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日本計量新報 2009年11月8日 (2797号)

役所が計量法違反をするマニュアルができてしまった

ニュートンの万有引力の法則によって物質が引き合ってしまうと、宇宙はつぶれてしまう。ニュートンは、自らがつくりだした物理学理論の矛盾を知っており、そのことに悩んだ。神を信ずるニュートンは、宇宙を静的な存在であると思い通し、その思いを確実なものにするために、宇宙の創生は神の一撃によるとして辻褄をあわせた。
 人々に新しい世界観をもたらしたアインシュタインも、自らが宇宙理解の決め手として考え出した数式に従うと宇宙は動的な存在になってしまうので、自分の宇宙観を満足させるために「宇宙項」という定数を加えた。
 形而上学の哲学の世界で取り扱われていた「宇宙」の理解を科学の世界に誘導したのは、ガリレオ・ガリレイ、コペルニクス、ニュートン、アインシュタインそして量子力学の世界の人々などであった。ハッブルによって宇宙は膨張していることが観測されたが、こうしたことが確実になってくると、アインシュタインは宇宙定数を設けたことを「人生最大の過ちであった」と悔いた。
 ただし、その宇宙定数は宇宙の空間にある力(斥力)をもたせることになり、宇宙創生の可能性としての確率がゼロでないことを示す。アインシュタインが悔いた宇宙定数は、それが存在することで宇宙が生まれて急激な膨張をすることの理論背景として、近年再評価されている。
 ともあれ、西洋的な神を信ずる者は宇宙や世界を静的なもの、決まっているものと思いたいのである。静かな世界、決まった世界というのは人を安心させる。時代ごとにその世界観は決まった静かな世界であった。そのような世界観によって人はモノを考える。そうすることが楽だからだ。
 このことは西洋に限った話ではない。仕事や行動はマニュアルに従ってしたいのが、現代社会の人々である。マニュアルの多くは過去の定まった状態を前提にしている。現実に新しく起きた新事象に対して、対応力が乏しい。現実に対応できないのがマニュアルであるから、人と組織は日々マニュアルを作り直さなくてはならない。
 中央官庁の組織は「官僚組織」などといわれてきた。民主党政権は古い社会の行動の手引きである官僚組織を新しい行動手引きに変更する使命を担っている。官僚組織にいた堺屋太一氏は、日本の軍の組織が国防を目的にすべきものが軍組織の温存の行動になっていたことと同じような状況に、いまの官僚組織がなっていることを指摘している。
 機関委任事務から自治事務に移行させるという間違った選択によって計量行政が国の責任から地方の責任に変えられたことによって、現在の計量行政は、計量法が実施すべき適正な計量の実現を放棄したのと同じ状態になっている。
 よその県がハカリの定期検査そのほかの計量器の検定や検査の実施を放棄したと見るや、自分の県でも同じことをする。役所が計量法の責任を放棄して計量法違反を平気でするという行動様式が、一種のマニュアルになってしまった。世界の国々で実施されていて、この先も実施されることになっている一部の計量器の検査を、他の県もやっていないからということでやらなくなるという計量行政の崩壊は、日本の信用の失墜を招来する。そして、計量への不安と不審は、商取引はもちろんのこと、産業と文化の足下を崩してしまう。
 心ある計量行政担当者の悲痛な思いをよそに、無知な上位階層の地方公務員が、計量行政を崩壊させる行動をしている。これまで実施されてきた計量行政を基本にして、それ以上のことをすることこそ、大事なことであり、そうしたマニュアルをつくらなくてはならない。
 滋賀県の計量行政は、環境計量の補強をするなど、水の国としての発展を図っている。あるべき計量行政の姿として大いに賞賛に値する。

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