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 計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー>矢野耕也

日本計量新報 2011年10月9日 (2889号)掲載

重さを測定せずに重さを量る(2)

日本大学教授 矢野耕也

矢野耕也薬の品質は薬効を中心に様々なものがあるが、基本的には成分の含有量であり、質量測定のための秤は不可欠な存在である。落語では「どんな疾患にも処方してごまかしてしまう藪医者」と揶揄される葛根湯は、1回分にカッコン(葛の根)とかショウキョウ(生姜)など7種類が、それぞれあるグラム数で含まれているが、さらには乳糖水和物(要するに粉ミルク)や乳化剤、金属石鹸などの賦形剤も含まれている。何気なく普段飲んでいる薬の中身は肝心な成分は意外と少なく、他は薬を形作るための「つなぎ」(賦形剤と呼ばれる)のようなもので出来ているのが普通であり、自分も退職寸前まで薬包紙に薬匙で粉を載せて精密天秤でそれらを秤量していた。

 現代の直示天秤は非常に精度が高いが、これが意外と曲者であった。夏に測定を行うと、匙で原薬を載せている間に吸湿してどんどん質量が増加してしまうので、秤量関係の試験はなるべく冬に行うとか、雨の日は避けるとか、まるで農家のおじさんが空模様を見て判断するような感じで、天秤の精度に反比例するような裏技でクリアすることも結構あった。天秤の機嫌が悪いのか、秤量値が一向に安定しない時、「希望の値を念じてカウンターが近くになった瞬間にボタンを押せばよい」とかいう人もいたが、秤量だけで半日潰れる日もあったものである。このように含有量=成分=効き目ということでうるさく言われているため、天秤による測定は結構行われている。

 今でこそ天秤の校正は自動補正機構が大抵付属しているが、1995年くらいまではさる大手秤量器メーカーを退職した人が、嘱託みたいな形で校正の仕事を請け負っていたケースがあった。
 研究所、工場含め1000台近くはある天秤を、たった一人で一台一台黙々と標準分銅を抱えて社内巡業をしていたが、不景気が進んで人件費の問題から頼めなくなり、自分たちで校正ができなければということで、若手社員で計量士の資格を取ろうなどという動きもあった(因みにその時の合格者はたった1名)。このように天秤との付き合いも長いが、前回述べた液体クロマトグラフィーは、マイクログラム単位で100種類くらいちゃんぽんになっていても、分離条件さえ良ければ感度も分解能も高い正確な分析ができ、今では結構何でも測れるような所があるが、弱点がないわけではない。

 質量のように直接測るわけではなく、紫外線の吸収の程度とかを頼りに測定をするため、そういった代用特性の性質に依存をしてしまうことから、仮に目的物が大量に含まれていたとしても、それが紫外線に反応してくれないと、含量的には殆どゼロと出てしまうこともないわけではない。
 計測は最近の放射能を引き合いに出すまでもなく、危険度まで測定する尺度になりつつある。最近、痩せ薬で重篤な副作用の危険性が報道されることがあるが、想像もしていない物質のそれも僅か1成分の含有で命を落とすことにもなるのだから、分析や秤量の重要性は精度だけでなく、いかに色々なものが測れるかも課題になってくるであろう。(生産工学部マネジメント工学科、品質工学会理事)

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