であろう。
 技術の発展は無限であり、これに対応する社会の仕組みはいつでも遅れがちである。


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