計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2017年7月  2日(3155号)  9日(3156号)  23日(3157号) 30日(3158号)
社説TOP

日本計量新報 2017年7月9日 (3156号)

財閥系企業に入ることだけが韓国の子供たちの目標

ゆえあって5月に韓国に滞在して現地の計量にかかわる仕事をする人々と交流した。韓国の人々の関心事は大学生の就職口とその前の大学入学のことであった。財閥系企業に就職することが人生の仕合わせであるようなのだ。電気、ガス、水道、電話・通信、鉄道という社会インフラに属する分野は半民営ではあるが財閥系に属している。国家公務員もそうした分野に属するのであり、天下り先もその仕組みの中で用意されている。

韓国ではソウル市にある大学こそが一流と考えられている。日本のように旧帝国大学と一橋大と東工大といった大学が一流というのではない。ソウル市に立地していなければならず、その倣いで早大や慶大も一流大学と同じに扱われる。日本もいまでは早慶は旧帝大とならぶかそれより上位とされるようになったが、韓国ではソウル市にある大学でなければならないのだ。財閥系企業の本社がソウル市にあることにも起因し、政治もソウル市に一極集中という状態になっている。

ソウル市にある一流大学に進学するために高校生は母親がうしろに立って叱咤激励する。大学入学の機会は非常に厳しく、ここでののるかそるかですべてが決まってしまう。大学入学試験のために詰め込みの学習をするから韓国の高校生の数学の成績が世界一だったことがある。いまでも日本よりは上位にあるはずだ。韓国の財閥系は政府お抱えの独占企業といっていい。文壇をすこしくにぎわせた<RUBY CHAR="林望","はやしのぞむ">という元大学教員であった作家は、慶応大学に入学したとたんにあれほど解けていた数学が全然わからなくなったと独白する。東大総長を務めた林健太郎氏が伯父という環境であっても、詰め込み教育の結果はそのようなものである。

高校までの数学を忘れずに覚えていれば世の中を生きるのに鼻が高いであろうが、大学では数学科に行ったものだけがその先に進み、ほかのものはきれいに忘れ去る。中学校の数学をまともに覚えていれば大したものだ。物理などの理学あるいは工学や情報系で取り扱う数学を理解できる学生がどれだけいるか怪しい。中堅私大の数学科では半数が数学ができなくて落ちこぼれる。

かつての計量研究所に東大工学部をでて入所した人が「そのころには数学を使って研究成果があげられる」と思うほどに数学に自信があったという。都合があって計量器製造の家業を継いでから数学がわからなくなったという。いつでも数学をして数学を考えていなくては数学の世界から取り残される。一流の数学者かどうかは知らないが数学者の肩書きがつくエッセーの書き手の藤原正彦氏がそのように述べている。

そのような事情もあって東京大学と北海道大学と名古屋大学の修士課程の修了者の進路を調べた。東京大学のホームページに修士論文が掲載されていた。東大はそこまでで、北大と名古屋大の2つの修士課程修了者の進路を調べると島津製作所の名が目に留まった。北大からはそこそこの人数が就職先として島津とあった。北大は大半が本州の企業に就職する。名大では一人だけ島津と記されていた。田中耕一さんのノーベル賞受賞が好印象なのだ。

韓国では大企業のことを財閥系といっているようだが、日本ではパナソニックとソニーの両者は本業の家電などで危うい状態があった。ソニーは利益分野は保険に限っていたことがあった。シャープは台湾の企業に身売りした。東芝は今後どのようになるのか。東芝もシャープ社も就職先として人気企業であった。だから世間で一流とされる大学から人が集まった。その人々が動かしてきたのがシャープと東芝であった。

 女子に人気の企業はチョコレートとケーキをつくる企業だ。化粧品の会社も人気である。普通の人が心に浮かべることができるのは身の回りのことであるからだ。だから旅行会社も人気になる。島津製作所はノーベル賞につながる研究を田中耕一さんができたということでイメージされるので就職希望先として躊躇されない。ほかに生活分野でイメージされやすいこともあって上の2つの旧帝国大学の修士課程修了者が選んだ計量器企業があるが名前は伏す。企業ご当人はもはや計量器企業だとは思っていない。

東大を卒業していても年古ると大したものでない人もいることは、安倍内閣で荷物になった何人かの大臣をみればわかる。そのような言葉は東大を出たものだけが吐けることだと言われば口を閉ざす。学歴は人の能力と人格を現すと考えているようなのが韓国である。東大には毎年3千人が入学し、韓国のソウル大学には4千人が入学する。その枠にはいって恍惚となれるのがうらやましい。大方の人はそれとは縁がない。自らの力量の不足を補うことに努め、目の前の課題に取り組み、一歩一歩まえに進むしかない。中学校の数学を再学習し、自分の分野で求められる高等学校の数学を修得し、場合によってはその先の数学を使えるようになればいい。定理や公理を発見するのは数学者の役割であり、藤原正彦氏は幾つかを発見したと述べている。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.