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2019トップインタビュー

鎌長製衡株式会社 鎌田長明社長に聞く 

お客様のニーズに応え進化する

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2019年10月6日 (3258・59号) 2〜3面掲載

お客様のニーズに応え進化する

◎増収増益で順調に推移

 


――貴社の現況はいかがでしょうか。

■業績は順調

  ここ2〜3年ほど、業績は、増収増益で順調に推移しています。  トラックスケールは横ばい傾向ですが、順調に推移しています。

  民間の設備投資が順調に推移しています。中身は、老朽化した設備の更新需要が多いですね。いわゆるバブル期といわれる時期に投資した設備が30年以上経過して、補修などで寿命を延ばしてきていましたが、それも限界に来ています。ですから、この更新需要はしばらく続くと思っています。

  リサイクル設備の関係も、プラントを中心に順調に推移しています。

■1880年(明治13年)創業の企業

 当社は次のような事業を展開しています。

 鎌長製衡は1880年(明治13年)創業の会社で、長い歴史を持っています。

 戦後、1947年に現在の鎌長製衡の前身となる鎌長産業株式会社を設立しました。

 分銅・おもりを製造していた事業を多角化して「はかり」の製造を始めました。はかりをつくるためには分銅が必要です。10トンをはかるには10トンの分銅が必要になります。しかし10トンの分銅など、当時は存在しませんでした。だから自社でつくったのです。その結果、分銅メーカーにしかつくれない、重いものをはかるはかりをつくることができるようになりました。それが、現在トップメーカーとなった「トラックスケール」の製造を始めた契機です。

 その後、当社は「ホッパースケール」の製造にも乗り出しました。ホッパースケールとは粉体や液体を計量するための容器付きの計量装置のことです。  

当社ではとくに飼料などを貯蔵するためサイロに穀物等を搬入・搬出する際に使われるホッパースケールで高いシェアを占めています。  

古くは輸入された穀類は、港で船から一旦トラックに積んで、トラックスケールで重量をはかった後に、サイロに貯蔵していました。それが今では、船から空気輸送装置で吸引荷揚げして、ホッパースケールを通して計量しながらサイロに入れるようになっています。  

さらに当社は「パッカースケール」の製造にも着手。パッカースケールとは、粉体などを袋詰めするための計量装置のことです。  

ホッパースケールを通してサイロに貯蔵された飼料や食料を搬出する際に、数kg〜30kg単位で袋詰めするためにも使われています。

  分銅づくりから、積み荷ごとトラックをはかるトラックスケールへ、そしてホッパースケールや自動包装機へ、さらに食品や飼料業界の工場ラインを変えたといわれる連続自動供給システムへと、当社の製品および事業は進化していきました。  

また1960年代に遡るリサイクルプラントへの取り組みも始まりはお客様の声でした。トラックスケールを納めていた廃棄物処理施設を営むお客様からうかがった「空き缶のスクラップが増えてきて困っている。空き缶を山盛りにして運んでいては、運送費も出ない」という悩みの声に応えるために、圧縮減容機や破砕機を開発。それが1997年の容器包装リサイクル法の施行と同時に事業化したリサイクルプラントの施工にまで拡大していきました。

◎自動はかりの検定に注目

■しっかりした体制の構築を望む

 鎌長製衡が、このような事業との関連で注目しているのが、計量法令の改正により自動はかりが特定計量器に指定され、このうちの4機種の検定が開始されること、また、検定は指定検定機関によって実施されることです。  

ただ、初めての制度を構築していくわけですから、未知数の部分も多く、業界の対応も一致していない部分もあり、行政の対応も遅れがちであると認識しています。  

十分な体制ができなければ、結局はユーザーが損をするということになりますから、ぜひきちんとした体制をつくっていただきたいと思っています。  

はかりは計量対象が数ミリグラムから何百トンまで幅広いですね。これくらい計量対象物のレンジの幅が広い計量器は他にないんじゃないかと思います。  

自動はかりに関しても対象物は千差万別であり、また測定する対象物の種類と質量に幅があるわけですから、検定方法一つとってみても、単純にルールを定めただけではうまくいかないですね。検定が大変な作業であることがよくわかります。  

たとえば、5tをはかるホッパースケールをとってみても、まず、設置されている現場に分銅を積む場所があるのかとか、地上20mくらいの高い位置にホッパースケールが設置されている場合は分銅をどうやって運び上げるかなど、現場の状況は一つ一つ異なるので、さまざまな困難が予想されます。また分銅を使わない場合はどうなるかなどなど。また、実際に検定が始まってから、いろいろ検定方法などに不具合が見つかることも、当然予想されます。

■ユーザーが困らないように  

ずるずると無責任状態にならないためには、行政と業界、計量関連団体が連絡を密にして一致して行動することが大事だと思います。ユーザーが困らないようにするということが第一ですね。  

私はもともと、自動はかりに関しては、外国から価格が安いばかりで性能的には酷い計量器が日本に数多く入っていましたから、これに何らかの規制をかけることが必要だと言ってきました。  

その意味では今回の自動はかりを検定対象にしたことには賛成です。ですから、検定がきちんと実施できる体制づくりが大事だと思っています。  

仕組みがきちんと決まれば、指定検定機関を含めて鎌長製衡はそれに対応していきます。

◎計量行政にもIT技術の活用を

現在、ITの活用が増えていますね。人手不足を補うことや、合理化の促進がねらいです。  

今、はかりの定期検査がどのくらい確実に実施されているのかなどという計量行政の信頼性に関わる問題等もありますが、たとえば、メーカーが出荷するはかりにバーコードをつけて出荷するようにすれば、現在のIT技術で、はかりは簡単に追跡管理できます。費用もそんなにかかりません。スマートフォンで管理できるようになります。  

行政も予算や人員がどんどん削られて、計量行政を推進する体制が弱くなっています。また自治体ごとの計量行政の推進体制の格差も広がっています。IT技術の活用でそれが補えるのであれば、それに対応できるように法令を整備して、どんどん推進して欲しいですね。

◎国際規格を日本主導で

■ホッパースケールは財務省が管理していた  

自動はかりの検定の問題でもう少し付け加えますと、従来、ホッパースケールは検定対象器種ではなかったので計量法における検定はありませんでしたが、輸出関連では、財務省が管理をしていました。国際的な取り決めがあります。  

それは国際整合性の観点です。国が認めていない計量器ではかったものを輸出することはできませんから。  

自動はかりは計量法上の特定計量器から外れていたので、税関で、自分たちでルールを決めてやっていたわけです。

■日本の規制は遅れていた  

世界的に見ると日本の自動はかりに関する規制は遅れていました。ヨーロッパはとっくに自動はかりは検定の対象でした。  

日本は自動はかりの検定をきちんと軌道に乗せないと、はかりに関しても、そのうちに中国に抜かれてしまう恐れがあります。中国製品の品質はよくなってきていますから。日本の計量器が品質的に進んでいる時代は終わりつつあります。

■規制が技術を進展させる  

私は、規制を強化するのは正しい方向だと思っています。規制強化は技術の進展を阻害するという意見もありますが、逆だと思います。  

ハードルをあげて技術レベルを押し上げて日本の水準を高い位置に維持することが重要です。これはユーザーにとっても、業界にとっても、日本の競争力を維持するという観点からもよいことです。  

工場のオートメーション化の進展など、これだけ自動はかりが普及して非自動はかりよりも数が多くなってくると、規制はどうしても必要になります。  

その計量器ではかった値の正確さがきちんと担保されないと、大変なことになります。計量の信頼性が失われ、ユーザーの利益も阻害されます。

■規格を日本主導で  

日本が計量器を、中国より安くつくれるかといえばこれは不可能です。また、アメリカやヨーロッパに比べると日本は研究費が少ないので、技術的に圧倒的に優位に立つことも容易ではありません。  

今後の日本の方向性を考えたら、国際標準規格を日本主導でつくっていかないと非常にまずいと思います。中国はここにも力を入れていますから、日本が国際競争力を維持していく上でも重要な活動になります。

■三次元の重心位置測定のJIS  

たとえば、鎌長製衡が2006年に横浜港湾貨物計量協会から依頼を受けて共同開発した「satrs(サトルス)」というトラックスケールがあります。  

依頼内容は「コンテナを開けずに重心位置を知りたい」というものでした。1970年代に港湾のコンテナ化が急速に進みました。その中でコンテナトレーラーがカーブで横転するという事故が多発。原因は積み荷の重心の高さでした。ところが輸送中にコンテナを開封して中の様子を確認することは、国際法上できません。  

そうした状況に苦慮した末の依頼でした。そして完成したのが「3次元重心測定システム・サトルス」です。  

この三次元の重心位置測定装置に関するJISがつくられています。まだ試験方法に関するJISですが。今年中にはできると思います。  

国際的にも重量・重心というのはテーマになってきていますので、これは国際標準化を目指したいと思います。規格を日本が握ることが重要です。


◎はかるというサービスを提供

――力を入れておられる分野は何ですか。

■はかるというサービスで計量結果を担保する  

当社は、アプリケーションが得意です。はかり技術を使った製品ですとか、またリサイクルに関しても機械技術を使って、とくに産業界や行政機関のニーズに適合するような一連のシステムをつくる、などがわれわれの得意分野です。  

われわれは同一の製品を大量生産するという企業ではありません。一言で言うとはかるというサービスを提供する企業です。それにより、計量した結果の数字を担保しているわけです。  

単純に言えばロードセルに表示装置をつなげば、計量結果の数字は表示されます。しかし、それでは本当にはかったことにはなりません。当社は、その結果数字を正しい計量結果として担保しています。

■リサイクルでは安定運用を担保  

リサイクル関係にしても、システムが安定して運用できるということを担保しています。  

リサイクル関係の顧客は官公庁が多いですが、官公庁が一番何を求めているかというと、それはシステムが安定して運用できるということです。行政にとっては業務の遂行中にシステムがストップすることが最も困ることですから。  

たとえば、ゴミと一言で言いますが、実際にはゴミというのは一様ではありません。そういう多様性があるゴミ、どのようなゴミを扱っても、すべての場合に安定して使えるシステムを構築することは大変です。そうすると、このシステムの安定した運用を担保することは容易ではありません。  

最初は競合他社の製品がたくさんありましたが、みんな撤退していきました。当社はこのことに地道に対応してきました。その成果が今出ているわけです。

■技術革新とノウハウの積み重ね  

われわれが得意とする粉体も同じです。粉体の状態も実にさまざまです。大きさ、形状、粘度、空気の含み方など、粉体ごとに全部異なります。  

しかし、どんな粉体であろうと、そのすべてを正確にはかることができなくてはなりません。それを担保するためにわれわれは技術開発やノウハウの蓄積など、努力を積み重ねてきました。その結果が、鎌長の製品です。  

今後も、鎌長製衡は、お客様に安心して使ってもらえる製品を提供していきます。


◎少量多品種生産で

 ■誰かがやらなければ  

お客様に安心して使ってもらえる製品となると、それぞれのお客様のニーズに的確に対応することになりますから、鎌長製衡の製品は少量多品種になります。  

ホッパースケールなどについても、設置条件、被計量物である材料の性質・形状などで相当変動があります。それらのすべての条件に対応して安定して使えるようにしていく必要があります。  

ある意味ニッチな世界になりますが、誰かがやらなければならないという使命感でやっています。

■信頼性を提供  

当社の製品分野には、リサイクルシステムなどに典型的に見られるように、安定的に稼働するという信頼性が求められます。  

開発が大変で、長期に及んだり、どんなことにも対応するということは面倒なことも多いのですが、鎌長製衡はまさにそういうことを得意としている会社です。

■技術者を育成  

したがって製品群も増えていきますし、それにともなって技術者も育成していかなくてはなりません。教育システムを構築して、それにしたがって育成しています。  

当社の技術者の仕事分野はとても幅が広いです。機械、電気、ソフトなどから建設土木に至るまで、非常に幅広い技術者が仕事をしています。

◎対応力がある人材を育てる

――そういう多様な仕事がある中で、働き方や社員の育て方についてお考えをお聞かせください。

■安定性が大事  

働き方改革は当然していかなくてはなりません。重要なポイントは、製品に求められることと同じですが、人に関しても安定性ですね。  

残業時間をゼロにすることが大事ではなくて、安定して仕事をすることができるということが大事だと思っています。

■問題解決できる人を育てる  

大企業では多くの場合は従業員をどんどん非正規化していますね。それによってコストを削減しています。  

そういうやり方は、われわれには向いていません。われわれの場合には、安定して人を採用して、安定して働いてもらうという方針です。そして、技術レベルとしても、問題解決ができる人、対応力がある人を育てるということです。

■社会的ニーズはある  

そしてそういうことへの社会的ニーズは必ずあります。大量生産品だけで社会は成り立っていきませんから。  

たとえば、ゴミを見てもらえばわかります。ゴミは、実に種類も素材も形状も多様で一義的には定義できません。  

定義できれば一律な対応で何とかなりますが、定義できないものは、一つ一つ生起する問題に向き合って一つ一つ対応していかなくてはなりません。  

これらの「もの」は結局物理的にしかはかれませんし、物理的に処理しなくてはなりません。ここに鎌長製衡の仕事の意義があります。

■官公庁と民間でバランスよい需要

――鎌長製衡が対応されている分野で、需要に波はありますか。  

鎌長製衡の顧客には、官公庁と民間があります。そして、それぞれ双方ともバランスよく売り上げています。  

この官公庁と民間の需要は、逆の方向に動きます。民間相手の売上と官公庁相手の売上は逆の傾向を示す場合が多いのです。たとえば、トラックスケールやホッパースケールは民間向けの需要が多い機種です。対して、リサイクルシステムは官公庁の需要が多い機種です。  

だいたい民間の景気が悪化すると政府が投資しますね。そして政府が設備投資をする場合には絶対必要なものに投資します。つまり、この場合、リサイクルシステムなどへの投資がしやすいわけです。政府が景気対策をすると環境系の売上が増えます。  

それで、当社は会社全体で見るとまあまあ安定した売上を維持できています。ですから、多方面の技術を持った技術者を安定的に雇用できることにもつながっています。

■ニッチな対応力で  

私は「ニッチな対応力」と言っているんですが、このようなお客様のどのような問題にも的確に対応できる技術で、今後も成長していきたいと思っています。  そこには社会的な意義がありますし、社会の一端を担っているという誇りも持っています。

◎歴史活かし社会に貢献する

■SDGs(持続可能な開発目標)を掲げ  

ですから、長期的なと言いますか、今後世界がどうなっていくのか、どのような世界にしていかなくてはならないのか、いうことにも関心を持っています。  

SDGs(持続可能な開発目標)というものがあります。これは2015年の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、国際的な開発目標のことです。世界の150カ国を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択されました。  

貧困、飢餓、ジェンダー、教育、環境、経済成長、人権など、幅広いテーマをカバーしていて、2030年までの達成が目指されています。豊かさを追求しながら、地球環境問題に対処し、「誰一人取り残さないこと」が強調されています。  

SDGsの登場の背景には、近年の地球環境や経済・社会の持続可能性に関する世界的な危機意識の高まりがありますね。  

近年は地球環境問題や経済・社会問題は、より深刻で影響が拡大し、政府や国際機関だけでは対処できなくなりつつあります。企業、市民社会、メディア、教育機関などのさまざまな組織の積極的な関与が必要となっています。  

一言で言えば、SDGsは、企業に対し、ビジネスを通じて環境、社会、経済の諸課題に取り組むことを期待しているわけです。  

そこで、われわれもただ利益を追求するだけでなく、これらの目標に取り組む中で、社会に貢献していくことを考えています。

■140年の歴史を活かす  

鎌長製衡は、1880年に創業し、分銅製造から出発していますから、来年で140年になるという歴史を刻んできました。  

それは、社会的によいもの、社会に役立つもの、社会的に必要とされるものをつくり、社会に貢献するという観点を貫いてやってきたわけです。これが鎌長製衡の事業の基本です。

◎「安定的」という強みを活かす

今後の日本を考えると、従来のように大量にものをつくって売っていくというビジネスプランは成り立ちません。  かといってわれわれの企業規模では、ITの世界で爆発的に成長するということもできません。

■日本人の強みは安定的にやること  

考えてみると、日本や日本人のよさはそこにあるのではなくて、善くも悪くも、誠実さであるとか、チームワークのよさに求められると思います。  

では、それで提供できるものは何かということを考えると、私が先ほどからくり返しています「安定的」に何かをやるということだろうと考えています。  

外交問題、政治問題で注目されましたが、半導体製造に欠かせない「フッ化水素」なども、この「安定的」ということが当てはまるものです。  

低純度製品は製造が容易ですが、純度が非常に高い、超高純度のものは、ほぼ日本企業しか安定的に製造できません。不安定なものを安定的につくることは日本人の特性として得意なんですね。  

このように、市場はあまり大きくはないかもしれませんが、安定して持続的に何かをやっていくと、そこそこ生き残っていけるのではないでしょうか。

 ――ありがとうございました。

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