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日本計量新報 2008年6月1日 (2726号)

産業構造の変化なくして「地球温暖化」防止は実現困難な課題だ

地球温暖化に対してこれを食い止め、地球の正常な姿を取り戻すということが、この10年の間ににわかに問題にされ、温暖化ガスの排出抑制、森林の増進などを表面的には標榜するようになった。森林が減って炭酸ガスの排出量が増えたから地球が暖かくなっていて、このままの状態がさらにつづくと地球は人が住むことができないところになるのだという。その一現象として南極や北極の氷がとけており、そのほかにも海流の流れの異常と判断される変化、気象変動がそうだというのである。
 地球の状態を決定するさまざまな要素が一定だという条件の下で、現在起きている大気温度などの状態は「温暖化」とみなして良さそうではあるものの、それがそうだという論拠が十分に示されないままに、生活する個々人に電気を使うな、石油を使うな、水を沢山使ってはいけない、紙でも何でも使ってはならないというお仕着せにも似た論調を、政府の提唱のもとマスコミが連呼する状況は決して理性的ではあるとは思えない。
 今起きている地球の環境変化は、20世紀になって人の活動が人口の増加とともに急激に活発になったことによる。日本の縄文時代には人口はせいぜい30万人であったのが1億2千万人に爆発し、森と林を切り開いて家や工場を建て、石油を燃やしてモノをつくり、それを運んでいる。縄文時代の人の活動量を1とすると現代の人の活動量は1000を遙かに超えており、その1000に人口増を乗ずると人の活動総量とエネルギー使用の総量は甚だしく増大していることになる。人の知識は20世紀になって一気に大きくふくらんで、これをもとにして産業社会が形成された。産業革命時点まで緩やかに人の活動総量が増えていたのがこれを境に増大し、さらに20世紀になって一直線に上昇して、前世紀と比較すると煙が立っていた状態から一気に火がついたのと同じ状態になった。
 現代の地球環境の変化は産業社会という構造がつくりだした現象であるから、「地球温暖化」をそうでないようにするためには、この産業構造を変えなくてはならない。地球温暖化防止の京都議定書以後に中国やインドそしてアジアの途上国をふくめ新興国の工業化が一層進展して、温暖化ガスの排出総量はさらに増加している。この先、先進国でわずかな排出抑制があっても、地球で営まれる経済活動の基礎になっている産業構造が何ら変化していないから、温暖化対応の諸政策は小手先の対応でしかないことになる。いくら努力をしても命題として掲げている地球温暖化対策は実質的に滞ることになる。地球で営まれる人の経済活動の主軸が工業経済から知識・情報経済に移行し始めていることに幾ばくかの希望を見いだすことができるとはいえ、エネルギーの拠り所を化石燃料に依拠している状況を変えなくては「地球温暖化」への歯止めとその解消は実現しない。
 アインシュタインは物質とエネルギーは等価であるという理論、すなわちE=mc2を説き、それから10年ほどで核爆弾が開発され、1945年には広島と長崎に米国が核爆弾を投下するということをした。核融合の理論が核爆弾として最初に使用されるという不幸で始まったので、その後の原子力利用は及び腰になって今日に至っている。エネルギー源として核反応を利用する技術と知識を大量に積むことができれば、今問題にされている「地球温暖化」対応は一気に進むことになる。
 その一方で、1945年に完成している核爆弾の技術はそれから60年も経過するとテロリストなどが使うことができるほどに一般化しているので、テロリストなどによる核爆弾によって人が殲滅される脅威もまた大きく広がっている。
 地球温暖化対応ということでテレビ、ラジオにこのことが取り上げられない日がない状況が続いているが、今のマスコミの報道姿勢は正常であるとは思えない。また政府などがこのことを説く姿勢にも政治的な思惑が大きいようであるからこれも困ったことである。「地球温暖化」対策が政治と政党の駆け引きの道具になっていて、政府も行政もこれを看板にして自らの行動を正当化して支持を得ようとしている。
 計測技術は宇宙からの地球観測ということでリモートセンシングを大きく発達させてきた。この技術や地上での気象観測の総合的数値が政治的駆け引きなしに一般に公開され、この公開情報によって人々の判断と価値付けなどが行われるようになる必要がある。今の地球温暖化に対する対応とその報道は感情に走りすぎており、大事な事実の報道が抜け落ちている。誰も意識しないままにこのことが進行することは、戦争に突入する軍国主義日本と同じように思える。
 5月10日、山梨県の2000メートルほどの山の大菩薩嶺では積雪2センチメートルになった。大菩薩峠の山小屋の主人は、45年の間には5月5日に雪がちらつくことがあったが一面が、白くなったのは初めてのことであると述べていた。世の中の現象には脈動と揺らぎがあり、気象などのさまざまな現象がこの揺らぎの範囲のなかにあるのかどうかを見極めることは難しい。


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