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韓国市場拡大に力入れる
金本 重孝氏

鎌長製衡(株) 社長

vol.1

日本計量新報 2010年10月10日 (2841号)2面掲載

すでに昨年の売上を超えた

一般ユーザーの声聞ける商品も開発する


金本重孝 −−鎌長製衡(株)の現状をお話しください。
 当社が製造する製品には一般ユーザーに直接繋がるものはトラックスケールしかありません。
 ですから、従来は景気の影響は軽微なものと受け止めていました。しかし、ここ1〜2年は不況の影響をもろに受けています。その原因の一つは一般ユーザー向けの商品不足にあると思っています。
 したがって、私どもは現在、一般のユーザーの意見を直接聞けるような商品の開発を心がけているところです。あくまでも質量計を軸として、あわせて環境製品も開発していきます。
 昨年度の私どもの決算では、経常利益は5%ほどですが、新製品の拡充で従来の利益率に戻すよう努力していきたいと考えています。

人材の確保に力入れる

鎌長製衡は、3、4年前からビジネスモデルが大きく変わりました。今後の状況を予測してビジネスモデルを変更し、新しいビジネスモデルに対応する手を打ったわけです。それは人材の確保です。

政権交代で官公庁需要が激減

昨年度はその2年目になり、効果を出すはずだったのですが、政権が自民党から民主党へ変わったことの影響を受けてしまいました。それは、官公庁関連の需要が昨年の9月以降、どんどん減っていったことです。第1四半期、第2四半期は予定どおり推移していたのですが、第3、第4四半期には官公庁需要が大きく減ってしまいました。この影響は大きかったですね。売上、利益ともに落ちてしまいました。
 ビジネスモデルの変化への対応はしたのですが、当社にとっての予測不可能な事態が起こったために、昨年度は目標どおりの売上、利益を上げることができませんでした。

6月には受注急増


 この影響は今年度も、4、5月頃まで2カ月間続いていました。私どもの場合はここが底でした。6月には急に底入れがありました。昨年出るべき補助金が6月に出たということもあり、V字回復で受注が急速に伸びました。ただ、今後の推移はどうなるか、慎重に検討する必要があります。
 受注残とこれまでの売上を見ると、今年度はすでに、昨年度の売上を確保しています(絶対数字が低いため)。売上の1割ほどは、昨年成約すべきものが、今年の6月にずれ込んできたものです。あとは利益がどうなるかです。後半がどういう形で展開していくかにかかっています。

地域格差が明瞭に

 今年度は、売上にも地域格差が明確に出ています。私どもの場合、九州、中四国、名古屋の支店の状況は今一歩の感があります。東京支店が我が社の中では一番良い状況です。一部のコア商品に関しては、6月だけで、3年前の景気がよかったときと同じか、それ以上の台数を売上げています。6月だけが良かったという事にならないように願っています。

支店の営業力アップ図る

 このように地域格差が大きいので、東京以外での売上がアップすると、状況は楽になります。ビジネスモデルの変化に伴い、一昨年から今年にかけて、各支店のスタッフを充実させ、営業力のアップを図っています。激戦の名古屋地区は2人増員して5人体制にしました。九州地区も5人です。中四国支店は8人の体制です。
 スタッフの強化により、今まで営業できていなかった新しい分野も、積極的に開拓していきます。
 島根にある山陰営業所も、メンテナンス主体で効果を上げています。ユーザーの声、新しい提案も直接聞くことができますので、設置してよかったと思っています。

海外進出進める

今は重商主義の時代

−−鎌長製衡の今後の展開についてお聞かせください。
 経済産業省が6月に『産業構造ビジョン2010』を発表しました。状況はこのとおりですよ。なかなかよく分析されていると思います。
 私が今感じているのは、現在は「重商主義」の状況だということです。あの大航海時代と産業革命の間の重商主義という意味そのままではないですが、今は資源争奪戦・環境ビジネス(原子力発電プラント等)に政府が積極的に後押しをして外交と絡めて商売をしているということです。その最たるものが韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領であり、ロシアのプーチン首相です。政府首脳自らが自国の製品やシステムを外国にアピールして、売り込みに成果を上げています。
 日本でもようやくそういう形ができつつありますが、まだ成果は上がっていません。しかも、大企業主体です。私どものような中小企業は、おいてけぼりです。


内需拡大は難しい

今後、思うような内需拡大ができるかというと、私は難しいと思います。政府が期待しているようには国内需要は拡がらないのではないかと思っています。
 また、今の政権は、長期的なビジョンと政策が明確ではありません。対処療法に終始しています。したがって、国民の不安感は解消されません。

海外進出しか道はない

そうすると、我が社が生き残る道は、遅ればせながら海外進出の選択しかありません。たしかに、円高基調が続いていますから、これは険しい道です。しかし、何とかして海外へ出て活路を見い出さなくてはなりません。このような状況に追い込まれているというのが、われわれを取り巻く環境であると考えます。
 これまではアメリカが世界経済を引っ張っていっていましたが、今はアジアの時代と言われています。中国、インド、東南アジアが元気です。これからどんどん需要が出てきそうです。

ユーザー直結製品を開発せねば


では、当社にとってはどうなのか、東南アジアで何が売れるのか、ということになります。しかし、当社には、東南アジアで直接売れるような製品はありません。台はかりや体重計などは当社ではつくっていません。設備関係が主体ですので、先ほどもお話ししました、一般ユーザーに直結する製品がありません。このユーザー直結製品を開発していかないと、急速に伸びている中国や東南アジアの市場で売るものがありません。
 ロードセルや指示計などは現地で安い製品がいくらでもありますから、当社の現況では、売れるものはソフトウェア・システムエンジニアリングくらいしかありません。そうすると、投資効果が出るまでに数年はかかってしまいます。そう考えると、海外に進出するのも大変、出て行かないのも大変、そういう状況です。


今年は潮目が変わる年

私は、今年は当社にとって潮目が変わる年であると考えています。韓国では98〜99年に大変な経済・通貨危機に陥り、企業淘汰が進んでリストラクチャリングで倒れる企業は倒れ、大きくなる企業はより大きくなりました。日本は、リーマンショックの時には、苦しい企業も保護しました。潰していません。
 ですから日本国内では、特に中小企業は、需要が減少しているにもかかわらず競争がより激しくなって、数多くの企業が、利益を圧迫しながら、借金をしながら、細々と生き延びています。体力の消耗戦をしているのです。海外へ進出する体力すら残っていません。我が国産業は自国市場に占める企業数が多過ぎるようにも思います。
 製鉄会社も韓国は3社くらいなのに、日本は5社あります。電力に至っては韓国は1社ですが日本は10社も在ります。自動車も同じ状況です。メーカーの数が多すぎます。『産業構造ビジョン2010』も、「我が国産業は、自国市場に占める企業数が多く、国内予選で消耗戦」と指摘しています。『産業構造ビジョン』によると、韓国の1社あたりの国内市場規模は、鉄鋼で日本の1・5倍、電力で3・9倍、乗用車で1・5倍です。
 このように日本の企業は競争力がないのです。しかも、韓国などは重商主義で大統領自らがセールスマンとなって、どんどん製品を海外に売っています。
 そういう点では、今年は潮目が変わる年と認識しながらも、海外進出に関しては迷っているというのが実情です。

韓国で石膏ボード粉砕機を成約

当社は、一昨年、韓国営業所を設立しました。この韓国営業所設置は成功でした。投資効果は出ています。
 当社の製品に石膏ボードの粉砕機がありますが、これが8月に、韓国で成約しました。昨年韓国で開かれた水処理関係の環境展示会に出品したところ、引き合いをいただいたのです。展示会の反響はすごいものでした。初日は担当者が昼食をとる暇もなかったほどです。最初は出展の予定はなかったのですが、香川県から補助金もいただけましたので出展いたしました。
 韓国では、まだ日本ほど環境問題に対する体制ができていません。これからです。今後、急速に環境関連の需要が増えていくと思います。
 今回成約したのは、韓国では最初のプラントです。日本では100カ所以上の納入実績がありますが、韓国ではこれが最初です。規模も大きなものです。日本の製品は1時間あたり5tの処理能力ですが、韓国に納入したものは、1時間あたり10tの処理能力があります。
 また、違う分野の機器の引き合いも韓国からきています。


短期で勝負する

しかも、これは短期の勝負だと思っています。というのは、新しい市場を開拓すると必ずコピー商品がでてきます。商品寿命が短いですね。新しい性能や付加価値をどんどん提案して、お客様のニーズにあった製品を提供していきます。たとえ、まねをされても追いつかれない、相手がこれはかなわないと諦めてしまう、というぐらいにしていかないといけないと思っています。
 韓国での事業は順調に滑り出しています。
 海外への進出をする上では、人脈を構築していくのが大変です。それ故に、これまで海外へは出ていませんでしたので、人脈がありません。下から積み上げていかなければいけませんので、どうしても時間がかかります。地方行政の協力も得て、人脈を培っていきたいと思います。


中国市場はこれから

中国マーケットについては、全く遅れています。しかし、中国市場へも進出できるような力をつけたいと考えています。


人材を育成

そのために、人材の育成を図っています。当社ではこのところ中国人を社員として採用しています。現在は、研修が終わって大阪支店に配属になっています。関西には中国から日本に進出している企業が多くあります。これらの中国系企業との営業で、人と人との信頼関係、中国人と中国人という繋がりの問題でしょうか、ベテランの日本人の営業マンが行っても契約が取れなかった案件を、新人の中国人社員の営業マンが行って成約してきたりしています。繋がりの大切さを感じます。


当面は韓国市場主体に

海外進出は決めましたが、現状はこういう段階ですので、当面は韓国市場を主体にして中国への進出もあわせて進めていきます。
 今は先が読めない状況ですので、迷いはありますが、海外進出を考えざるを得ないような状況です。


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