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2020新春トップインタビュー

株式会社オーバル 谷本淳社長に聞く 

収益の向上と安定的な成長を目指す

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2019年8月25日 (3252・53号)2〜3面掲載

収益の向上と安定的な成長を目指す

◎すべての分野で好調

 


−−貴社の現況をお教えください。

■前年度はシステム分野が落ち込んだ

おかげさまで今期(第97期)は好調に推移していますが、前年度はシステム部門が不調でした。
 当社のビジネスは、流量計と、その流量計を中核としたシステム、そしてサービスで構成されていますが、前年度は特にシステム部門が不調であったために業績が落ち込みました。世界的な原油価格の下落により、得意分野であるOil&Gasの領域で、多くのシステム案件が延期又は中止となったことが影響しました。

■今期は好調

幸い今期はこのシステム部門が復調し、業績も好転しました。

■シンガポール子会社が大口納入

シンガポールの子会社OAP(OVAL ASIA PACIFIC PTE.LTD.)は、海外システムの拠点ですが、今期はいくつかの大口案件を受注することができました。
 FPSO(Floating Production Storage and Offloading System)という洋上の原油・ガスの生産、貯蔵、出荷設備において、製品の出荷設備を受注しました。この設備は流量計と校正装置で構成され、一般にメータリングスキッドと呼ばれています。OAPでは多くの実績があり、今後のFPSO関連ビジネスに期待しています。

■バルブアクチュエータの需要

特需もありました。震災等に対して国内の各種インフラ強化を目的とした国土強靱化という政府の取り組みがあります。
 当社関連では、石油備蓄タンクの元弁を自動化するプロジェクトにおいて、当社製品Vトルクでの特需がありました。
 Vトルクは既設の手動弁をオンラインのまま自動弁に改造できるバルブアクチュエータですが、駆動源が空気式ですので、電動式に対し停電が想定される災害時に強いことが評価されました。今年で特需はほぼ一段落しますが、当社はプロジェクトの中で、日本のインフラに安心・安全を提供し、社会貢献することができました。
 このような背景から、今期は、センサ、システム、サービスのすべての分野で、増収となりました。
 2019年3月期決算では、受注高は122億8700万円(前連結会計年度比8・9%増)、売上高は117億1500万円(同7・0%増)、営業利益は4億1900万円(同65・4%増)、経常利益は4億9700万円(同75・3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は4億7200万円(同284・5%増)となりました。

◎新中期経営計画を遂行

昨年の3月に、中期経営計画(ADVANCE2018)が終了し、新たに2018年4月1日〜2021年3月31日を対象期間とする、新中期経営計画(ADVANCE2・0―2021)を策定しました。

■ADVANCE2018で大きな成果

ADVANCE2018では、次のような戦略を実行しました。
 情報化社会に向けて、社内の基幹システムを全面的に更新しました。
 また、電子部品の生産拠点である子会社の宮崎オーバルの工場を新設しました。
 北米市場を強化するために米国のキャメロン社(Cameron International Corporation)とコリオリ流量計の供給に関わる提携を開始しました。さらに、この事業を推進し、かつ、米国、カナダ、中南米等の市場開拓を目的として、テキサス州ヒューストンに、子会社「OVAL Corporation of America」を設立しました。

■新中期経営計画(ADVANCE2・0―2021)を策定

これらの前中期経営計画で実施した戦略の成果を確実に刈り取ることを目的として、新たに、「ADVANCE2・0―2021」を策定しました。これにより、収益の向上と安定的な成長が望める企業体質の構築を目指しています。

■経営指標

経営指標としては、2021年3月期で、売上高140億円、海外売上高35億円、海外売上比率25%、売上高営業利益率7%、ROE4%を掲げています。

■拡大戦略を進める

収益性の向上を目指し、業務の効率化、経費削減等に取り組む一方、新製品、グローバル化、そして新規事業の拡大戦略を進めていきます。

■新製品開発


 既存製品のリニューアルと共に、特に主力製品であるコリオリ流量計の高機能化と、次の柱となる超音波流量計の開発を進め、ラインナップの拡充によるシェア拡大をめざします。

■グローバル化めざし海外拠点を強化

特に3つの海外拠点を強化していきます。
 1つは中国です。当社は中国安徽省に合肥オーバルという生産拠点があります。今までは、コストダウン拠点として生産製品のほとんどは日本向けでした。
 昨今は、コストダウン拠点としての意義は薄れてきている背景から、さらなる成長が期待される中国市場に向けて拡販することに取り組んでいます。
 そのため、これまで別会社であった製造会社と販売会社を合併し、新たな合肥オーバルとして再スタートしました。
 まずは蘇州に営業所を開設しましたが、今後も営業拠点を増やして、中国市場への体制を強化していきます。
 2つめは東南アジアです。シンガポールの子会社(OVAL ASIA PACIFIC PTE.LTD.)は前述のとおり厳しい経営環境でしたが、市場環境の好転や、工場移転等のリストラ効果もあって今期は復調しました。
 引き続き、シンガポールを中心に東南アジア、中近東のOil&Gas市場のシステムビジネスを積極的に展開していきます。
 3つめは米国市場です。
 キャメロン社との提携を中心に米国市場を侵攻していきます。
 キャメロン社が得意とするシェールガス、シェールオイル市場も復活の兆しが見られ期待しています。
 このように、グローバル化に関しては、特に中国市場、東南アジア市場、米国市場をにらんだ取り組みを進めていきます。

■M&Aを積極的に進める

拡大戦略として、われわれの身の丈に合ったM&Aを積極的に進めていきます。

■横河電機の樹脂型渦流量計事業を取得

その1つとして、横河電機の樹脂型渦流量計事業を取得し、2019年4月から正式にスタートしました。
 本製品は半導体市場向けで、当社にとっては全くの新市場となります。本製品は、小型軽量で、信頼性、耐久性、保守性等に優れており、大手半導体向け機器メーカー等のお客様から高い評価を得ています。
 当社は、この製品を中心として、半導体市場の拡大に取り組んでいきます。
 今後もチャンスがあれば本業の範囲内でのM&Aを進めていきます。

■半導体分野への進出に力入れる

−−半導体分野への進出にも力をいれるということですね。
 方針は2つあります。現在は、流量計単品を納入するという段階ですが、ビジネス規模を拡大するために、それをシステム製品に広げていく戦略があります。
 もう1つは、この事業で得た新たなネットワークで、他の製品も半導体市場に幅広く販売していくことです。

■薬品分野、食品分野へも

これまで市場開拓が遅れていた薬品、食品分野へも力を注いでいきます。
 食品専用の流量計もありますが、それ以外でも環境やエネルギー管理の用途でも需要があると思います。
 また、薬品業界は厳しい品質管理を背景に、JCSS等の信頼性に関わる要求も高まっています。

◎センサ事業の伸展はかる


 

■三大センサ

当社は、計測原理別に7種類の流量計を扱っています。
 特に、社名でもあるオーバル流量計等の容積流量計、コリオリ流量計、渦流量計の3機種は、当社の流量計売上の約95%を占める三大主力製品です。

■コリオリ流量計が伸びている

この中でも近年は特にコリオリ流量計が伸びています。
 コリオリ流量計は、「質量」を直接計測する質量流量計で、世界市場も拡大しています。当社も、コリオリ流量計の研究開発に注力し、口径ラインナップの拡充や、機能向上、防爆等海外規格の取得などを積極的に進めています。

■自己診断機能

最近注目しているのが、自己診断機能等「機能安全」といった新たな考え方です。
 「自己診断」も、これまでの故障アラーム等から、故障の兆候を察して予知する、より高度な機能への要求が高まっています。
 各事業において、AI、IoTの活用が進み、膨大なプロセスデータが必要となり、その情報の検出端であるセンサーの重要性がより高まることが想定されます。
 われわれは自己診断機能の強化等、より信頼性の高い流量計を供給しなければなりません。

■新しいサービスの提案

さらに消費者ニーズが「モノ」から「コト」重視に変わってきている中で、当社も流量計の供給のみならず、流体計測制御に係わる新たなサービス、ソリューションを提供する必要があると考えています。

■生産の効率化を追求

実直に生産の効率化にも力を入れていきます。例えば主力製品に関しては、品質、価格、納期等の国際的競争力を強化するため、工程の自動化等の設備投資を計画しています。

■4本目の柱のマルチパス超音波流量計

先ほど当社の三大主力製品の話をしましたが、超音波流量計を4本目の柱と位置付けています。
 超音波流量計にもいろいろな種類、用途がありますが、当社が得意としているのは、取引等に用いられる大容量、高精度のマルチパス超音波流量計です。
 天然ガス用と石油用をラインナップしていますが、環境問題や自由化等を背景とした天然ガスの需要増と共に、天然ガス用の超音波流量計が軌道に乗り始めています。

◎JCSSの進展に努力

■石油、水、気体の3分野で取得

国家計量標準にトレーサブルであるJCSS(計量法登録校正事業者制度)に関して、当社は、石油、水、気体の3つの分野でJCSS登録校正事業者になっています。
 これは計量法に基づく校正事業者登録制度で、計量法関連法規およびISO/IEC17025(JIS Q17025)の要求事項に基づいて校正を実施する技術能力を持っていることを、製品評価技術基盤機構(NITE)理事長名で登録する制度です。
 JCSSは、信頼性のある計測の国家計量標準へのトレーサビリティを確保することで、様々な試験・校正結果の信頼性を根幹から支えるという非常に重要な役割を担っています。

■3分野すべての登録は唯一

当社は石油、水、気体の3分野でJCSS登録を有する唯一の事業者で、とくに石油流量は最大規模を誇ります。
 今後は、自社製品のみならず、他社の流量計のJCSS校正も視野に入れています。
まだその数は多くありませんが、薬品会社等からの需要は増加しつつあります。

■自動車業界でもJCSSを使う動き


 自動車業界でもJCSSが浸透しはじめた動きがあり、期待しています。
 IATF16949(自動車産業品質マネジメントシステム)の指針に、「外部試験所の満たす要件として、ISO/IEC17025またはこれと同等の国内基準に認定されていること」という規定があり、JCSS登録校正事業者はこれに該当することになります。
 当社にはJCSS関係を含め各種校正装置がありますが、収益性を向上させ、かつ社会に貢献するためには、当社ならではの付加価値を生むこれらの設備をフル稼働させることが重要と考えています。

◎水素社会への取り組み

■脱石油の取り組み

ここ2〜3年、石油市場での売上は、安全に係わる投資と、老朽化した設備の更新、統廃合により堅調ですが、中長期的には縮小方向になると想定されています。

■水素用の流量計

石油から天然ガスへ、また水素などの新エネルギーへの流れは進んでいます。
 当社も燃料電池自動車用水素ディスペンサーの超高圧のコリオリ流量計を製造しています。燃料電池自動車の普及は不透明ですが、例えば風力、太陽光等の再生可能エネルギーのベース電源としての燃料電池の技術は将来に向けて可能性があると考えています。
 長期的に見れば水素社会に向かっていくことは間違いないと考えており、水素用の流量計は戦略製品と位置付けています。

■水素脆性に強い

軽い水素は流量計にとっては計測しにくい物質です。また、金属が脆くなる水素脆性という難題もあり、材料選定にも苦労しています。

■防爆でも強み

水素防爆は規制も厳しく技術的にハードルが高いですが、当社は各種製品で水素防爆仕様に対応しています。

◎早くから働き方改革をすすめている

−−オーバルにおける働き方改革についてお聞かせください。

■過重労働の防止

現在、働き方改革がさかんに言われていますが、当社は、早くから過重労働の防止に取り組んでいます。
 工場では、生産が月末や期末に集中し、特に最終工程である検査部門に負担が偏り易いリスクがあります。
 これに対して、柔軟な人員配置、ストック等による生産の平準化を工夫すると共に、作業の自動化を進めています。
 また、時間外の入門の制限、ノー残業デーの実施等、残業の管理を強化しています。
 一方、有給休暇取得奨励日の設定等、有給休暇を取りやすくする社内の雰囲気の醸成にも努めています。

■メンタルヘルスの強化

また社内では、産業医の指導のもと、メンタルヘルスの強化に取り組んでいます。
 さらに、今後は介護や子育てを配慮したテレワーク等にも取り組んでいきます。
 人事評価制度も、勤務時間の重視から成果主義にシフトしています。

■人材の多様な活用

人材の多様な活用、ダイバーシティの面では、女性の活用に取り組んでいます。当社は以前より、評価や処遇、昇進等において、男女の差は一切設けておりませんが、さらに、妊娠中や育児中の配慮を規定し支援しています。
 働き方改革のなかで社員のやる気をどう活かすかということに留意しています。また外国人の社員も近年増えてきています。

(おわり)

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