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日本計量新報 2015年7月12日 (3064号)

計測はユーザーが成し計測器はユーザーのためにある

現代を生きる真面目な人ほどテレビとラジオが流すニュースに強く影響され、いま大事なことは報道されたニュースの内容だと思い込む。政治、経済、社会、生活、スポーツといった分野をわずか5分か15分で語るニュースは物事の本質に触れない皮相であることが多い。円の価格は幾らだと円安を報じ、株価が幾らだと騒ぐ。円の価格も株価も毎日値が付いておりそれは小波のように動き、時には大波になるが、テレビは何が大事であるか知らないのでバブルになればなった後で大騒ぎをし、デフレがつづく現状をまともな形では把握できない。このようなことだから、円価格と株価を日々報道することで経済の動きを伝えたことにするという狡(ずる)い態度で通すことになる。そのようにして伝えられるわずかな情報によって人々の政治や社会などの物事への理解が形成される。
 自動車を買うということが普通になされる社会になった。どの車がどのような機能を持ち、どのような性能であるかということを、いまの人々はよく知っている。日常の生活に自転車の延長として使うには軽自動車で十分である。人が5人乗って荷物を沢山積んでの旅行に使う車は、その積載物の重量に負けない足回りでなければならない。車高が落ちてバネの力が働かない状態で旅行している車は雰囲気に影響されて購入した間違いの結果である。
 『間違いだらけのクルマ選び』によって自動車評論の草分けとなった徳大寺有恒氏はフォルクスワーゲンのゴルフを基準にして、日本の車を評価した。200万円の車を買う人が1200円ほどの図書を読むことによって予断を修正できるのであれば安い。徳大寺有恒氏は加入していたAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)から追放されたのに対し脱会で応じ、その後に車評論の新しい在り方をつくりだした。『間違いだらけのクルマ選び』は、1976(昭和51)年に最初の版が発売され77万部が売れた。同氏は車に関係する図書をいくつも刊行しており『ああ、人生グランド・ツーリング』を車好きの直木賞作家が絶賛する。
 カメラ評論の分野では徳大寺有恒氏のような人物は登場していない。ジャーナリズムという身内から干されると似たような境遇にあったのがサンダー平山こと平山真人氏である。同氏はコマーシャルやファッション分野の写真家として活躍しながら写真雑誌でカメラ評論をしていたが、あるフィルムカメラの接眼窓が壊れやすいことを指摘した記事を掲載。この掟破りによってカメラ雑誌のカメラテスターの地位を失った。徳大寺有恒氏は先に亡くなり平山真人氏はそれより先に他界した。
 自動車は日本の基幹産業になり、デジタルカメラ産業は日本の独占といってよい状態にある。JISなどの規格に従って製品の性能表示がなされている。それによりその製品がよい商品であることにはならない。使い手の要求を満足する耐久力を備えているか、安全であるか、使う喜びを感情の分野でも満足させることができるかといったことまでは商品説明のカタログなどには書かれていない。製作する者が思いもしなかったことが起こるとリコールになるのが自動車である。思いもしない故障が起きないようにするのが設計であり製作であり関連する管理なのだが、そこからも漏れがでる。
 計測器はユーザーのためにある。計測をするための器具、機械、装置が計測器であり計量器である。何を測るかということがあり、測りたいようにみえていてもその部分は測らなくてもよいことがある。どこを測り、どの要素を測り、それによって製品やサービスをつくりだす。計測器が先にあるのではなく、測りたいことが先にあり、その測りたいことにあわせて計測器を用意するのが順序だ。現実は測りたいことを充足する計測器を選定する。計測器のメーカーの立場からはこれまで測れなかった事柄や要素などを測れるようにする。おおよそを測るということから精密に測ることへの移行。安く測れるようにするために安い価格で提供する。踏んでも蹴っても壊れない計測器をつくる。そうしたことが模索され実行される。
 使う人のために計測器があり、計測の主体は使用者である。新しいことをするために新しい計測をしなければならないことが多い。先端科学や先端技術の開発分野でそのようなことが起こる。既存の計測器を上手に使うことを前提にして、それで賄えない分野は新しい計測手法と計測器で対応するという考えを普通に持つことが大事だ。計測器の評価手法の技術開発は重要な分野である。これには矢野宏氏が取り組み、関係する人々が実験をし、成果を得ている。
 計測はユーザーがするものであり、計測器はユーザーの持ち物であり、ユーザーのためにあるものである。そうしてみると計測器の評価技術がユーザーの側に備わることがのぞましい。2000円ですむ計測分野に20万円の計測器を選定して使っている事例がある。測っていても意味がない部分を測っていることもある。1点を測っていれば測定の要素はそれで充足されるのに100点もの測定箇所を設定していることもある。

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