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日本計量新報 2011年4月3日 (2864号)2面掲載

食と放射能 現時点での危険性を考える

福島第一原発の事故の影響で、東北や関東地方で農作物や水道水から規制値を超える放射性物質が検出され、放射能が食品に与える影響について注目が集まっている。

厚生労働省は3月17日、原子力安全委員会の防災指針「原子力施設等の防災対策について」を引用し、暫定規制値を定めた。

3月16日〜18日に採取された福島県の原乳から1kgあたり932〜1510ベクレルの放射性物質が検出された。茨城県のホウレンソウ6検体からは、暫定規制値の3〜7倍にあたる1kgあたり6100〜1万5020ベクレルを検出した。

これを受け、21日と23日に一部地域の葉物野菜や原乳に関し出荷制限や摂取制限が指示された。

3月22日に採取された東京都の金町浄水場の浄水から、1Lあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。都水道局は乳児の飲料水としての規制値100ベクレルを超えるとして、都内の一部地域に乳幼児の飲用を控えるよう要請した。

3月25日、東京電力が原発の放水口付近を調査したところ、放射性ヨウ素1立方センチメートルあたり50ベクレル、放射性セシウムが同7・2ベクレル検出された。原発の排水を規制する基準に照らすと、ヨウ素は1250倍、セシウムは79倍にあたるため、魚介類への影響が懸念された。

暫定規制値とは

これまでの研究の結果、がんなどの明確な健康影響がみられないとされるのは、被曝線量約100ミリシーベルト以下(年間)の場合である。

国際放射線防護委員会はこれを目安に、食料に関してはさらに低い年間10ミリシーベルトを超えないよう勧告している。この勧告に基づき、原子力安全委員会は飲料や食品などに含まれる放射性物質の量の上限を設定。厚労省はこの指標を暫定規制値として用いた。

この基準値は、国際的にみると厳しい数字となっている。野菜などの出荷制限を受けた自治体からは規制値の緩和を望む声も出ているが、内閣府の食品安全委員会は議論の結果、「根拠となった数値は安全を考慮したものだ」とし、妥当だとの見解を示した。

ベクレルとシーベルト

暫定規制値は、各食品ごとに、放射性ヨウ素、放射性セシウムなどについて1kgあたりの指標値をベクレルで定めている(表)。

ベクレルとは、放射能の強さを表す単位。一方、シーベルトは、放射線の人体への影響を表す単位である。

ベクレルの値に実効線量係数という値をかけると、ベクレルをシーベルトに換算できる。実効線量係数は、放射性物質の種類ごとに異なる。

放射性ヨウ素と放射性セシウム

飛散した放射性物質のうち、もっとも多いのが放射性ヨウ素(例:ヨウ素131)、次が放射性セシウム(例:セシウム137)である。

放射性ヨウ素は、体内に入ると甲状腺にたまりやすく、甲状腺ガンの原因になることがある。特に成長期の子供は取り込みやすい。ただし半減期(放射性物質の量が半分になるまでの期間)は約8日間と短いうえ、排尿や代謝によって体外に放出される。

放射線セシウムは、体内に入ると筋肉へ集まりやすいが、筋肉にガンが起こることはまずない。また、放射性ヨウ素と同じく尿によって排出される。セシウム137は半減期が30年と長いため、長期的にみると土壌汚染などが問題になる。

人体への影響

現時点で、政府は、報告される放射能の数値に関し「健康への影響はほぼない」としている。

3月19日の枝野官房長官による記者会見では、放射性物質が検出されたホウレンソウと牛乳を1年間とりつづけた場合の被曝線量に関し、牛乳がCTスキャン1回分、ホウレンソウが5分の1と説明。

飲料水について、東大病院放射線治療チームの見解によれば、210ベクレルの放射性ヨウ素が検出された水は、成人が1年間飲み続けても人体に被曝の影響が出てくる線量の100分の1程度であり、問題ないと説明する。

海洋生物への影響について、原子力安全委員会は、「排水口付近では濃度が高いが、魚介類に取り込まれるまでに潮流に流されて拡散、希釈される。さらにヨウ素131は半減期が8日と短いため、人が食べるまでには相当低減していると考えられる」としている。

半減期の長いセシウムについては、水産庁が「セシウムよりも海水の方が浸透圧が高いため、魚が摂取したセシウムはエラなどから体外に排出される」と説明。また、放射性物質は海中で薄まるとともに海底に沈殿するため、水産物に影響を与え続けることはないという。

正しい情報の収集と冷静な対応を

今のところ、放射能の食品への影響は極めて低いといえるが、それでも気になる場合は、野菜なら洗う、煮る(煮汁は捨てる)、皮や外葉をむくことによって汚染の低減が期待できる。

煮沸や浄水器の使用は、水の放射性物質の低減には特に効果がない。しかし、今回検出されたレベルであれば、乳児でも短期間なら健康への影響は極めて低いとみられる。

今回の食と放射能の問題は、人体に対する影響そのものよりも、風評被害や買いだめが深刻化していることにある。正しい情報を収集し、その都度冷静に対応していくことが求められている。


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