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日本計量新報 2008年5月11日 (2723号)

組織の機能性評価はやると決めたことをやれているかどうかだ

組織の力は連携プレイとバランスであるようだ。プロ野球の世界では、読売巨人軍がセパ両リーグのタイトルホルダーの有力選手をお金を沢山つかって集めてチームを編成しても、結果はお金の嵩(かさ)に比例するようにはついてこない。
 プロ野球の例を社会の組織、そして企業活動などにそのまま当てはめて考えてはならない。しかし、太平洋戦争では、飛行機と船とを組み合わせた航空艦隊を主力にして編成した米国に対して、日本は家庭の鍋釜や渋谷のハチ公の像まで供出させて戦艦武蔵、戦艦大和などを建造するという巨艦巨砲主義で臨んで結局はあっさり敗れ去り、日本の国土と日本の国民は非常に手痛い目にあった。
 投げる、打つ、捕る、走るといった勝つための要素や条件が幾つもあるのに、投げる、打つだけで野球をしようとする読売巨人軍のチーム編成方針は、決して勝つための条件を備えるために十分ではなく、ましてや万全ではない。
 そのようなことを知ってのことであろう。パナソニックに名前を変えた松下電器産業の創業者の松下幸之助氏は、社員の心を一つにし、なおかつ松下電器産業社の広報の意味を結果的に兼ねるPHP研究所を設立して、同氏の考えや思想を伝えることを同社の重要な仕事とした。松下幸之助氏の考え方や談話を自ら筆を執って図書の形式にし、広く内外に周知したのであった。
 松下電器産業の組織は国内外に拡張し、関係する下請け、孫請け、その他の取引先だけでも軽々と10万人を超える組織である。なおかつナショナルとパナソニックの両ブランドの顧客がいるのだから、その総帥の放つ意思伝達は重要である。松下電器産業に関係する人々の考えがてんでんバラバラであれば、どのように高学歴で優秀とされる人々が集まっていても、船頭多くして船山に上るという結果を招来する。このことを知っているから、松下幸之助氏は「学歴など企業人としては何の役にも立たない」とこれを否定し、学歴優秀者を戒めつづけた。
 社会保険庁は、年金制度を通じて国民の福祉を増進することが目的であり、そのために機能しなければならなかった。それなのに、その目的が組織の構成員である職員の満足に転化したことによって、パソコンなどのキーボードへのタッチ時間の制限を極端に短くして組織が業務を処理できない体制にしてしまい、年金納付の記録簿の作成を実質上投げ出したのが年金記録漏れとなったのである。
 常識からするとただ唖然とする事態を発生させたのは、組織が目的をはき違えて無機能状態になった結果である。道路特定財源のガソリン税しかり、後期高齢者保険制度の失態しかり、巨大化した政府の組織からは国民の福祉増進という目的が消え去って、その省庁などの職員の幸せ実現のための福利厚生などが目的となってしまっている状態が垣間みられる。
 トヨタ自動車の元社長の豊田英二氏は、回想録で昭和10年頃「当時、商工省の機械課には四、五人しかいなかった」と述べている。現在の経済産業省の総合的な規模と比較すると如何に簡素であったかがわかる。行政機関が行政目的を果たすことができる最小限の規模であることは、負担の最少化にもつながるので、そのようにしなければならない。政府機関の労働関係の相談所に相談が寄せられる頻度がまれであるにも関わらず相談所に数人の人数が居たり、職業経験のための失業保険制度などの資金を馬鹿げた建物などに投じたりするのは、それぞれの部署での福祉目的実現のために組織が機能しているのではなく、所属する組織構成員の生存だけが目的化してしまった結果である。同じようなことは大企業にも起こるし、中小企業などどのような組織にも発生する。
 そのことを知っていた松下幸之助氏は、「商売の神様」の看板を上手につかってさまざまな図書を意欲的に執筆し、松下電器産業の従業員向けに、組織全体のコンセプトを明確にして、組織の目的をしっかりと伝えたのである。それはまた松下電器産業の基本方針の決定をふまえたうえでの指示・伝達の徹底でもあった。
 松下幸之助氏は事業部制を創ったり壊したりもした。事業部制は松下のためにもなったが、一度また成功した事業部はそれに満足して次の発展に躊躇することがあったのだ。松下においても組織目的が内部構成員の幸福だけに向くという現象が発生したため、これを止めることを松下幸之助氏の決断で実行した。組織全体を見回すことを仕事の一つとしていた松下幸之助氏は、事業部制の廃止といった措置によって、組織の総合調整もしていたのである。
 太平洋戦争中の日本の軍隊は、年金簿の記録漏れを平然としでかした社会保険庁と同じ組織となっていた。やれば負ける、そしてやってはいけない戦争をすることが組織の目的となってしまっていたのである。このような現象は、組織や機能が、実際には外に向かってサービスを提供したり、商品を製造して販売したりということに向かうはずなのに、組織内の個々の人員がとりあえずそこに居られるということに向かうために起こるのである。
 役所の組織がそうであり、さまざまな団体の組織とその職員にそのような現象が現れるように、企業においても常にそのような心理が芽生え、目的を見失った行動が発生する。
 その組織が機能しているかいないかは、掲げられた目的実現のための計画の実行への気概に端的に現れる。それは命令の実行度という尺度でも測られる。自己宣言した計画の実行とは自分への命令であるから、これも命令の実行度という尺度で測られるべきものである。測ることは基準との比較であるので、自分でやるといったり組織がそのようにしようとしたことが実行できるかどうかという実現度によって、その組織の機能性が測られ、同時にその企業の盛衰も決まる。ここでは計測論を説いているのではない。


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