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日本計量新報 2011年3月20日 (2862号)2面掲載

放射線と放射能 人体に対する影響

東北地方太平洋沖地震に伴い発生した、福島第1原子力発電所の事故により、放射線や放射性物質の危険性が注目されている。

放射線は目に見えないだけに不安感を煽るが、漠然とした知識ではなく正しい知識に基づいて、的確かつ冷静に状況を判断したい。

ここでは、放射能分野の基本的な用語と単位の違い、放射線の人体の影響などを解説する。

放射線と放射線物質、放射能の違い

原子力発電に利用するウランなどは、核分裂する際に「放射線」を出す。

放射線とは、電子や中性子などの粒子、またはX線などの電磁波のこと。アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線などさまざまな種類があるが、共通した特徴として、物を通り抜ける能力(透過力)を持っている。どれほど通り抜けるかは、放射線の種類により異なる。アルファ線とベータ線は透過力が弱く、薄い紙やアルミ板で遮ることができ、ガンマ線やX線は厚い鋼鉄、中性子線はコンクリート、水などで遮ることができる。

放射線を出す物質を「放射性物質」、放射性物質が放射線を出す能力のことを「放射能」という。

これを電球に例えると、「放射性物質」が電球、「放射能」が電球が光を出す能力、「放射線」が光となる。

ちなみに、「放射能」は、放射線や放射性物質を指す場合もある。「放射能漏れ」「放射能を浴びる」という使い方は、本来であれば誤用だが、今では大分一般的になっている。

放射線関連の単位

(1)ベクレル(Bq)

放射性物質が放射線を出す能力を表す単位。ある物体に含まれる放射性同位元素が1秒間に壊れる数を指す。1ベクレルは、1秒間に1つの原子核が壊変することを表す。

(2)グレイ(Gy)

放射線のエネルギーがどれだけ物質に吸収されたかを表す単位。放射線が物質(人体)に当たると、持っているエネルギーを物質に与える。1グレイは、1kgの物質が放射線により1ジュールのエネルギーを受けることを表す。

(3)シーベルト(Sv)

受けた放射線の量を表す単位。体への影響の度合いをはかる物差し、放射線を安全に管理するための指標として用いられる。

これら3つの単位の関係は、「雨」に例えるとわかりやすい。空から単位時間に振る雨粒の数がベクレル。人に当たって濡らした水の量がグレイ。雨が当たったことによって受ける影響がシーベルトになる。

(4)cpm

1分あたりの放射線の計測数(count per minute)。放射線測定機に1分間に入ってきた放射線の数を、人体への影響の大小は考慮せずに測る。シーベルトやグレイに比べ、大ざっぱなものだといえる。

放射線が人体に与える影響

(放射線医学総合研究所調べ等による)

放射線が有害だとされるのは、放射線による「被ばく」によって細胞のDNAに傷(主としてDNA切断)ができるからである。DNAの傷がもとになって、癌や白血病など様々な病気を引き起こす。

ただし、日常生活で自然から受ける放射線レベルであれば人体に影響はない。一般公衆の線量限度(被ばくの上限値)は1年間に1ミリシーベルトである。放射線を受ける量は場所によって異なるが、世界の1人当たりの自然からの放射線は2・4ミリシーベルト/年である。

200ミリシーベルト以下の急性被ばくでは、これまで臨床症状が確認されていないが、1シーベルト(1000ミリシーベルト)以上になると、被ばく後数週間以内に症状が現れる。

1〜2シーベルトでは軽微な吐き気、倦怠、疲労感があるものの、ほとんどが治癒される。

2〜4シーベルトでは、発熱・感染・出血・衰弱・脱毛などの症状が現れ、4シーベルトでは、およそ半数が死亡するという。

癌、白血病、白内障、不妊などの症状は、潜伏期間後にあらわれるので晩発効果と言われる。晩発効果も200ミリシーベルト以下では起こらないが、約500ミリシーベルト浴びると、1000人のうち2人が2〜20年後に白血病を発症するという統計がある。また、一度に2シーベルト以上を目に浴びると、数年から数十年後に白内障になるというデータもある。

ちなみに1シーベルト=1000ミリシーベルト(mSv)=100万マイクロシーベルト(μSv)。マイクロシーベルトをミリシーベルトと取り違えて慌てないよう注意したい。

【参考文献】

▽「放射線とくらし」資源エネルギー庁パンフレット

▽「なるほど原子力AtoZ」資源エネルギー庁ホームページ

▽「あとみん」原子力・エネルギー教育支援情報提供サイト

▽「放射線医学総合研究所」ホームページ

▽日本経済新聞( 2011年3月13日)


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