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日本計量新報 2016年4月3日 (3098号)

孫正義、スティーブ・ジョブズ、早川徳治、松下幸之助の発想と行動

こころざしの高い二人の英雄が駆け出しのころに出会った人がいた。一人は19歳で少年の面影を残していた。風呂敷に包んだ翻訳機を買ってくれと持ち込んできた。潜在的な能力とビジネスの可能性に賭けてその翻訳機を1億円で買った。1978年のことである。もう一人との出会いは1985年のことであった。ヒッピーの格好をしたその男は日本で今流行っているのは何かと聞いてきた。ウォークマンだと答えた。その男はスマホの原型のようなアイディアをもっていて、知らされたウォークマンを研究した。

一人目の男は孫正義氏であり、もう一人の男はスティーブ・ジョブズ氏である。スティーブ・ジョブズ氏はアップル社の共同創業者と喧嘩別れをしていた。この二人とはすでに米国で面識があって、上のことは日本での出来事である。この二人と縁があったのは佐々木正氏である。1938年に京都帝国大学工学部を卒業した佐々木正氏は戦闘機の紫電改をつくっていた川西機械製作所に勤務。ドイツに渡りレーダーを研究した。川西機械製作所の衡機部は現在の大和製衡である。佐々木氏は誘われてシャープに移っていて孫氏と面会したのは技術本部長兼中央研究所長のときであり、ジョブス氏と面会したときは東京支社長であった。佐々木氏は産業機器事業部長、専務、副社長を歴任した。

佐々木正氏は超小型電卓の開発を牽引した人である。1985年に「これからはネットワークの時代になるからポータブル性のあるIT機器が求められるようになる」とジョブス氏に話す。IT機器はポケットに入るものが主流になると予測したのだ。アップル社に復帰したジョブス氏の快進撃がしばらくして始まる。日本のお株を奪う小型IT機器を世に送り出す。スマホとタブレット端末の隆盛のヒントを日本で得てその後に驀進した。ソフトバンクの孫正義氏は通信インフラ分野で大躍進し、NTTの向こうを張る。関連のビジネスの成功もすごい。佐々木正氏が言う。「自社や自国のことばかりを考えていたら、電子産業は発展しない。少しかかわりがあったジョブズ氏の成功はうれしい」。

そして次のようなことも言う。「いい商売のアイデアがあっても、どこでも儲かるかといったらそうではない。場がないといかん」「人間には、おのおの持ち場があるということですよ。自分に適した土地かどうかを見る、生きる勘をまず持たないと駄目ですわ」。

 佐々木正氏が仕事の場としたシャープは早川徳次氏が創業した会社である。東京都墨田区石原の金属<RUBY CHAR="細工","さいく">業である<RUBY CHAR="錺屋","かざりや">職人であった早川徳次氏はベルトのバックルを考案し事業に成功する。その後、水道自在器(蛇口:5号巻島式水道自在器)を発明して特許を取得し、この事業も成功させる。つづいてセルロイド製で非常に壊れやすい繰出鉛筆の内部機構に真鍮の一枚板の部品を使用したシャープペンシル「早川式繰出鉛筆」をつくりだした。1923(大正12)年には従業員は200名を超え月売上高は5万円であった。関東大震災が契機になって大阪で事業を始める。

孫正義氏、スティーブ・ジョブズ氏、佐々木正氏の縁についてふれた。シャープの創業者早川徳治氏の行動は松下幸之助氏に通じる。家電、電機、重電といった言い方をされる日本の電気機器メーカーの日立製作所は関連企業を含めると32万人もの従業員がいる。パナソニック、東芝、ソニーといった家電大手が日本の産業に占める比率は高く、自動車産業につづく基幹産業である。上に名前をあげた企業は業績不振に苦しんできて、今なお苦しんでいるところもある。

シャープは数千億円の赤字を出し、身売りにまで追い詰められている。「克日」を旗印にする韓国のサムソンは過去最高の24千億円もの営業利益をだしている。これが今日の日韓の家電メーカーの力関係だ。そうなったのは何故なのか。答えは心の在り方ではないのか。

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