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天びんの基礎知識(2)

(2914号/2012年4月29日掲載)
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特集記事  

精度と使いやすさ向上で、新たな市場拡大
環境構築とセットでの営業も

 第1集(2914号)で紹介したように、電子天びんの基本性能は近年どの方式も向上している。電磁力平衡方式、ロードセル式、音叉振動式の機能的な境界も、徐々に曖昧になってきた。
 現在、電子天びんのメーカー各社が力を注いでいるのは、大まかにいえば、次の6点である。
(1)正しい測定を妨害する要素を解消し、より高精度な測定を実現
(2)より使いやすく、汎用性の高い天びん
(3)トレーサブルで信頼性の高い天びん
(4)新たな営業方法
(5)新たな市場開拓
(6)低価格化

(1)妨害要素を解消して高精度な測定を

電子天びんでは汎用天びんから分析天びんまで、計量値はデジタル表示される。そこで、試料を皿に載せさえすれば、即時に正確な質量が表示されると思いがちである。
 しかし、天びんは高精度になるほど設置環境の影響を大きく受ける。また計量作業者の天びんの取り扱い方法による影響も、正確な測定をするためには無視できない。試料の蒸発、吸湿、磁力、帯電、対流、重力、傾斜、風、浮力、磁力などの外力が、天びんを使っての正確計量には障害物として作用する。
 このほか、地震(実際に2011年の東日本大震災では大きな影響が出た)、交通などによる床の振動、部屋の圧力変化、台風などの風圧による建屋の揺れ、地震対策をした免振構造を持つ建物での揺れ、電波障害など、正確計量を阻害する要因には事欠かない。精密機械である天びん・はかりは、整備された環境下で初めて100%のパフォーマンスを発揮する。各メーカーは、正しい測定を妨害する要素を一つ一つ解消し、より高精度な測定の実現を目指している。
□防水・防塵・防風
 測定の現場では、水・ホコリなどが機器にかかることが当たり前。また、薬品を扱う現場などでは、安全面から水で丸洗いできる機器など多用な要求への対応が求められる。そこで、過酷な環境下にも対応できる防水・防塵・防風構造の天びんへの需要度が高まってきている。音叉式センサーを使った天びんは、構造上、電気をほとんど使わないので、安全性が高い構造にしやすい。最近は、IP65以上の防塵防水等級を持つものも登場している。
□静電気の影響
 湿度が50%以下になると帯電しやすくなり、静電気の吸引力や反発力により正しく測定できないことがある。
 静電気が起きやすい環境が増えている。クリーンルーム相当の環境下では20%以下の低湿度環境になっているし、人間自身も1万ボルト程度に帯電していることがある。プラスチックやガラスなど帯電しやすいものを測定する際は注意が必要だ。
 対策は、除電と遮蔽(シールド)である。ガラス風防の表面に金属薄膜が設定された天びん(A&DのBMシリーズなど)や樹脂製の風防に帯電防止剤を塗布して対策をしている天びんがある。積極的に除電器を導入して静電気を除去したり、初めから除電機能を内蔵した天びんを使用するのが効果的である。
□対流の影響
 対策は▽試料や風袋は事前に周囲温度になじませる。▽試料や風袋は直接手で持たず、ピンセットなどで操作する。▽温度変化のある場所(特に、窓や直射日光の当る場所)に天びんを設置しない。
□重力加速度の影響
 物体の重量は重力の加速度に比例して定まる。
 重力の加速度の大きさは、電子天びんの使用場所(緯度、標高)により異なる。たとえば、100.00gの分銅では、札幌と那覇では0.14gも測定値が異なる。移転などで電子天びんの設置場所を変更した場合には、その場所で再度正しい分銅を載せ、調整しなおす必要がある。
 こうした手間を省くため、各メーカーは校正分銅(おもり)内蔵型の天びんを考案している。
□傾斜の影響
 天びんの水準器の示度に注意して、水平に設置する必要がある。
□風の影響
 風の影響を受けやすい場所は、エアコンの吹き出し口、部屋の出入り口の近く、通路の近く、温度変化のある場所など。
□空気浮力の影響
 密度が異なる同じ質量の物体を計測すると、空気浮力の影響のため、指示値が異なってしまう。
 試料の形状だけでなく、気圧が異なると空気の密度が変化し、浮力が変わり、指示値が異なることにも注意したい。
 空気浮力補正プログラムを搭載した天びんもある。
□磁性材の影響
 磁性材や磁化した試料を測定すると、天びんのセンサー部に磁場が影響して、正しい計量ができなくなることがある。
 天びんの床下ひょう量機能などを使って、天びんと試料の距離を広げるなどの対策が必要である。
□温度の影響
 荷重に対する弾性抵抗や復元力を有する起歪体、板ばね支点の弾性係数は、温度によって変化する。機構各部の材質の差による熱膨張の差も温度特性に対する影響が大きい。
 ワンブロック構造のひょう量セルの開発などは、この問題に対する回答の一つである。
 電子天びんは、一部の機種を除いて、起電後十分に時間をおいて、内部の温度バランスがとれて以降、計測前に分銅による校正を実施してから使用することが望ましい。
 また、校正機能の面からは、内蔵分銅による自動校正機能を搭載した機種が増えている。

(2)使いやすく、汎用性の高い天びん

天びんの使いやすさとは、使う人や場所、周辺機器を選ばずに使用できるということ。(1)で挙げた防水防塵性能や自動校正なども、使いやすさに貢献している。
□基本操作の単純化と教育=最近は初心者でも比較的簡単に操作できる天びんが登場。
 また、メーカー各社が天びんの基礎を学ぶセミナーを開催し、正しい使用方法を啓発している。
□測定データの汎用性向上=測定データをパソコンに取り込む際、ウィンドウズ直結機能や、USBインターフェイスなど、データの汎用性が向上している。
□モジュラー化=ひょう量や各種機能をユーザーの用途に合わせて自由に組み合わせることのできる、モジュラータイプの天びんも出ている。

(3)トレーサブルで信頼性の高い天びん

計量器や測定結果の信頼性を確保するためには、計量計測学的トレーサビリティの確立が重要。

(4)新たな営業方法

 (株)エー・アンド・デイの「BMシリーズ」は、同社独自の「計量環境評価ツール」を使って設置環境を連続的にモニターし、環境改善のソリューションを提供する。新たな営業形態の構築として注目される。
 東日本大震災の経緯などから、停電中も使用できる電池式の天びんへの注目が高まっている。

(5)新たな市場開拓

環境測定、バイオ関連やアジアや南米などの海外市場が開拓されている。

(6)低価格化

生産の合理化でさらに、メーカー各社が低価格化を目指している。

信頼ある測定には計量のトレーサビリティが必要
JCSS登録校正事業者の利用が望ましい

ISOやHACCPが要求

はかり・天びんの測定値の信頼性は、計量計測学的トレーサビリティによって保証される。計量計測学的トレーサビリティとは、国際計量用語集(VIM3版)の定義では「測定の不確かさに寄与し、文書化された、切れ目のない個々の校正の連鎖を通して、測定結果を表記された計量参照に関係付けることができる測定結果の性質」である。具体的には、現場で使用するはかりが、社内の標準のはかりで校正され、さらにそれがより上位のはかりによって校正されるというように、順次上位の計量標準によって測定結果の信頼性が確保されるということである。
 「測定の不確かさ(measurement uncertainty)」とは、「用いる情報に基づいて、測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特性付けるパラメータ」という意味。
 経済活動がグローバル化した今日は、国内のみならず、国際基準への適合も必要になってきた。製品の品質基準を定めるISOやHACCPなどのグローバルスタンダードは、使用する計量器や測定データが、国家計量標準にトレーサブルであることを要請している。

JCSS登録校正事業者の利用を

天びんの計量計測学的トレーサビリティを確保するためには、JCSS登録校正事業者の定期的な利用が望ましい。
 JCSSとは、国際標準化機構および国際電気標準会議が定めた校正機関に関する基準(ISO/IEC 17025)の要求事項に適合しているかどうか審査を行い、校正事業者を登録する制度である。
 JCSSで登録された校正事業者は、その証として、JCSS認定シンボルの入った校正証明書を発行できる。これによって日本の国家計量標準へのトレーサビリティが確保され、校正事業者の技術能力のあることが一目でわかる。
 JCSSロゴマーク付校正証明書を持っていれば、トレーサビリティ体系図やメーカーの成績書などは必要ない。
 さらに、国際MRA対応を希望する登録事業者に対しては、校正能力の維持状況を確認するための定期的な検査および技能試験が実施される。国際MRA対応認定事業者は、図のようなILAC MRA付きJCSS認定シンボルの入った校正証明書を発行できる。これは、一度の校正で相互承認協定を結んでいる国ならどこでも受け入れられるものである。
 現在、JCSS校正証明書に信頼の水準(包含確率)の表記が要求されるようになってきていることから、順次、信頼の水準約95%表記がされている。
 質量のJCSSは2012年3月現在、75事業所(種類ごとの合計、重複あり)が登録されており、証明書発行件数も増えている(2010年度では約2万数千件)が、料金が高いことが、普及の妨げになっている。
 しかし、国際的な計量計測学的トレーサビリティの重要性は日に日に増しており、JCSSも今後さらに普及していくと思われる。

電子はかり点検のすすめ

日常点検・検査が重要

電子はかりが常に正しく計量できているか信頼性を向上させるためには、常日頃からの点検・検査が重要である。
 点検には、電子はかりを使用する前に行う「日常点検」と一定の時期または使用期間を定めて実施する「定期点検」がある。また、「定期点検」の検査項目を増やしてより正確な点検を実施する「定期検査」がある。一般的に、「日常点検」や「定期点検」は担当者が行い、「定期検査」は管理者が行う。
 電子はかりの点検・検査を計量士や計量器事業者など専門家に依頼すれば、精度が良く信頼できる点検・検査が行える。

点検・検査のルールを決める

あらかじめ、日常点検・定期点検を実施する担当者と定期検査を実施する管理者を決め、点検・検査の方法や実施時期などのルールを定め、マニュアル化しておくと良い。校正分銅内蔵型の天びんを使用すれば、分銅を用いなくても日常的に校正できる。(株)エー・アンド・デイ、(株)島津製作所、新光電子(株)など、各社が校正分銅内蔵型の天びんを発売している。
 自動キャリブレーション機能の付いた天びんも。温度変化による感度ドリフトの自動校正や、内蔵タイマーによって設定した時間に校正してくれるものがある。
 また、新光電子(株)は不確かさが簡単に算出できる「電子はかり計量管理ソフトHKS」を発売している。

日常点検・定期点検・定期検査の実施方法

それぞれの点検・検査方法は以下の通り。
▽日常点検=@設置状態(水平)の確認A計量皿やその周辺の汚れ、異物の有無の確認Bゼロ点の戻り確認C普段測定している重量の分銅を載せ、重量表示を確認
▽定期点検=日常点検の点検項目に加えて、Dひょう量の分銅を載せ、重量表示を確認Eひょう量の2分の1の分銅を載せ、重量表示を確認。季節の変わり目など、実施月をあらかじめ決めておくと良い。
▽定期検査=定期点検の点検項目にさらに加えて、F繰り返し性の確認G偏置誤差の確認H直線性の確認。実施月を決めて、年に一度は実施する。
 なお、特定計量器(注)の場合は、法律で定められた検査を2年に1度受ける必要がある。
 特定計量器の定期検査は、都道府県知事または特定市町村の長が行う「定期検査」を受ける方法(指定定期検査機関による「定期検査」を含む)と、「定期検査に代わる計量士による検査」を受ける方法がある。
(注)特定計量器=取引または証明に使用する場合において、適正な計量を確保することが社会的に求められる計量器および一般消費者の日常生活における適正な計量実施の確保が求められる計量器(薬局の調剤や食肉の量り売りなど)。

 

 

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